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トラウマの記憶ができる仕組みを解明

 公開日:2023/10/19
トラウマ記憶ができる仕組みが明らかに

大学共同利用機関法人自然科学研究機構の生理学研究所らによる研究グループは、「マウスの脳でトラウマの記憶に関する仕組みの一端を解明した」と発表しました。この内容について中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

研究グループが発表した内容とは?

大学共同利用機関法人自然科学研究機構の生理学研究所らによる研究グループが発表した内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介する研究内容は、学術誌「Nature Communications」に掲載されています。研究グループは、脳の前頭前野に記憶されるトラウマの実態解明に着手するために、マウスを用いて、音・弱い電気刺激による恐怖連合記憶の実験系により研究を進めました。その結果、トラウマを体験した後、新たに生まれるトラウマ記憶の神経細胞ネットワークは、体験によって特定の細胞集団の内部結合が増加することでできていることが明らかになりました。

さらに、このネットワーク構造の変化を詳細に調べたところ、最初は無関係だったトラウマ記憶の引き金となる弱い電気刺激に関連する神経細胞と本来無害な音に関連する神経細胞が、トラウマ体験後に新たな機能的結合を作ることが判明しました。また、弱い電気刺激の神経細胞は、トラウマ記憶ネットワークのハブになるような役割を持つ傾向があることも観察されました。

研究グループはこうした結果から、トラウマ記憶はトラウマ体験に強く活動する細胞を拠点として「経験依存的ハブネットワーク」を形成するとしています。また、PTSDの治療にも使われる消去学習によって恐怖反応が出にくくなったマウスは、こうした神経細胞集団の活動や情報処理が破綻していることも観察されたことから、トラウマ記憶ネットワークの活動や情報処理を抑えることが治療への鍵になることも示唆されたとしています。

今回の研究の背景は?

自然科学研究機構の生理学研究所らによる研究グループが、トラウマの記憶に関する仕組みについて研究に取り組んだ背景を教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

トラウマ記憶に関する研究は、20世紀初頭から活発におこなわれています。トラウマ記憶を制御する脳領域として、大脳皮質の前頭前野の関与が多くの研究により指摘されていたり、近年の研究ではトラウマ記憶が多くの神経細胞の集団によって保持されていたりすることが明らかになっています。「脳の神経細胞は集団でネットワークを作って情報処理をおこなう」と考えられていますが、研究グループはトラウマ記憶を情報処理するような神経細胞ネットワークが本当にあるのかに注目しました。

研究グループは、こうした細胞集団が生み出される仕組みを解明することで、PTSDなどの難治性の精神疾患の治療法開発に新たな突破口をもたらすことを期待しています。

実際に研究グループは報道発表の中で、今回の研究の意義について「記憶が生まれる仕組みは、長年科学者の議論の的となっていましたが、今回、トラウマ記憶の元となる恐怖体験中に強く活動する細胞が、結果として恐怖記憶の神経細胞ネットワークのハブのようになる経験依存的なハブネットワーク形成が観察されました。こうした細胞が恐怖記憶ネットワークの中心にいるということは、将来、その細胞の働きを抑えることができればPTSDなどトラウマ記憶による弊害を緩和することができるかもしれません。また、開発したネットワーク評価法は、精神疾患治療薬効果の新指標となる可能性があります」とコメントしています。

今回の発表内容への受け止めは?

自然科学研究機構の生理学研究所らによる研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回の研究は、トラウマが生まれる仕組みの責任部位である前頭前野にフォーカスして、AIを駆使して解析したもので大変興味深い研究であると考えます。従来法では、前頭前野がほかの多くの脳機能を制御しているため解析が困難でした。今回の解析は機械学習によるものでしたが、今後さらに進化したAI(ディープラーニング:深層学習)での検討なども期待されます。

まとめ

大学共同利用機関法人自然科学研究機構の生理学研究所らによる研究グループは、「マウスの脳でトラウマの記憶に関する仕組みの一端を解明した」と発表しました。研究が進み、将来的にはPTSDなどのトラウマ記憶による弊害を緩和できる可能性があるので期待が集まります。

この記事の監修医師