根管治療はマイクロスコープを使うとどう変わる? 導入利点を解説
根管治療(歯内療法)とは、歯の根の中にある神経や血管(歯髄)が炎症や感染を起こしたときに行う治療のこと。肉眼で見ることのできない細かな部分を拡大できるマイクロスコープは根管治療で特に威力を発揮するといわれている。根管治療でマイクロスコープを使うとどのような利点があるのか? なかがわ歯科医院副院長の中川兼佑歯科医師にお話を伺った。
監修歯科医師:
中川 兼佑(なかがわ歯科医院 副院長)
東京歯科大学卒業。大学院では補綴科を専攻、マイクロスコープを用いた豊富な治療経験に基づく歯内療法も得意とする。なかがわ歯科医院の副院長として、患者さまの希望をしっかりとお聞きし、できるだけ痛みのない治療を行えるよう心掛けている。臨床研修指導歯科医、歯学博士。
目次 -INDEX-
マイクロスコープなら根管の複雑な構造がよくわかる
編集部
根管治療でマイクロスコープを使うとどんなメリットがあるんですか?
中川先生
事前にX線写真やCTスキャンなどで撮影して、ある程度目星をつけて治療をするのですが、肉眼だけではどうしても細かいところがよく見えません。こういったところをマイクロスコープで拡大しながら治療することによって、目で見てきれいになったことがわかります。
編集部
マイクロスコープがなかった頃はどうやって治療していたんですか?
中川先生
昔はマイクロスコープがなかったので、僕が学生の頃の歯科医は綿栓(めんせん)といって、丸めた綿を細長い形にしたものを歯の根管の中に詰めて、一週間後に患者さんに来てもらって菌が繁殖していないかどうか、その綿栓の臭いを嗅いで確認していました。
編集部
なんだか原始的な方法のような気がしますが、今はどう変わったんですか?
中川先生
根管の中がきれいになったかどうか目で見て確実にわかるということに加えて、根管の複雑な形態もマイクロスコープで見ることによってわかるという点でも、根管治療のやり方が大きく変わったと思います。
編集部
治療器具が折れて根管に残ってしまうこともあるそうですが?
中川先生
これはまれに起こり得ることなんですが、根管の中に差し込んだ器具が途中で折れて、一部が残ってしまうことがあります。症状がなければそのままでも特に問題はないんですが、その根管の奥の深いところに残っている器具の金属片を取り除くときには、マイクロスコープで最大限に拡大しないと見えないんです。そういった場合には最大倍率の25倍を活用しています。
根管治療にマイクロスコープを使うと成功率、再感染、治療の回数や時間はどうなる?
編集部
マイクロスコープを使うと根管治療の成功率は上がるんですか?
中川先生
もちろん、肉眼で見ただけでは通らなくてもマイクロスコープを使えば通ることはありますし、肉眼で見つけられなかった根管をマイクロスコープで見つけられることもあるんですが、マイクロスコープを使っても見つけられないということはあります。
編集部
マイクロスコープを使っても通らない根管はどうするんですか?
中川先生
マイクロスコープで見てきれいになっていることで、自分の中でここまでやれば大丈夫というGOサインが出せるという感じですね。
編集部
根管治療にマイクロスコープを使うと再感染の割合が少ないというのは本当ですか?
中川先生
もし肉眼で取り残さないようにするには多めに削るしかないので、どうしても必要以上に歯を削らなければならないんですが、その点、マイクロスコープを使うと感染歯質を目で見ながら取れるので、必要以上に削ることはないんですね。
編集部
ということは、感染歯質の取り残しが再感染の原因なんですか?
中川先生
そうです。感染歯質の取り残しはマイクロスコープを使ったほうが明らかに少ないといえますし、この取り残しがあると再感染の可能性が高くなりますので。自分自身でも治療をしていても、そこは大きく違うところだと思いますね。
編集部
マイクロスコープを使うと根管治療の回数は少なくなりますか?
中川先生
マイクロスコープを使うと1回できれいにできる量が違ってくるので、トータルの治療回数は少なくなります。マイクロスコープを使った場合、いわゆる初感染と言われる、初めて感染した歯の根元に関しては2、3回で治療が終わります。再感染の場合はどうしても初感染より回数が多くなりますが、それでも4回くらいで済むことが多いです。
編集部
マイクロスコープを使わないと何回くらいですか?
中川先生
マイクロスコープを使わないと、「まだかな?もう少し削らないといけないかな?」と手探りで進めていくので、6〜7回かかってしまうこともあると思います。きれいにできたと自分で納得できるところまでやろうとすると、なかなか回数がはっきり決められないんです。
編集部
そうすると、マイクロスコープを使うとだいたい半分くらいになるということですか?
中川先生
そうですね。1回にかかる治療の時間や必要な回数を考えると、トータルで治療に要する時間はおおよそ半分くらいに短縮できているんじゃないかと思います。
根管治療でマイクロスコープを使わなくても問題はない?
編集部
マイクロスコープを使わないと、根管治療が不十分なままになってしまいませんか?
中川先生
これはあくまでも自分自身の感覚なので、「そんなことはないよ」とおっしゃる歯科医の先生ももちろんいらっしゃると思いますが、マイクロスコープを使わない場合は「これくらいやればOK」という、自分の感覚で判断するような形になることが多いと思います。ファイルやリーマーと呼ばれる道具を使いながら、根管の中で引っかかりがなくなれば大丈夫というような感覚ですね。ベテランになれば長年の経験があるので、そのやり方でわかることも多いと思います。
編集部
歯科医の先生の経験次第ということでしょうか?
中川先生
苦手だった根管治療がマイクロスコープで得意分野に
編集部
先生は最初から根管治療を重視されていたんですか?
中川先生
編集部
どんなところに苦手意識があったんですか?
中川先生
大学でも特に教室で根管治療を学んだりしたわけではありませんが、卒業後にマイクロスコープを使って経験を積んだことによって、今では根管治療は補綴の次に自信を持ってできる治療になりました。
編集部
マイクロスコープは歯科医の技術をサポートしてくれる大切なツールなんですね
中川先生
そうですね。そういう意義は本当に大きいと思います。もしもマイクロスコープを使っていなかったら、今でも根管治療は自分の中で自信がある治療だとは言えなかったと思いますね。
道具さえあればいいというわけではありませんが、良いツールはやはり必要です。ある程度技術が身についてくると、道具もそれに伴ったものを使っていく必要があると思います。
編集部まとめ
歯の根の中の深いところで炎症や感染が起きたときの根管治療では、マイクロスコープを使うことで歯を削りすぎることなく再感染のリスクを最小限にできるとのお話でした。また、根管の中をきれいにするために必要な時間、治療回数も少なくて済むというのは通院する患者さんにとってとても助かる点ではないでしょうか。歯科医の高い技術をサポートして可能性を広げてくれるマイクロスコープは、根管治療を安心して任せられる歯科医の条件の一つと言えそうですね。
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