「脂質の一日摂取量」をご存じですか?過剰摂取すると現れる症状も管理栄養士が解説!

脂質の一日の摂取量とは?Medical DOC監修医が脂質の一日の摂取量・男女別の摂取量・不足すると現れる症状・過剰摂取すると現れる症状・多く含む食品・効率的な摂取方法などを解説します。

監修管理栄養士:
中岡 紀恵(管理栄養士)
目次 -INDEX-
「脂質」とは?

脂質は糖質、たんぱく質と同様に、私たちの体にとって重要なエネルギー産生栄養素(三大栄養素)のひとつです。体内では水分の次に多く含まれ、エネルギー源として使われるほか、ホルモンや細胞膜を作ったり、皮下脂肪として蓄えられて体を急激な温度差から守ったりします。脂質には単純脂質(中性脂肪など)、複合脂質(リン脂質、リポたんぱく質など)、誘導脂質(コレステロール、脂肪酸、ステロイドなど)があります。
脂質の一日の摂取量

「日本人の食事摂取基準(2025年版)」による脂質の目標量は、一日のエネルギー摂取量の20~30%未満とされています。ただし、個人の年齢、性別、活動レベルにより適切な範囲は異なります。脂質の一部を構成する脂肪酸の中には体内で合成することが出来ず、食事から摂らなければならない必須脂肪酸(n-6系・n-3系)があります。一方で摂りすぎると循環器疾患の危険因子となる脂質(特に飽和脂肪酸)の上限を超えないよう、また必須脂肪酸の目安量を下回らないよう摂取量が定められています。
脂質の一日の摂取量の計算方法
脂肪1gあたりのエネルギー量は9kcalとなります。
脂質の摂取量 = 一日の必要エネルギー量 × 20~30% ÷ 9
例えば30~49才で身体活動レベル2(普通)の女性の場合
2050kcal ×(20~30%)÷ 9=約46~68g となります。
【男性】脂質の一日の摂取量
身体活動レベルが普通の成人男性の場合、脂質摂取量はエネルギー摂取量に基づき、1日あたり約68~102gの範囲が目安となります(例:総エネルギー量2700kcalの場合、20~30%で計算)。ただし、活動レベルや年齢により必要量は異なります。
飽和脂肪酸のエネルギー比率7%以下
n-6系脂肪酸 12~11g(成人男性18才~64才)
n-3系脂肪酸 2.2g(成人男性18才~64才)
となります。
【女性】脂質の一日の摂取量
身体活動レベルが普通の成人女性の場合、脂質摂取量はエネルギー摂取量に基づき、1日あたり約46~69gの範囲が目安です(例:総エネルギー量2050kcalの場合、20~30%で計算)。また、妊娠中や授乳中は必要量が変わる可能性がありますので、専門家に相談してください。
飽和脂肪酸のエネルギー比率7%以下
n-6系脂肪酸 9g(成人女性18才~64才)
n-3系脂肪酸 1.7~1.9g(成人女性18才~64才)
妊婦・授乳婦も同じ値となります。
【ダイエット中】脂質の一日の摂取量

一日の全体のエネルギー量の20%以下にならない摂取量にしましょう。摂取する脂質が極端に少ないと、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなったり、エネルギー不足に陥ったりする可能性もあるので注意が必要です。
脂質を過剰摂取すると現れる症状

体重増加と肥満
高脂肪の食品を摂取しすぎると、エネルギー過多になり、体重増加や肥満を招くリスクが高まります。これが、さらなる生活習慣病の原因となる場合もあります。適切な摂取量とバランスの維持が重要です。
血中コレステロールの過剰
脂質の摂取量、特に飽和脂肪酸の過剰摂取は高LDL コレステロール血症の主な危険因子の1つであり、心筋梗塞を始めとする循環器疾患の危険因子でもあります。多価不飽和脂肪酸の摂取は循環器疾患の予防、改善に役立つ可能性があります。
循環器疾患のリスク増加
特に飽和脂肪酸を多く摂取しすぎると、血中のLDLコレステロール値が上昇し、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞といった循環器系疾患の発症リスクが増加する可能性があります。これにより、血管の健康を損ない、長期的な健康に悪影響を及ぼす恐れがあります。
脂質が不足すると現れる症状

皮膚炎や発育不良
n-6系脂肪酸(リノール酸)とn-3系脂肪酸(α-リノレン酸)は体内で合成できないため、「必須脂肪酸」と呼ばれています。これらが欠乏すると、皮膚の乾燥や炎症(皮膚炎)、発育障害、さらには神経機能の異常が生じることがあります。これらの脂肪酸は、植物油(n-6系)や魚油(n-3系)などに多く含まれるため、意識的に食事に取り入れることが重要です。
疲れやすくなる
脂質は、糖質やたんぱく質と並ぶ主要なエネルギー源であり、1gあたり9kcalのエネルギーを供給します。摂取量が減少するとエネルギー不足を招き、疲労感や集中力の低下を引き起こすことがあります。
細胞膜や血管壁が弱まる
脂質は細胞膜の主要成分であり、コレステロールはその柔軟性や機能を維持するために不可欠です。脂質が不足すると細胞膜や血管壁が弱まり、健康全般に影響を与える可能性があります。
脂質の多い食品

