「予期せぬ妊娠」で父親になる男性、うつ病・育児ストレスなどのリスク上昇
オーストラリアのディーキン大学らの研究グループは、「予期せぬ妊娠により父親となった男性は、予定された妊娠により父親となった男性と比べて、メンタルヘルスの問題が発生しやすくなる」という研究結果を発表しました。この内容について馬場医師に伺いました。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
研究グループが発表した内容とは?
今回、オーストラリアのディーキン大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
馬場先生
今回紹介するのはオーストラリアのディーキン大学らの研究グループが実施した研究で、予期せぬ妊娠により父親となった男性と、予定された妊娠により父親となった男性のメンタルヘルスを比較しています。研究グループは、生後36カ月までの子を持つ父親8085例のメンタルヘルスを評価した研究23件を特定し、ランダム効果モデルによるメタ解析に組み入れました。
評価対象のうつ病、不安、ストレス、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、アルコール乱用、育児ストレス、うつ病と不安の複合を全て合わせた、なんらかのメンタルヘルスの問題が発生するリスクは、予定された妊娠により父親となった男性と比べて予期せぬ妊娠により父親となった男性でオッズ比が2.28と有意に高くなりました。また、うつ病に限定した解析でも、予期せぬ妊娠によって父親になった男性はオッズ比が2.36と有意なリスク上昇が認められました。
研究グループは別の論文での調査で、「予期せぬ妊娠により母親になった女性が、予定された妊娠により母親になった女性と比べてうつ病リスクのオッズ比が1.53になったことを挙げ、この論文のオッズ比と比べると、母親よりも父親の方が予期せぬ妊娠によるうつ病リスクが高くなる」と示唆しています。また、「父親のメンタルヘルスは母親のメンタルヘルスやパートナーとの関係、親子の絆、子の発達にも影響を及ぼすにもかかわらず、大部分の国では男性を対象にしたルーチンの周産期うつ病スクリーニングはおこなわれていない」と指摘し、「出産前後のメンタルヘルスのスクリーニングは両親ともに必要」と提言しています。
父親のメンタルケアの必要性は?
今回の論文で触れている父親に対するメンタルケアの必要性について教えてください。
馬場先生
父親へのメンタルケアについては、日本産婦人科医会が2023年3月から5月にかけて、周産期センターや分娩を取り扱う病院・診療所合わせて2073施設を対象に実施した「妊産婦メンタルヘルスケア推進に関するアンケート」で触れられています。このうち1398施設から回答がありました。
「父親やパートナーへのメンタルヘルスケアを産婦人科でおこなう必要があると感じるか」という質問に対して回答があった1398施設のうち、17.0%が「とても感じている」と答え、51.4%が「やや感じている」と回答しました。「父親やパートナーへのメンタルヘルスケアを産婦人科でおこなう必要がある」と感じているのは全体の7割近くを占めています。一方、24.2%は「あまり感じていない」、5.4%は「感じていない」と回答しています。
日本産婦人科医会の星真一幹事は12日の記者懇談会で、「産後うつは、かつては女性が中心だったが、近年は父親もなるという報告がいくつかあり、無視できない」と述べています。
発表内容の受け止めは?
オーストラリアのディーキン大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
馬場先生
今回の研究内容を踏まえて、出産前後のメンタルヘルスのスクリーニングやメンタルケアは母親だけでなく父親にも必要であると考えられます。予期せぬ妊娠によって母親だけでなく、父親にもメンタル問題のリスクを高めます。予期せぬ妊娠を防ぐための避妊法に関する知識・家族計画などの啓発活動・教育活動も重要であると言えるでしょう。
今回は子どもを持つ父親を対象とした研究内容の分析ですが、予期せぬ妊娠をして中絶を選択された場合の男性側のメンタル問題のリスクも興味があります。近年の少子化の流れから、妊娠・出産が当たり前ではなく、珍しいものになりつつあります。妊娠や出産・子育てに対するハードルが上がれば上がるほど、予期せぬ妊娠へのメンタル問題へのリスクは上昇してくるものと考えられます。子どもを産んで育てやすい環境作りということも、社会全体としての課題となるかと思います。
まとめ
オーストラリアのディーキン大学らの研究グループが、「予期せぬ妊娠により父親となった男性は、予定された妊娠により父親となった男性と比べて、メンタルヘルスの問題が発生しやすくなる」という研究結果を発表したことが今回のニュースでわかりました。日本産婦人科医会も父親へのメンタルケアについて言及しており、今後も重要な論点になりそうです。