「腹膜がんが転移」するとどうなる?症状や治療法も解説!【医師監修】
腹膜がんは、腹部の深い部分を覆う膜に発生するがんです。この種のがんは、ほかの臓器への転移が見られることが多く、早期発見が困難な場合があります。
本記事では、腹膜がんの転移について以下の点を中心にご紹介します!
- ・腹膜がんの概要
- ・がん性腹膜炎の概要
- ・がん性腹膜炎と転移
腹膜がんの転移について理解するためにもご参考いただけると幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
腹膜がんについて
腹膜がんについて解説します。
腹膜がんとは
腹膜がんは、腹部を覆う腹膜という組織から発生する稀な悪性腫瘍です。腹膜がんは主に腹膜から直接発生する一次性腹膜がんと、ほかの臓器から腹膜に転移する二次性腹膜がんに分類されます。一次性腹膜がんは、卵管上皮から発生する上皮内がんがもととなることが多く、卵巣がんに類似した腫瘍細胞の性質を持ちます。
腹膜がんの症状
初期には自覚症状がほとんどないといわれています。症状が現れるのはがんが進行した段階であり、以下のような症状が見られます。
・腹部膨満感:腹膜がんでよくある症状で、腹水がたまり、お腹が張った感じがする
・腹痛:痛みの程度や場所は個人によって異なるが、腹部に痛みが生じる
・腰痛:がんが進行すると、腹部から腰にかけて痛みが広がることがある
・不正出血:女性では不正出血が見られることがある
・排便の異常:便秘や下痢、排便困難などの症状が現れることがある
腹膜がんの診断
腹膜がんの診断は、画像診断、血液検査、病理検査などの検査方法を組み合わせて行われます。
画像診断
・超音波検査:腹水の状態や腫瘍の存在を確認
・CT検査:腹腔内の詳細な画像を撮影し、腫瘍の大きさや広がりを評価
・MRI検査:CTと同様に腫瘍の評価に用いたり、より詳細な軟部組織の情報を確認
血液検査
・腫瘍マーカー:CA125などの腫瘍マーカーの値を測定し、腫瘍の存在を示唆する
病理検査
・腹腔鏡検査:腹腔内に内視鏡を挿入して直接観察することで腫瘍の状態を評価し、必要に応じて生検を行い組織を顕微鏡で詳しく調べる
・経皮的生検:局所麻酔下で肥厚した大網を生検して病理検査を行い、体への負担を軽減しながら迅速な診断を行う
臨床診断
手術を行わずに腹膜がんを強く疑う場合、以下の条件が揃えば臨床診断を下します。
・女性であること
・腹水が貯留している、または腹腔内に腫瘍が存在する
・腹水や腫瘍から採取した細胞で漿液性腺がんが確認される
・卵巣や卵管に明らかな腫大がない
・ほかの消化器がんや乳がんでないことが確認される
腹膜がんの治療
腹膜がんの治療は、がんの切除を目指し、患者さんの生存期間を延ばすとともに、QOLの維持を目的としています。腹膜がんの治療は、主に手術と抗がん剤による治療が基本となります。
治療の流れ
1.臨床診断と術前化学療法:腹膜がんが強く疑われる場合、術前に抗がん剤治療を行い、腫瘍を縮小させます。
2.手術:腫瘍が縮小し、手術が可能な状態になったら、腫瘍減量手術を行います。手術には開腹手術や腹腔鏡手術が用いられ、他部位に散らばったがんの同時切除や子宮全摘術、両側卵巣と卵管の切除、骨盤や傍大動脈リンパ節生検または郭清、大網切除などが行われることもあります。
3.術後化学療法:手術後、残存するがん細胞を除去するために再度抗がん剤治療を行います。主にパクリタキセルとカルボプラチンが使用されます。
がん性腹膜炎について
がん性腹膜炎について解説します。
がん性腹膜炎とは
がん性腹膜炎は、がんが腹膜に転移した状態を指します。腹膜は腹腔内の臓器を覆う薄い膜で、がん細胞がここに広がることで炎症を引き起こします。この病態は、胃がんや卵巣がん、大腸がんなどの消化器系や生殖器系のがんに関連した発症が多いようです。
腹膜がんの可能性がある
腹膜がんとがん性腹膜炎は、いずれも腹膜に関連するがんですが、それぞれ異なる特徴と診断の難しさがあります。以下にそれぞれの特徴を解説します。
腹膜がんは、腹膜自体や卵管の組織から発生するがんです。卵巣がんの一種である漿液性腺がんと似ており、腹膜がんは卵巣がんの仲間ともいえます。
初期段階では症状がほとんど現れないため、発見が遅れがちです。進行すると、腹水が溜まり、腹腔内のさまざまな臓器やリンパ節への転移が多くなります。
診断は難しく、がん性腹膜炎と診断されることもあります。確定診断には病理検査が必要です。
がん性腹膜炎は、既存のがんが腹膜に転移した状態です。原発部位が不明な場合も多く、がん性腹膜炎と診断されることがあります。
症状は、腹痛、腹部膨満感、吐き気、嘔吐などが見られます。腹水が溜まりやすく、消化管機能が低下することもあります。
