「メンタルが不調な状態」で新型コロナウイルスに感染すると後遺症リスクが増加
ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院の研究グループは、「新型コロナウイルス感染前に抑うつ・不安症状などのメンタルヘルスの不調などがあった患者は、不調がなかった患者と比べて後遺症に伴う日常生活障害のリスクが高かった」という研究結果を学術誌に発表しました。このニュースについて甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループが発表した内容とは?
ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院の研究グループが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回取り上げるのは、ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院の研究グループが発表した研究内容についてです。研究の対象となったのは3193例で、女性が96.4%で平均年齢55.3歳でした。新型コロナウイルスの陽性例の43.9%が後遺症を発症したと回答しました。後遺症として回答が多かったのは、疲労感が56.0%、嗅覚・味覚障害が44.6%、息切れが25.5%、「ブレインフォグ(脳の霧)」と呼ばれる認知障害が24.5%、記憶障害が21.8%でした。
そして、新型コロナウイルスの感染前に心理的苦痛が「全くない」と回答した患者と、「あり」と回答した患者の後遺症発症のリスク比を算出すると、抑うつ症状で1.32、不安症状は1.42、新型コロナに関する心配で1.37、孤独感で1.32といずれも心理的苦痛が「あり」と回答した患者の方が有意にリスクが高くなりました。また、新型コロナウイルス感染前に複数の心理的苦痛を感じていた患者は、「全くない」と回答した患者に比べると49%のリスク上昇が認められました。
研究グループは「新型コロナウイルス感染前の心理的苦痛は、後遺症発症の危険因子である可能性が示唆された。今後の研究で、心理的苦痛と後遺症を関連づけるメカニズムを解明して、苦痛を軽減することが後遺症の予防または治療に有用かどうかを検討すべき」としています。
研究内容への受け止めは?
ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院の研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院の研究グループが今般発表した内容は、新型コロナウイルス感染前に不安感や抑うつ傾向、悩み症状を有する場合、「Long COVID」と呼ばれる長期に渡る後遺症の発症を予測できるかどうかを検証した有意義な研究成果だと考えます。従来の研究では、高齢や肥満、高血圧などの基礎疾患と、新型コロナウイルス感染後に重症化、あるいは後遺症を発症する関連性を中心に解明してきましたが、今回の発表では「心理的症状が疾患の転帰に影響を与えるかどうか」という点に着目しています。今回の研究対象者は医療従事者が多い限られた集団で、いくつかの制約があることは確かですが、この研究結果によって重要な問題が提起されていると感じます。
今後は、さらに新型コロナウイルスの後遺症のリスク要因をより詳細に特定することが期待されるとともに、「新型コロナウイルス罹患前にはストレス要因をできる限り軽減する必要性がある」ということを認識しておくことが重要であると考えます。
新型コロナウイルスの後遺症の現状は?
新型コロナウイルスによる後遺症の現状について教えてください。
甲斐沼先生
厚生労働省が作成した後遺症についての診療の手引きによると、日本における新型コロナウイルスの代表的な後遺症としては、疲労感・倦怠感、関節痛、嗅覚障害、味覚障害、睡眠障害など20の症状が挙げられています。後遺症の頻度と持続期間については、海外での45の報告のレビューから「新型コロナウイルスの診断や発症、入院後2カ月、あるいは退院や回復から1カ月経過した患者の72.5%がなんらかの症状を訴えていた」とされています。最も多い症状は倦怠感で40%、息切れは36%、嗅覚障害は24%、不安は22%、咳は17%、味覚障害は16%、抑うつは15%でした。
まとめ
ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院の研究グループによって「新型コロナウイルス感染前に抑うつ・不安症状などのメンタルヘルスの不調などがあった患者は、不調がなかった患者に比べて後遺症に伴う日常生活障害のリスクが高くなった」ことがわかりました。新型コロナウイルスの後遺症の予防や治療に活用できるのか、今後の追加研究にも注目が集まります。