智歯周囲炎は歯の病気です。しかし、聞き慣れない方は多いかもしれません。智歯周囲炎の「智歯」とはいわゆる「親知らず」のことです。
つまり智歯周囲炎とは親知らずの周りの炎症ということになります。親知らずの周囲が炎症を起こしてしまうとどういった症状が出るのでしょうか?
また、親知らずならではの特徴があるのでしょうか?ここでは、智歯周囲炎の症状・特徴・診断方法について解説します。治療方法についてもご紹介します。
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徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。
智歯周囲炎とは?
あまり聞き慣れないのですが智歯周囲炎とは何ですか?
智歯周囲炎の智歯とは、親知らずのことです。智歯は生えてきた後に抜歯するのが一般的ですが、中には埋まったままで生えてこないものもあります。また、抜くには十分なほどの生え方でなかったり、生えてきても綺麗な生え方でなかったりという場合もあります。これらの智歯は、とても歯磨きがしづらいです。そのため、周囲の歯茎が不潔になり、腫れや出血といった炎症の症状がみられることがあります。これを智歯周囲炎と呼びます。智歯が生え始める年代である、20歳から30歳頃の比較的若い世代に多くみられるのが特徴です。また、炎症が起きるのも上顎よりも下顎が多いとされています。
智歯周囲炎を発症する原因を教えてください。
歯肉に埋まったまま生えてこなかったり、生えてきても一部だけ生えてきたりする智歯周囲の歯肉が炎症を起こすことで発症します。智歯のような奥歯よりも奥に生えてくる歯は、ほとんどの場合異常な生え方をしてしまいます。すでに他の歯が生え揃った状態で生えてくるために、智歯が生える頃には正常に生えるスペースがないことが多いためです。そういった生え方をする歯は歯磨きがしづらく、不潔な状態になってしまうことがあります。すると歯肉が炎症を起こし、智歯周囲炎となってしまうのです。
智歯周囲炎ではどんな症状がみられますか?
智歯周囲炎になると、主に智歯周囲の歯肉が炎症を起こします。しかし、影響が及ぶのは歯肉だけではありません。進行すると炎症が周囲の軟組織(歯肉の付け根や頬の内側など)にも影響が及ぶのです。口内の軟組織が炎症を起こすと腫れてしまい、見た目にも影響が出ます。症状が進行すると下頬が腫れているように見えたり、口が開きにくくなったりする開口障害の症状が出る事も少なくありません。また、炎症の影響が顎の下にあるリンパ節に及ぶことがあるため、発熱などの症状が出る場合もあります。
智歯周囲炎の特徴と診断
智歯周囲炎に似た症状の病気との見分ける方法はありますか?
智歯周囲炎のように歯の周囲の歯肉が炎症を起こす病気はあります。しかし、智歯周囲炎は智歯の周囲に起こる炎症です。見るからに智歯の周囲で炎症が起きている場合は智歯周囲炎と判断できるでしょう。また、智歯が半埋伏歯(完全に歯が出てこず、歯肉を一部かぶった状態の歯)の場合でも智歯周囲炎になる場合があります。
智歯周囲炎を発症するのは何歳くらいの方が多いのでしょう?
智歯が生えてきやすい20歳前後から30歳頃の若い方に多いです。放っておくと顔が腫れるといった症状を引き起こすため、智歯への対処はなるべく早く行ったほうが良いでしょう。
智歯周囲炎を放置してしまうとどうなるのか教えてください。
智歯周囲炎の初期症状は自覚症状があまりなく、噛むと少し痛くなる程度です。平常時には痛みや違和感を感じないため、多くの方はそのまま放置しがちです。しかしそのまま放置していると、体調不良の際に頬が腫れたり口が開きづらくなったりという症状があらわれます。症状の1つとして膿が溜まるという症状もあります。最初はぷにぷにとした感触ですが、歯茎の隙間から膿が出てくるようになると強い匂いを発するようになり、口臭が悪化する原因となるかもしれません。さらに症状が進行すると、首のリンパ節まで炎症の影響が及ぶことがあり、発熱などの症状を起こすことがあります。痛みが強くなり、日常生活にも支障をきたすようにもなります。また、智歯自体も虫歯になってしまう可能性が高いです。周囲の歯も虫歯の危険に晒される場合があるため、智歯の周囲で痛みを感じたらなるべく早く対応する必要があります。
早めに対応すると良いのですね。では、どのような方法で診断されるのでしょうか?