診断には、画像検査や血液検査が用いられますが、最終的には病理検査が確定診断に必要です。
腹膜がんとがん性腹膜炎は診断が難しく、どちらも進行すると腹水の貯留や臓器転移を引き起こします。確定診断には病理検査が重要であり、早期発見と治療が鍵となります。
がん性腹膜炎の治療
がん性腹膜炎は腹膜にがんが転移することで発生し、対症療法が行われます。以下に治療法を説明します。
・抗がん剤治療:原因となるがんに対して、例えば胃がんにはパクリタキセルなどの抗がん剤が用いられます。
・腹水穿刺:腹水が溜まると症状が悪化するため、長い針を用いて腹水を抜く腹水穿刺が行われます。腹水内の栄養素も再利用するため、濾過して体内に戻すこともあります。
・腹水濾過濃縮再静注法(CART):腹水を濾過し、がん細胞や余分な水分を除去して静脈内に再注入する方法です。これにより症状の緩和や全身状態の改善が期待されます。
・利尿剤の使用:腹水の軽減を目指して利尿剤が使用されます。
・栄養補給:食事が困難な場合、高カロリー輸液やオクトレオチドの投与、消化管チューブ留置による栄養補給が行われます。
・鎮痛剤の使用:痛みを和らげるために鎮痛剤が使用されます。
・外科的手術:がんが広範囲に散らばっているため、外科手術はほとんど行われませんが、場合によっては腸閉塞に対する処置として人工肛門の設置などが行われます。
・予防的措置:一部のがんは予防的な観点から禁煙やワクチン接種などの対策が有効です。
腹膜がんについてよくある質問
ここまで腹膜がんを紹介しました。ここでは腹膜がんについてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
腹膜がんの原因を教えてください。
中路 幸之助(医師)
腹膜がんは、腹膜の組織や卵管の組織から発生するがんです。具体的な発生メカニズムはいまだ解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。
・遺伝的要因:BRCA1やBRCA2遺伝子の変異が腹膜がんの発症リスクを高めるとされています。これらの遺伝子は、細胞の成長や修復に重要な役割を果たしており、変異があるとがん細胞の増殖が抑制されにくくなります。
・腹部手術:過去の腹部手術が腹膜がんのリスクファクターとなることがあります。手術による腹膜への影響が、がんの発生に関与する可能性があります。
・炎症性疾患:慢性的な炎症性疾患も腹膜がんのリスクを高めます。持続的な炎症が細胞の変異を引き起こし、がん化を助長する可能性があります。
・アスベスト曝露:腹膜中皮腫というタイプのがんでは、アスベストへの曝露が強いリスクファクターとなります。アスベストは、長期間の吸入や摂取によって体内に蓄積し、がんを引き起こします。
・ほかの要因:生活習慣や環境要因も影響する可能性がありますが、具体的な関連性は明確ではありません。
腹膜がんの予後について教えてください。
中路 幸之助(医師)
腹膜がんは稀な疾患であり、卵巣がんと類似の特徴を持ちますが、予後は良くありません。
腹膜がんは初期段階では症状がほとんど現れず、診断が遅れがちです。そのため、発見された時点ですでに進行していることが多く、治療が困難になります。
がんの進行度が高い程予後は悪化します。広範囲に転移しやすく、腹膜全体に広がる傾向があるため、切除が難しいことが多いようです。がんが腹腔内に広がり、ほかの臓器にも影響を及ぼす場合、治療が一層複雑になります。
また、腹膜がんは再発率が高いです。再発した場合、治療の選択肢が限られるため、定期的なフォローアップと早期の再発検出が重要です。
まとめ
腹膜がんの転移についてお伝えしてきました。
腹膜がんの転移の要点をまとめると以下のとおりです。
- ・腹膜がんとは、腹部を覆う腹膜から発生する稀な悪性腫瘍
- ・がん性腹膜炎とは、がんが腹膜に転移した状態を指す
- ・腹膜がんとがん性腹膜炎は診断が難しく、確定診断には病理検査が重要であり、早期発見と治療が鍵となる
腹膜がんと関連する病気
腹膜がんと関連する病気は5個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法などの詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
具体的な症状や治療法については、担当の医師と相談しましょう。
腹膜がんと関連する症状
腹膜がんと関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これらの症状が持続する場合、または新たにあらわれた場合、医師の診察を受けることが大切です。