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「PTSD」発症メカニズムを解明! 「治療薬開発の大きな一歩」東大研究チーム発表

 更新日:2024/03/12
PTSDに関連する遺伝子を特定し発症メカニズムを解明

東京大学らによる研究グループは、「PTSDに関係する遺伝子を特定して、発症メカニズムを解明した」と発表しました。この内容について伊藤医師に伺いました。

伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

東京大学らが発表した研究内容とは?

東京大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。

伊藤 有毅 医師伊藤先生

今回紹介する研究は東京大学らの研究グループが実施したもので、学術誌「Molecular Psychiatry」に掲載されています。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)のメカニズムの解明が進んでいない一方で、トラウマ記憶の代表例である恐怖記憶は動物に普遍的に存在しています。研究グループは、齧歯類を中心とした恐怖記憶の研究の成果が、PTSD治療の開発にも応用されていることに着目しました。PTSD患者の血液とPTSD状態のマウスの海馬の遺伝子発現を網羅的に比較し、両方で発現が低下している「PDE4B(ホスホジエステラーゼ4B)」を発見することに成功しました。PDE4Bの発現低下は、cAMP情報伝達経路の活性化を導きます。

PTSD患者ではトラウマ体験の記憶がフラッシュバックや悪夢などの形で意図せずに繰り返し蘇る再体験症状が重いほど、PDE4Bの発現が低くなりました。一方、マウスを用いた光遺伝学と薬理学を用いた解析から、cAMP量を人為的に増加させた場合は、恐怖記憶がより強く思い出され、その後に恐怖記憶がより強固になったことも明らかになりました。

研究グループは今回の成果について、「cAMP情報伝達経路の不活性化を導くことで、PTSDの新規治療薬の開発につながる可能性も示唆されました。本研究の成果により、cAMP情報伝達経路を標的として、PTSDの発症・病態の理解・治療方法開発を進める道が開け、今後のPTSDの治療薬開発が加速することが期待されます」とコメントしています。

PTSDとは?

今回の研究テーマとなったPTSDについて教えてください。

伊藤 有毅 医師伊藤先生

「PTSD:Posttraumatic Stress Disorder(心的外傷後ストレス障害)」とは、生死に関わるような事故や災害、暴力などのトラウマ体験の記憶を原因とする精神疾患です。日本の総人口の1.3%に生じるとされています。

PTSDの症状としては、強い恐怖などの記憶が何度も思い出され、その場に連れ戻されたように感じるフラッシュバックと呼ばれる再体験症状や、ドキドキしたり、物音に驚きやすくなったりする過覚醒症状、事件を思い出させるものに近寄れなくなるなどの回避・麻痺症状があります。また、以前は楽しめていたことが楽しめなくなったり、孤立感が出たりと、気分と認知の陰性変化も出てくる恐れがあります。

「PTSDは3カ月以内に半分以上の患者が自然回復するとされますが、1年以上経っても一定数は自然回復しない」という研究もあります。認知行動療法や薬による治療がおこなわれています。

今回の研究内容への受け止めは?

東京大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。

伊藤 有毅 医師伊藤先生

PTSDには有効な治療薬が少なく、医療現場でも治療に難渋するケースが多々あります。今後の新薬開発に向けて大きな一歩と捉えています。

まとめ

東京大学らによる研究グループは、PTSDに関係する遺伝子を特定して、発症メカニズムを解明したと発表しました。日本人の1.3%に生じるとされるPTSDの発症メカニズムを解明した今回の研究は、大きな注目を集めそうです。

この記事の監修医師