成人の「2型糖尿病」発症リスクは“幼少期の砂糖の摂取量”で決まる 研究で明らかに
アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループは、「第二次世界大戦下で食糧が配給制になっていたイギリスで、妊娠中を含めた最初の1000日間の砂糖の配給がなかった場合、2型糖尿病の発症リスクが平均35%低くなった」という研究結果を発表しました。この内容について久高医師に伺いました。
監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループが発表した内容を教えてください。
久高先生
今回紹介する研究報告は、アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループによるもので、研究成果は学術誌「Science」に掲載されています。
研究グループはUKバイオバンクに登録されたデータから、1951~1956年に生まれた6万183人のデータを抽出しました。イギリスは第二次世界大戦下で食料の配給制を導入していていましたが、今回の研究の対象期間は、この配給制が廃止される前後にまたがった期間となります。配給による砂糖の配給量は、成人で1日40g未満、2歳未満の子どもは0gでした。
研究グループが、胎児期から幼少期の配給制の有無と成人後の健康状態の関係を調べたところ、妊娠から生後2年間の約1000日にわたって砂糖が配給制だった子どもは、成人になってから2型糖尿病を発症するリスクが平均35%低く、高血圧の発症リスクも約20%低いことがわかりました。また、2型糖尿病の発症時期が約4年、高血圧の発症時期が約2年遅くなる傾向にあることも明らかになりました。
研究グループは、今回得られた結果について「母親の砂糖を多く含む食事は、胎児プログラミングのような要因を通じて、子どもの肥満や代謝障害のリスクを高める可能性がある」と述べています。また、研究によると「ほとんどの人間は甘いものを好むが、幼少期に砂糖を大量に摂取すると、その傾向が強まるかもしれない」とも言及しています。さらに、幼少期の砂糖摂取を控えることについては「子どもたちに、人生で最高のスタートを切らせるための強力な一歩」であるという考えを示しています。
2型糖尿病とは?
アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループによると、妊娠中を含めた最初の1000日間の砂糖の配給がなかった場合、2型糖尿病の発症リスクが平均35%低くなったとのことですが、2型糖尿病という疾患について教えてください。
久高先生
糖尿病の中でも、患者数が最も多いタイプが2型糖尿病です。遺伝的な理由によるインスリン分泌の能力低下に加えて、生活習慣の悪化に伴うインスリン抵抗性が起こり、インスリンが相対的に不足した場合に発症します。
一般的に生活習慣病と呼ばれる2型糖尿病は、インスリン分泌の能力低下が鍵を握ります。生活習慣の乱れ以外でも、2型糖尿病患者は糖尿病になりやすい遺伝的な理由を持っているとも言えます。ゲノム解析では2型糖尿病の要因となる多くの遺伝子が報告されており、中でも「KCNQ1」という遺伝子は、日本人の2型糖尿病発症に強く関連していることが判明しています。2型糖尿病の治療方法は、インスリン療法やインスリン以外の薬物療法、GLP-1受容体作動薬という注射薬などです。
研究内容への受け止めは?
今回、アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループが発表した内容について、受け止めを教えてください。
久高先生
母親の生活習慣が胎児期の発育環境に影響し、将来の肥満や糖尿病などの代謝異常の罹患率を規定するという「DOHaD仮説」は有名です。エピゲノムとしてその機構も多くの研究で証明されています。今回のように糖の過剰摂取はもちろんですが、反対に母親が飢餓状態を呈した場合も、将来的に子どもの代謝異常などを誘導することも知られているので、適正な食生活が求められます。
まとめ
アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループは、「第二次世界大戦下で食糧が配給制になっていたイギリスで、妊娠中を含めた最初の1000日間の砂糖の配給がなかった場合、2型糖尿病の発症リスクが平均35%低くなった」という研究結果を発表しました。研究グループの1人は、幼少期の砂糖の摂取量を控えることを勧めていますが「実際には幼児向けの食品にも砂糖は含まれており、摂取しないことは難しい」との認識も示しています。