油
植物油には、ひまわり油、サフラワー油、えごま油、ごま油、オリーブ油などがあります。これらの油はサラダや調理用として幅広く利用され、マーガリンやマヨネーズの原料としても使用されています。一方で、パーム油やココナッツオイルも植物油の一種ですが、飽和脂肪酸を多く含むため摂取量に注意が必要です。ただし、これらには中鎖脂肪酸(MCT)も含まれており、体内で素早くエネルギーとして利用される特性があります。そのため、適量を意識して取り入れることが重要です。
動物性の油脂には、ラード、バター、牛脂などがあり、料理にコクや風味を加えるために使われます。ただし、これらは飽和脂肪酸が多いため摂り過ぎには注意が必要です。
健康を考える場合、不飽和脂肪酸を多く含む油を選ぶことが推奨されます。n-9系脂肪酸を摂取するには、オリーブ油やこめ油、ひまわり油などの植物油が適しています。また、n-3系脂肪酸を多く含むえごま油やあまに油、なたね油は、熱に弱く酸化しやすいため、ドレッシングや仕上げに使うのがおすすめです。
肉類
肉類には飽和脂肪酸が多く含まれています。特に脂身や鶏肉の皮の部分は食べすぎないようにしましょう。肉を食べるときは、バラ肉よりも脂身の少ないもも肉やヒレ肉を選びます。ソーセージやベーコンなどの加工品や、ひき肉にも注意が必要です。
魚類
魚の脂には、不飽和脂肪酸が多く含まれています。不飽和脂肪酸であるDHAやEPAを多く含む良質な脂質です。マグロ類、サンマ、マイワシ、サバ、ハマチ、カツオなどに多く含まれています。
乳製品
乳製品には飽和脂肪酸が多く含まれています。牛乳よりも、生クリームやチーズ、コーヒーフレッシュなどの加工品のほうが飽和脂肪酸を多く含むため、特に注意が必要です。低脂肪や無脂肪のものを選ぶと、飽和脂肪酸の摂取量を抑えられます。
ナッツ(種実)類
アーモンド、ピーナッツ、カシューナッツ、クルミといったナッツ(種実)類には不飽和脂肪酸が多く含まれています。健康志向の高まりで間食で摂る方も増えていますが、食べ過ぎには注意が必要です。塩分が気になる場合は、無塩のものを選びましょう。
脂質の効率的な摂取方法

脂質と一緒に摂取すると効果を高める栄養素・食品
脂質を効率よく摂取したいときは、ビタミンB群を積極的に摂るのがおすすめです。ビタミンB群は、脂質代謝を促進してエネルギー源として効率よく利用します。また、脂質を皮膚や髪の栄養素として利用するため、美容効果も見込めます。とくに、ビタミンB2(レバー・大豆製品など)・ナイアシン(きのこ類・豚肉など)・ビタミンB6(肉類・マグロなど)を積極的に摂るとよいでしょう。きのこのソテーやマグロのカルパッチョなどがお勧めです。また脂溶性ビタミン(A、D、E、K)、カロテノイドなどの油脂に溶けやすい栄養成分は、油脂と一緒に摂取することで、体内に吸収されやすくなります。にんじんソテー、かぼちゃの天ぷら、野菜サラダにドレッシングをかけることもお勧めです。
脂質と一緒に摂取すると効果を下げる栄養素・食品
一般的に、脂質と特定の栄養素や食品が直接的に効果を下げるという科学的なエビデンスは十分には確認されていません。ただし、消化機能が低下している場合や脂質の摂取が過剰になりやすい場合、胃腸に負担をかけないよう注意が必要です。具体的には、揚げ物や高脂肪食品(例:生クリーム、脂身の多い肉)の摂取を控えることで、消化不良や胃もたれのリスクを軽減できる可能性があります。
脂質の効果を高める摂取タイミング
脂質の摂取タイミングはエネルギーバランス全体を考慮することが重要です。夜遅い時間に脂質を多く含む食品を摂取すると、活動量が低下するためエネルギー消費が減り、体脂肪として蓄積されやすくなる可能性があります。また、消化に時間がかかる食品は、胃腸に負担をかけることがあるため、夜遅い時間帯は控えめにするのが望ましいでしょう。
脂質サプリメントは食事中や食後すぐに摂取するのが最適です。脂分が多い食べ物と一緒に摂ると吸収率が高まります。食間や空腹時の摂取は吸収率が低いため避けましょう。DHA・EPAなどの脂溶性サプリメントも同様に、食事中や食後すぐの摂取が効果的です。
「脂質の一日の摂取量」についてよくある質問

ここまで脂質の一日の摂取量を紹介しました。ここでは「脂質の一日の摂取量」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
脂質と炭水化物どちらが太りやすいのでしょうか?
中岡 紀恵
脂質と炭水化物、どちらも必要以上に食べると太ります。同じエネルギー量であれば、太るのは同等です。ただし同じ重さなら脂質の方が太ります。1gあたりのエネルギー量が炭水化物は4kcalに対して脂質は9kcalと2倍以上あるからです。一方、炭水化物を増やせば、たとえその分のエネルギーを脂質で控えたとしても中性脂肪は上がります。
まとめ
脂質は体に良くないものと考えがちですが、体にとって重要なエネルギー源であり、細胞膜を維持するためにも欠かせない栄養素です。極端に減らしすぎるのではなく、摂取する脂質の種類に気をつけることが大切です。お肉や動物性脂肪(飽和脂肪酸)の過剰な摂取は控え、健康効果の高い魚脂や魚卵・植物性油脂(不飽和脂肪酸)は適量をしっかり摂るようにしましょう。バランスの取れた食事も重要です。ただし、どの脂質も高エネルギーであることには変わりないので、油の特性を見極めた上で、ご自分に必要な摂取量を守りましょう。
「脂質」と関連する病気
「脂質」と関連する病気は4個ほどあります。各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
循環器系の病気
- 脂質異常症
- 高LDL-コレステロール血症
- 循環器疾患(冠動脈疾患を含む)
内科の病気
- 肥満
「脂質」と関連する症状
「脂質」と関連している、似ている症状は2個ほどあります。各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 皮膚炎や発育不良
- 肌や髪の毛の乾燥




