「ポイツ・イェガース症候群」は「大腸がん」や「胃がん」のリスクがあるの?
指先や唇に黒いシミはありませんか。小児期で発症することが多いポイツ・イェガース症候群は、胃腸にポリープが多発する病気です。
Peutz氏とJeghers氏らが確認・報告したことからその名がつけられました。聞き慣れない病名ですが、国内では推定600~2,000人近くが罹患しています。
その症状と原因、治療方法から遺伝リスクまですべてわかりやすく解説していきますので、お役に立てましたら幸いです。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
ポイツ・イェガース症候群の症状と原因
ポイツ・イェガース症候群はどのような病気ですか?
患者数は5~20万人に1人の割合と比較的発生頻度が少ない病気で、合併症として胃・大腸・乳房・膵臓にがんができやすいこともわかっています。国や人種問わず発症し、再発しやすい病気です。
症状を教えてください。
身体的な症状として小腸にできたポリープが大きくなると、血便・貧血・黒色便の症状がみられます。15mm以上になると腸重積になる可能性が高まり腹痛や嘔吐もしやすくなるため、無症状でも8歳頃までを目安にサーベイランスを行い、内視鏡的手術でポリープ切除をすることが望ましいです。
発症する原因を教えてください。
遺伝子の変異体をバリアントといい、精子や卵子を経由して受け継がれるDNAの塩基配列変化のことを生殖細胞系列バリアントといいます。PJSは、この生殖細胞系列バリアントが原因といわれており、PJS患者の94%からこのバリアントの検出が報告されています。
似た病気との見分け方はありますか?
中高年の女性に多く、遺伝性ではないことが確認されています。McCune-Albright症候群も色素班は大型で数が少なく、カフェオレ色などPJSと比較するとサイズや色調に違いがみられます。
色素班は似ていても、身体的に現れる病状が異なるのです。このことから、PJSの色素は小さく濃いことと消化管ポリポーシスが認められることが大きな違いです。いずれにしても、ご自身での判断は難しいため病院の受診をおすすめします。
どのような方がなりやすいのでしょうか?
ポイツ・イェガース症候群の診断と治療
どのような検査で診断されますか?
- 口唇や四肢末端の色素沈着
- 消化管ポリポーシス
- 常染色体優性遺伝
PJSは稀な疾患の為、診断が複雑でいかなる初期症状もしっかりと確認する必要がありますので、臨床遺伝医や専門の遺伝カウンセラーに紹介されることがあります。また、生殖細胞系列の遺伝子検査については5~10mlほど採血をして、血液中の白血球からDNAを抽出しSTK11などの遺伝子に変異がないか調べます。
治療方法を教えてください。
口や肛門から挿入し全小腸観察が可能になり、ポリペクトミーなどの処置が同時にできるようになりました。内視鏡治療を繰り返し行うことで、小腸ポリープの数と腸重積のリスクが減るため、外科的開腹手術の必要性も減らせるというメリットがあります。
内視鏡治療が難しい場合や腸重積の方は外科的切除治療が一般的になります。色素班に関しては美容的観点から、レーザー治療も有効です。Qスイッチアレキサンドライトレーザーで治療後、色素班が目立たなくなり、経過後も色素の増加がみられずにお過ごしの方も多くいらっしゃいます。
ポイツ・イェガース症候群は治りますか?
がん遺伝子パネル検査で病的バリアントを検索し、患者に有効な薬剤を特定できる可能性もあります。ポリープ切除をすることでがん化のリスクを低下させ、腸重積や開腹手術の回避にも繋がりますので定期的に検査を受けることが望ましいです。
ポイツ・イェガース症候群のがん化リスクと遺伝について
ポイツ・イェガース症候群はがん化のリスクはありますか?
小児期も発がんリスクがあり、最小年齢だと7歳で罹患しているため注意が必要です。特に50歳以降は発がんリスクが高まり60歳以上になると半数になんらかのがんが認められていますので、1~2年おきに早期発見のためサーベイランスを推奨します。
早期発見ができると治癒する可能性が高くなります。
ポイツ・イェガース症候群は遺伝するのでしょうか?
STK11遺伝子の生殖細胞系列のバリアントを有する場合や、PJS特有の色素班が確認できた際は、8歳頃までに内視鏡によるサーベイランスを1度は行うことを推奨します。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
がん化のリスクもふまえて、早期発見がとても大切になってきます。医療の進歩により以前よりもお体に負担が少ない検査ができ、色素班もレーザー治療で改善できるようになりました。今後のさらなる医療技術の進歩に期待したいですね。
編集部まとめ
ポリープは大人になってできるイメージがあるかと思いますが、PJSは小児期から発症することが多く稀な病気です。
消化管の状態が皮膚表面に現れやすいので、体は無症状でも異変に気づける可能性があります。どのような病状かを知っているだけでも、いざというとき対策がしやすくなります。
PJSによく似た病気もありますのでネットなどの情報だけで判断せずに、早めに医師に相談しましょう。早期発見・早期治療が大切ですね。