「2型糖尿病」発症リスク、中等度~強度の運動で最大74%低く シドニー大学らの研究グループが発表
オーストラリアのシドニー大学らの国際研究グループは、「1日に最高1時間、適度~激しい強度の運動をした人は、運動をしなかった人と比較して、2型糖尿病を発症するリスクが最大74%低くなる」と発表しました。この内容について中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
オーストラリアのシドニー大学らの国際研究グループが発表した内容について教えてください。
中路先生
今回紹介するのは、オーストラリアのシドニー大学らの国際研究グループが実施した研究で、スポーツ医学の専門誌「British Journal of Sports Medicine」に掲載されました。
研究グループは、遺伝や環境が疾患に与える影響を調査する「UK Biobank」の参加者5万9325人を対象に、身体活動と2型糖尿病発症との関連性を検討しました。その結果 、追跡期間の中央値6.8年で、中等度~強度の身体活動と2型糖尿病との間に関係性が認められました。5.3~25.9分/日の運動は0.63、26.0~68.4分/日は0.41、68.4分/日以上は0.26となり、身体活動指標と遺伝的リスクとの間に有意な乗法的相互作用は認められませんでしたが、MVPA(中高強度身体活動)と遺伝的リスクスコアとの間に有意な加法的相互作用が認められ、遺伝的リスクが高い人ほどMVPAレベルによる大きな絶対的リスク差が示唆されました。
研究グループは「中等度~強度の身体活動は、特に2型糖尿病の遺伝的リスクが高い人において促進されるべきである。その有益性には、最小または最大の閾値はないかもしれない。この知見は、今後のガイドラインの作成や2型糖尿病予防のための介入に役立つであろう」とコメントしています。
2型糖尿病とは?
オーストラリアのシドニー大学らの国際研究グループの研究紹介でも話題になった2型糖尿病について教えてください。
中路先生
2型糖尿病は糖尿病患者の中で最も多いタイプです。遺伝的な理由によるインスリンの分泌能力低下に加えて、環境的素因としての生活習慣の悪化に伴うインスリン抵抗性が起こり、インスリンが相対的に不足した場合に発症します。2型糖尿病患者は糖尿病になりやすい遺伝的な理由を持っているとも言えます。
ゲノム解析では2型糖尿病の要因となる多くの遺伝子が報告されており、中でも「KCNQ1」という遺伝子は日本人の2型糖尿病発症に非常に強く関連していることがわかっています。2型糖尿病の治療方法は、インスリン療法やインスリン以外の薬物療法、GLP-1受容体作動薬という注射薬などが使用されています。
今回の発表内容への受け止めは?
オーストラリアのシドニー大学らの国際研究グループが発表した内容の受け止めを教えてください。
中路先生
これまで、「運動が2型糖尿病の発症のリスクを低減する」という研究はありました。しかし、いずれも症例数が少なく、また運動といってもどの程度の強度の運動がリスクを低減できるかの比較検討をした研究はあまりありませんでした。今回の研究は既存の大規模研究のデータを使った解析であることなどの限界はありますが、多数例において「糖尿病の家族歴などの遺伝的リスクのある人たちが、中程度の運動をすることで糖尿病の発症を回避できる可能性があることを示唆した研究」として評価されると考えます。
中程度の運動とは、少しきつめの「汗をかいて、息が弾む程度の運動」です。これまで運動をせずに過ごしてきた人も、運動をはじめるのに遅すぎるということはありません。ただし、高齢者や心疾患のある人などは無理せずに、どの程度の運動が許容されるかをかかりつけ医に相談してみてください。
まとめ
オーストラリアのシドニー大学らの国際研究グループは、「1日に最高1時間、適度~激しい強度の運動をした人は、運動をしなかった人と比較して、2型糖尿病を発症するリスクが最大74%低くなる」と発表しました。糖尿病患者は日本にも多くいるため、今回の情報は予防・改善につながりそうです。