「痔瘻(じろう)」とは?症状・原因・手術についても解説!【医師監修】
更新日:2023/06/30
お尻のお悩みは、なかなか人に相談できないものです。専門の医院に行くのも気が引けてしまうという方も多いのではないでしょうか。
今回はそんな「痔」のお悩みの中でも症状の重い「痔瘻」について、特徴・治療法・予防方法などをQ&A形式でわかりやすく解説していきます。
痔瘻は市販薬などでは治癒が難しいとされています。ここで正しい知識を身につけ、きちんと専門医にかかるようにするとよいでしょう。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
目次 -INDEX-
痔瘻の特徴
痔瘻はどのような病気ですか?
- そもそも痔とは「肛門の病気の総称」とされており、その症状や形態によって様々な種類に分類されています。その中でも三大疾患といわれるもののうち、いぼ痔・切れ痔と並ぶものが痔瘻です。
- 直腸と肛門周囲の皮膚をつなぐトンネルが形成され、激しい痛みが出たり膿が排出されたりします。この特徴からあな痔とも呼ばれます。他2つよりも発症数は少ないとされる痔瘻ですが、その症状は最も重く感染症の一種です。
- 痔瘻は薬物治療の対象外とされているため市販薬では治療が見込めず、専門医の受診が必要です。肛門周囲の激しい腫れや痛みに加え、38〜39℃の発熱を伴う場合は早急に医療機関を受診しましょう。
痔瘻でみられる症状を教えてください。
- 痔瘻とは肛門周辺の皮膚内部に膿がたまり、皮膚を貫通して排出される病気です。肛門内部ではなく、周辺の皮膚に空いた穴から膿が排出される特徴があります。他の痔よりも激しい痛みと腫れ、また38〜39℃の発熱を伴うことが多いです。
- また痔瘻は膿のトンネルの通り道によっていくつかに分けられ、ごくまれに膿が排出されない(皮膚の外側に出口ができない)場合もあります。その場合でも、特に激しい痛み・腫れ・発熱といった症状から判断すると良いでしょう。
- トンネルの開き方によっては治療が大変困難になることもあり、人工肛門が必要になる場合もあります。かからないことが第一ですが、気になる症状があれば痔瘻を疑い、専門医に相談しましょう。
痔瘻は何が原因で起こりますか?
- そもそも痔の三大疾患と呼ばれるもののうち、痔瘻のみは他2つと異なる要因で発症する細菌感染症です。いぼ痔・切れ痔は排便時のいきみや硬便・軟便による肛門への刺激、長時間同じ姿勢でいたことによる肛門周囲の血流悪化が原因で起こります。
- 対して痔瘻は、肛門の内部にある肛門陰窩(こうもんいんか)と呼ばれるくぼみに細菌が入り込むことで発症します。通常はここに便が入り込むことはありませんが、下痢などで便が緩くなっていた場合などに、奥の肛門腺という器官に大腸菌などが入って感染するのです。
- 周囲に傷があったり体の抵抗力が落ちていたりすると皮下レベルで化膿し、やがて膿を排出して痔瘻になります。
性別によってなりやすさに違いがありますか?
- 痔は全体としてはあまり男女差はなく、日本人の成人男女ではともに半数ほどが経験(もしくは罹患)しているとされます。ですが痔の種類によっては少々差があり、痔瘻は男性の方が比較的発症しやすいとの統計もあります。これは下痢が痔瘻の発症原因となることが多く、女性と比べ男性の方が下痢になりやすい傾向があるためです。対して女性は男性と比べて便秘になりやすいといわれ、排便の際に肛門周囲が傷つくことによる切れ痔やいぼ痔になりやすいともいわれます。
痔瘻の治療方法
痔瘻と疑った場合の受診の目安が知りたいです。
- 痔瘻は、痔に分類される病気の中でも分かりやすく症状が出る病気です。肛門の周囲が腫れて熱感がある・痛む等の症状に加え、38℃を超える発熱や膿の排出がみられたら、早急に医療機関を受診するようにしましょう。
- 直腸から外側の皮膚にトンネルが貫通し膿が排出される痔瘻はもちろん、その前段階である肛門周囲膿瘍(肛門付近の皮膚の下に膿がたまっている状態)も、市販薬での治療は行えません。膿の排出がみられれば確実ですが、肛門付近の痛みや腫れのみであっても医療機関を受診するのがおすすめです。
痔瘻の診断方法を教えてください。
- 前述の通り、痔瘻ではかなり特徴的な症状が出るため診断は容易です。肛門付近の皮膚から膿が排出されていれば、ほぼ確実に痔瘻と診断されるでしょう。ただし痔瘻はそのトンネルの形状により「浅部痔瘻」と「深部痔瘻」の2種類に分けられます。
- 浅部痔瘻はその名の通り浅い部分に膿のトンネルができる痔瘻で、痔瘻の6割ほどを占めます。直腸からほとんどまっすぐに穴が開き、ごく軽いものであれば処方薬による治療が可能です。
