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心理社会ストレスによる症状、個人差を生み出す脳内メカニズム解明 名古屋市立大

 更新日:2024/02/01
心理社会ストレス症状の個人差に関わる脳内メカニズムを解明

名古屋市立大学らの研究グループは、「マウスを用いた実験で、心理社会的ストレスに晒された際に表れる症状の脳内メカニズムを発見した」と発表しました。この内容について舘野医師に伺いました。

舘野 歩

監修医師
舘野 歩(東京慈恵会医科大学附属病院)

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東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。現在は「東京慈恵会医科大学附属病院」勤務。専門は精神神経科。日本精神神経学会専門医・精神科指導医、日本森田療法学会認定医、精神保健指定医。東京慈恵会医科大学精神医学講座准教授。

発表した研究内容とは?

今回、名古屋市立大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。

舘野 歩 医師舘野先生

名古屋市立大学らの研究グループは、ストレス症状の個人差を生み出す脳内の仕組みについて調べました。研究成果は学術誌「Neuron」に掲載されています。

研究グループは、精神疾患において頻繁に認められる「社会性低下」と、快感が消失した状態の「アンヘドニア」の2つに着目しました。そして、社会性低下とアンヘドニアの有無の組み合わせにより、4パターンのマウスのグループを用意して脳内神経活動を調べました。

その結果、各タイプに特徴的な神経回路の変化が明らかになりました。具体的にみると、社会性低下とアンヘドニアの両方の症状を示すタイプでは、内側前頭前野-視床室傍核の活動が顕著に低下していました。その一方で、社会性低下のみを示すタイプでは内側前頭前野-扁桃体、アンヘドニアのみを示すタイプでは内側前頭前野-側坐核の神経ネットワークの障害が示唆される結果となりました。4つのタイプの中でより症状が重い社会性低下とアンヘドニアの両方の症状を示すタイプについて、変化が明らかになった内側前頭前野-側坐核を活性化したところ、社会性低下とアンヘドニアの2つの症状は消失しました。

さらに、研究グループは、遺伝子発現制御に重要な役割を担うタンパク質「KDM5C」が活性化すると、社会性低下とアンヘドニアの両方の症状を示すタイプに認める行動異常を引き起こすことを突き止めました。KDM5C阻害剤を投与すると、社会性低下とアンヘドニアの両方の症状を示すタイプの割合が顕著に減少しました。

研究の背景とは?

今回の研究が実施された背景について教えてください。

舘野 歩 医師舘野先生

精神疾患は、精神的・肉体的・社会的ストレスにうまく適応できないことで発症します。このストレスを感じる度合いは個人で異なりますし、ストレスによって出てくる症状も個人差があります。ただ、個人差を生み出す脳内の仕組みは今までわかっていませんでした。

ストレスを受けた脳内で起こっている変化を理解することで、適応能力(レジリエンス)を高める方法の開発、うつ病や不安障害などの精神疾患の病態解明や予防、新規治療薬の開発につながると期待されていることから、今回研究グループはテーマとして取り上げました。

研究グループは、心理社会的ストレスに晒された際に表れる症状の個体差を決定する脳内メカニズムを発見しましたが、今後は動物モデルを全脳・全身レベルで詳細に解析することで慢性ストレス状態の行動を規定するメカニズムの解明を目指すとのことです。さらに、ストレスによる疾患の予防・診断・治療法の確立に向けた取り組みを推進していく必要性も訴えています。

今回の研究内容への受け止めは?

名古屋市立大学らによる研究グループが発表した研究内容に対する受け止めを教えてください。

舘野 歩 医師舘野先生

社会性低下とアンヘドニアといった、うつ病や不安障害に出現しそうな症状と脳内メカニズムの関係を動物実験で明らかにしたのは画期的と考えます。特に、内側前頭前野-側坐核を活性化やKDM5C阻害剤といった、従来のうつ病や不安障害に関連していると言われているセロトニンやノルアドレナリンとは違った経路を見出している点が興味深いです。

まとめ

名古屋市立大学らの研究グループは、「マウスを用いた実験で、心理社会的ストレスに晒された際に表れる症状の脳内メカニズムを発見した」と発表しました。ストレス社会と言われるように、現代人には多くの心理的ストレスがかかって心の健康を崩す人が少なくない中、今後の研究にも注目が集まりそうです。

この記事の監修医師