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新型コロナ感染、軽度でも精子に長期的なダメージ【医師による海外医学論文解説】

 公開日:2023/07/25

欧州ヒト生殖医学会(European Society of Human Reproduction and Embryology:ESHRE)は、新型コロナウイルスに感染した男性は3カ月以上経過しても精子の濃度が低下し、泳ぐことのできる精子も減少していたと、第39回年次総会で新たな知見として発表しました。この研究結果は、2023年6月26日に同学会のプレスリリースで報告されました。こちらの研究報告について村上医師に伺いました。


村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

欧州ヒト生殖医学会が発表した内容とは?

欧州ヒト生殖医学会が発表した内容について教えてください。

村上知彦医師村上先生

欧州ヒト生殖発生学会の発表によると、今回研究を行ったスペインの研究グループは、新型コロナウイルス感染が精子の質の低下にどのような影響を及ぼしたかを調査しました。研究グループは、2020年2月~2022年10月の間に、スペインの6つの生殖クリニックに通う男性45人を対象に研究を行いました。45人の男性は全員が軽度の新型コロナと確定診断されており、クリニックには男性が感染する前に採取された精液サンプルの分析データがあったということです。研究グループは、感染後17~516日の間に別の精液サンプルを採取して分析を行いました。その結果、精液量は2.5mLから2mLに20%減少し、精子濃度も射精液1mLあたり6800万から5000万に26.5%減少していました。また、精子数は精液1mLあたり1億6000万から1億に37.5%減少し、前方に移動して泳ぐことができる総運動率は49%から45%に9.1%減少、生きた精子の数も80%から76%に5%減少していたことがわかりました。研究グループによると、新型コロナウイルス感染によって、精子の運動性と総精子数が最も深刻な影響を受けたということです。また、半数の男性は、新型コロナ前のサンプルと比較して、新型コロナ後では総精子数が57%減少していました。精子の形には大きな影響はなかったということです。さらに、新型コロナ感染後100日以上経過してサンプルを提供した男性グループを調査したところ、精子の濃度と運動性は依然として改善されていなかったということです。

研究グループによる考察は?

欧州ヒト生殖医学会による発表では、新型コロナへの感染が精子に影響を与えているということでしたが、研究グループはどのような考察をしているのでしょうか?

村上知彦医師村上先生

今回発表された研究結果について、研究グループは新型コロナウイルス感染によって精液の質への影響が続くのは、軽度の感染であってもウイルスによる永続的なダメージが原因である可能性が高いと指摘しています。新型コロナウイルスが睾丸や精子に影響を与えることは知られていましたが、そのメカニズムはまだわかっていません。研究グループによると、新型コロナ後遺症患者に見られる炎症や免疫系の損傷が関係している可能性があると指摘しています。また、精液の質の低下については新型コロナウイルスの直接的な影響によるものではなく、さらなる要因がある可能性が高いが、今のところ不明であるとしています。研究グループは今回の研究ではホルモンレベルを測定していないため、精液の質とホルモン状態の両方を長期にわたって測定するために、今後も研究を継続する予定だということです。

発表内容への受け止めは?

スペインの研究グループによる研究結果への受け止めを教えてください。

村上知彦医師村上先生

今回の報告では、「新型コロナウイルス感染が、たとえ軽症であったとしても、精液の質に長期的な影響がでる可能性がある」と示唆しています。ただ、認識しておくべき点としては、今回の45人のコロナ感染後の精液の質(精子の数や運動率など)は、悪化はあったものの、あくまで正常範囲内におさまっており、このことが男性不妊に直接つながると断言できるものではないということです。これまでにも、新型コロナウイルス感染による男性機能への影響としては、男性ホルモン(テストステロン)値の低下や、勃起不全の頻度の上昇といった報告もされています。また、新型コロナウイルス感染時に使用されることが多い、解熱剤によっても精液の質の低下があるとする報告もあります。因果関係の解明にはさらなる研究の継続が必要だと思われます。

まとめ

欧州ヒト生殖医学会が、新型コロナウイルスに感染した男性は、3カ月以上が経過しても精子の濃度が低下し、泳ぐことのできる精子の総運動率も減少していたと発表したことが今回の研究報告でわかりました。今後はホルモン状態も含めて追加研究されるということなので、引き続き注視が必要です。

参考文献・参考サイトはこちら
https://www.eurekalert.org/news-releases/993399

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