- 対して深部痔瘻は皮膚から遠い部分にトンネルが通っている痔瘻で、外側に排出口が開かないものや肛門括約筋を通過してしまうものなどがあります。特に肛門括約筋よりも上部(頭側)にある肛門拳筋の上を通過するようなものは、発症はごく稀ですが人工肛門などが必要になる場合もあり、慎重な判断が必要です。
軽度な痔瘻の治療方法が知りたいです。
- 膿の量が少なく、また自然に排出され切った場合の初期の痔瘻であれば抗菌薬の服用で様子をみる場合があります。ただし膿の排出に血が混じり、ただの出血と勘違いして放置してしまう場合もあるため、投薬治療で完治できるほど初期の発見は難しいです。痔瘻は基本的に、軽度であっても手術が必要になってくる病気であり、患部を切開して膿を排出する手術処置が必要になる場合もあります。その後に痔瘻のトンネル自体に処置を行います。
痔瘻の手術について教えてください。
- 痔瘻の手術は主に2種類あり、ひとつは切開開放法と呼ばれる手法です。膿のトンネルにそって切開し、外側の皮膚や皮下軟部組織をすべて切除してから肉芽を盛る形で肛門を整えます。痔瘻の原因である肛門内のくぼみごとトンネルを取り去ってしまえるため、確実で比較的難しくない手術です。ただし痔瘻の深さやトンネルの通っているルートによっては切除範囲が大きくなり、肛門機能や見た目などに不備の出る場合もあります。
- もうひとつの手法は括約筋温存手術と呼ばれ、痔瘻のトンネルが通る肛門括約筋を削らないように行う手術です。トンネル部分をくりぬいて行うため比較的難しく入院が必須になりますが、肛門機能障害などが残りにくくなります。また上記以外の手法にシートン法と呼ばれるものがあります。痔瘻のトンネルにゴムひもを通して徐々にトンネルのみを切開・開放していく方法です。肛門の変形は少なく済みますが、治療時間が長くかかります。
痔瘻の予後と注意点
日常生活で気をつけることはありますか?
- 痔瘻は肛門入り口付近の歯状線にあるくぼみ(肛門腺)に、下痢便などが入り込むことで細菌感染を起こす病気です。通常であれば肛門腺に便が入り込むことはないようになっているため、まずは体調を整えてお腹を下さないようにしておくことが大切です。
- また肛門腺に細菌が入り込んだ際、周囲に傷があったり体の抵抗力が落ちていたりすると、そこから感染が広がり膿が発生します。肛門付近の傷は、下痢以外にも便秘などで便が硬くなっている場合にもつきやすいので注意が必要です。
- 辛いものや冷たいものの食べ過ぎ・水分不足・栄養の偏りなどを避け、健康的な食生活と安定した体内免疫を保つよう心がけましょう。
痔瘻の再発率が知りたいです。
- 痔瘻の再発率は、治療(手術)の方法により差があります。
- 前述の2種類のうち、痔瘻のトンネルから外側をすべて取り除くタイプの切開開開放手術を行った場合は再発がほぼみられません。細菌の感染したトンネルやくぼみごと切除するため、少なくとも同じ場所での再発は無くなります。
- 対してトンネルをくりぬく形で開放する括約筋温存法では、肛門内部に手術後の傷跡が残ってしまうため、ここから傷が開いたりして再発する可能性もあります。とはいえ極端な下痢や便秘を起こさなければ、肛門の周囲を傷つけることはないはずです。もし発症してしまった場合は医師に相談するのはもちろん、より食生活や生活習慣に気を遣うことで再発を防止しましょう。
周りはどのように対応すると良いでしょうか?
- 痔瘻は難しい病気ですが、周囲の介助が必要になる程の症状や後遺症はほとんど起こりません。患者本人が日常生活で気にするのは、ドーナツクッションを使用したり、長時間の座りっぱなしを避けたりという程度でしょうか。その他、痔瘻を発症した知り合いがいる場合は辛いものや冷たいものを勧めすぎないようにすると良いでしょう。特に辛い料理は、痔瘻に限らず痔を発症している方は控えた方が良いです。過剰に気にしたりすることなく、気付いたときに最低限の対応をするようにしておけば大丈夫です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 痔瘻は痔の中では比較的発症しづらい部類ですが、発症してしまうと酷い痛みや腫れを伴います。放置しておくと膿のトンネルが増えたり複雑化したりと悪化する傾向があり、手術がほぼ確実に必要になる病気でもありますから、「もしかして」と思ったらすぐに医療機関を受診してください。また、普段の食生活や生活習慣を整えておけば発症しづらい病気です。下痢や便秘を起こさないよう、バランスの良い食生活を心がけて生活してみてくださいね。
編集部まとめ
今回は痔瘻という病気について、その特徴や治療方法などをまとめてきました。人に相談しづらい病気だからこそ、放置して悪化させてしまうこともあるかもしれません。
特に痔瘻は、自然治癒や市販薬での治療ができない病気です。気になることがあれば放置せず、きちんと専門の医療機関を受診してくださいね。
参考文献