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「脳梗塞」の予後、ウエストが太いほど良好 脂肪が機能回復に関与の可能性

 公開日:2024/02/05
ウエスト周囲長が脳梗塞後の機能転帰と関連

製鉄記念八幡病院らの研究グループは、ウエスト周囲長と脳梗塞後の関連性を検討したところ、ウエスト周囲長の長さは良好な機能転帰と独立した関連が見られたということを明らかにしました。この内容について甲斐沼医師に伺いました。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

発表した研究内容とは?

今回、製鉄記念八幡病院らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

製鉄記念八幡病院らの研究グループは、肥満が脳卒中の危険因子であるにも関わらず、脳卒中患者では肥満の方が予後が良いという状況が複数の研究から示唆されていることに注目しました。具体的には、腹部脂肪の指標となるウエスト周囲長と急性虚血性脳卒中、いわゆる脳梗塞後の短期機能転帰および死亡との関連を検討しています。

対象となったのは、福岡県の脳卒中基幹病院7施設による福岡脳卒中データベース研究に2007年6月~2019年9月に登録された急性脳梗塞患者のうち、データが欠けている人などを除いた1万1989人です。対象者は、男女別に入院時に測定したウエスト周囲長で4つのグループに分けています。解析の結果、機能転帰不良の割合はウエスト周囲長が大きいほど減少し、交絡因子を調整後の機能転帰不良のオッズ比は、ウエスト周囲長が2~4番目に長いグループで低くなりました。死亡との関連はBMIを除く交絡因子調整後は有意な関連が見られましたが、BMIを調整後は有意な差が消失したとのことです。

研究グループは「急性脳梗塞患者において、ウエスト周囲長(WC)と短期機能転帰との独立した非線形の関連が示唆された一方で、死亡との関連はなかった。両者の関連は体重やインスリン作用と無関係であり、糖尿病のない患者でのみ認められた。今回の知見は、急性脳梗塞後の機能転帰における脂肪の潜在的役割を検討する上で、腹部脂肪が重要な因子である可能性を示すものである」と結論付けています。また、「腹部脂肪は重症患者において貯蔵エネルギーとして作用し、異化作用に傾いた代謝状態の改善に必要な可能性や、脂肪細胞から分泌される種々のサイトカインが脳梗塞後の炎症に作用し、機能回復に関与する可能性などが報告されており、これらにより説明できるかもしれない」とも指摘しています。

ウエスト周囲長とは?

ウエスト周囲長ついて教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

ウエスト周囲長とは、へその高さで測った腹囲です。ウエスト周囲長を測ることで、内臓脂肪が蓄積しているかがある程度予測することができます。ウエスト周囲長が男性で85cm以上、女性で90cm以上の場合、内臓脂肪の蓄積が疑われます。みなさんも聞いたことがあるメタボリックシンドローム、いわゆるメタボとは、まさにこの状態のことです。ちなみに、肥満は、肥満に伴って生じる糖尿病や高血圧症、脂肪肝、痛風などの改善のために治療の対象となることがありますが、メタボは明確な病気ではなく、病気の予備軍としての意味合いが強くなります。

今回の研究内容への受け止めは?

製鉄記念八幡病院らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

肥満が脳卒中を発症させる危険因子であることは数々の研究で明らかになっていますが、脳卒中患者に限定する中では肥満の方が予後が良好であるという「肥満パラドックス」が過去に示唆されてきました。

これまでに脳卒中発症後の機能的な転帰を鋭敏に反映する肥満関連指標は確立されていませんでしたが、製鉄記念八幡病院の研究グループは、腹部脂肪の指標となるウエスト周囲長(WC)と急性虚血性脳卒中(脳梗塞)発症後の短期機能転帰や死亡率との関連性を検討しました。ウエスト周囲長は、良好な機能転帰と独立した関連がみられたという研究結果から、急性期脳梗塞を発症した後において、腹部の脂肪成分が神経学的な機能予後に影響する重要な因子である可能性が示唆されます。また、腹部の脂肪細胞由来から分泌される数々のサイトカイン性代謝物質が脳梗塞発症後の細胞炎症に作用して、神経学的な機能予後の回復に寄与するとも考えられており、今後さらなる詳細な研究成果が待たれるところです。

まとめ

製鉄記念八幡病院らの研究グループは、ウエスト周囲長と脳梗塞後の関連性を検討したところ、ウエスト周囲長の長さは良好な機能転帰と独立した関連が見られたことを明らかにしました。今後の研究にも注目が集まりそうです。

この記事の監修医師