「歯周病があるとインフルエンザに感染しやすくなる」意外な関係が研究で明らかに
日本大学の研究グループは、歯周病細菌「ポルフィロモナス・ジンジバリス」がA型インフルエンザの感染性を高めるという仕組みを明らかにしました。研究結果は、学術誌「Journal of Biological Chemistry」に掲載されています。この内容について五藤医師に伺いました。
監修医師:
五藤 良将(医師)
日本大学の研究グループが発表した内容とは?
日本大学の研究グループが発表した研究の内容を教えてください。
今回紹介する研究報告は、歯周病細菌のポルフィロモナス・ジンジバリスがA型インフルエンザの感染性を高めることを明らかにしたという内容です。この研究では、特にポルフィロモナス・ジンジバリスが分泌する「ジンジパイン」と呼ばれる酵素に注目し、その酵素がウイルス表面タンパク質であるヘマグルチニン(HA)を切断することで、ウイルスの感染力を活性化するかどうかを調べました。
インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染する際、ヘマグルチニンの切断が非常に重要です。研究でポルフィロモナス・ジンジバリスの培養液をウイルスに加えた結果、ウイルスが細胞から多く放出され、感染が広がりやすくなることが確認されました。この効果は、ジンジパインの一種である「アルギニン特異的ジンジパイン」によるものでした。アルギニン特異的ジンジパインがヘマグルチニンを切断することで、ウイルスの感染性が高まったのです。
この研究は、口腔衛生の改善がインフルエンザ予防に役立つ可能性を示す新しい発見となりました。しかし、この研究は主に犬腎由来のMDCK細胞を用いておこなわれており、ヒトの気道上皮細胞や動物モデルを使った追加の検証が必要です。また、ほかの細菌や炎症因子との相互作用についても、さらなる研究が求められます。
研究内容への受け止めは?
日本大学の研究グループが発表した研究の内容への受け止めを教えてください。
本研究は非常に興味深く、歯周病細菌がただの口腔内の問題にとどまらず、全身の感染症にも影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。特にインフルエンザウイルスとの関連を示すこの発見は、口腔衛生が全身の健康に与える影響の大きさを再認識させるものです。今後、この研究結果をもとに、より具体的な予防策や治療法が開発されることを期待しています。また、このような研究は公衆衛生の観点からも非常に重要であり、インフルエンザだけでなくほかの呼吸器感染症への応用も考えられます。
今後どのように活用できる?
今回紹介していただいた研究結果は、どのようなことに活用できるものでしょうか?
この研究の成果は、口腔衛生を改善することでインフルエンザ感染リスクを低減できる可能性を示しています。特に高齢者や免疫力が低下している人々に対して、歯周病細菌のポルフィロモナス・ジンジバリスの抑制が重要となるでしょう。具体的には、歯周病治療やプロフェッショナルな口腔ケアがインフルエンザ予防の補完的手段として活用される可能性があります。また、ジンジパインを標的とした薬剤の開発が進めば、ウイルス感染拡大を抑える新たな治療法として期待されます。さらに、インフルエンザウイルスと細菌の相互作用に基づいた予防戦略を構築することで、公衆衛生分野での感染症管理に貢献できる可能性もあるでしょう。
編集部まとめ
今回の研究は、歯周病細菌のポルフィロモナス・ジンジバリスがA型インフルエンザの感染性を高める仕組みを解明した発見です。この発見は、インフルエンザ予防や感染症対策における新しい視点を提供するものです。特に口腔衛生の改善がウイルス感染リスクの低減に役立つ可能性を示しており、高齢者や免疫力が低下している人々への応用が期待されています。今回の研究は、口腔ケアが全身の健康に与える影響を示す新たな科学的根拠となり、今後の公衆衛生対策への貢献が期待できるでしょう。