主に口腔外科などでのX線検査やCTスキャンといった画像診断が行われます。炎症を起こしている周囲の歯と骨の関係を調べ、智歯がどういう形で生えているのかを確認します。これによって、智歯周囲炎がどのような影響を及ぼしているかを診断することが可能です。また、炎症の程度を調べるため、歯肉から採取した血液で検査を行う場合もあります。
智歯周囲炎の治療法や予防方法
智歯周囲炎に治療法はありますか?
智歯周囲炎の治療では、抜歯の前に炎症を抑えることを優先します。炎症の起きている周囲を洗浄したり、抗菌薬を投与したりといった処置が主流です。痛みがひどい場合には鎮静剤を投与する場合もあります。また、腫れ(腫瘍)に膿が溜まっており、小さくなる見込みがない場合は歯肉を切開して膿を排出する処置も必要です。炎症の影響がリンパ節などに及んでいる場合は、入院などが必要になる場合もあります。これらの処置をすると、炎症の症状は引きますが、症状自体はまたくり返すことが多いです。歯肉が炎症を起こす原因はあくまで智歯なので、智歯に対処しなければ炎症が起こるリスクは残るからです。また、智歯の周囲にある歯まで虫歯や歯周病のリスクが高くなる可能性があります。そのため、炎症が治まった後に改めて智歯の抜歯を行います。ただし、全ての患者さんが抜歯を行わなければいけないわけではありません。まだ智歯が歯肉に少し埋まっている状態ではあるが、そのまま正常に生えてくる見込みがある場合です。患者さんによって個人差がある病気でもあります。しかし、抜歯を行わないのであれば、歯磨きに気をつけるなど日常生活の改善が必要になる場合があります。
智歯周囲炎の治療中に気をつけることはありますか?
治療中はなるべく激しい運動は控え、炎症が起きている部位を舌で触るなどの行動を控えるようにしましょう。また、心配だからといって智歯の周囲を歯磨きしすぎず、あくまで担当医の指示に従って歯磨きを行うようにしてください。抜歯を行った際は、長時間の入浴や飲酒は控えるようにしましょう。また、傷口を舌で触れないようにしてください。鎮静剤を処方された場合は、痛くなってからではなく痛くなりそうな時に服用すると鎮静効果が出やすくなります。
智歯周囲炎を予防する方法があれば知りたいです。
10代のまだ智歯が生えていない時点でレントゲン写真を撮り、どんな風に生えてくるのかを歯科医に聞いておきましょう。これによって智歯周囲炎を起こしやすいかどうかがわかり、予防にもなります。特に斜めに倒れていたり、横に埋もれていたりする場合は、今後の生え方に注視する必要があります。しかし、智歯の生え方は人それぞれです。特に心配がないとされており、どんなに歯磨きをちゃんとしていても、生え始めた智歯までしっかりケアできる方は少ないです。そのため、智歯周囲炎は若い方のほとんどが通る歯の病気とされています。だからこそ智歯が生え始めたら気を配り、違和感を感じたらなるべく早く歯科医にかかるようにしてください。それによって智歯周囲炎を重症化させず、軽いうちに対処することが可能になります。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
智歯に関する悩みは、若い方に多い悩みです。しかし、若いからこそ抜歯を行う際の傷が早く治りやすく、処置がしやすい年代でもあります。智歯の周りの違和感に気づいたら、なるべく早く歯科医にかかるようにしましょう。そうすることで痛みが強くなる前に対処することが可能です。また、抜歯に対するリスクも軽減できます。
編集部まとめ
智歯周囲炎は、20歳から30歳前後の若い方に多い歯の悩みです。智歯(おやしらず)周囲の歯肉が炎症を起こすことで引き起こされます。
重症化すると頬が腫れてしまうなど見た目にも影響が出る病気です。そのため、智歯の周りの違和感に気づいたら、なるべく早く診察を受けるようにしましょう。
患者さんによっては抜歯が必要ない場合もあります。抜歯するかしないかも含め、歯科医にしっかりと診察してもらいましょう。