目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. コラム(医科)
  4. 「糖尿病のある方が食べてはいけないもの」をご存知ですか? 食事で気をつけるポイントを医師が解説

「糖尿病のある方が食べてはいけないもの」をご存知ですか? 食事で気をつけるポイントを医師が解説

 公開日:2024/08/23
「糖尿病患者が食べてはいけないもの」をご存知ですか? 食事で気をつけるポイントを医師が解説

「糖尿病を悪化させたくない」。糖尿病のある方であれば、誰でも思うことでしょう。「糖尿病治療で重要なこと」というと、多くの方が「食事管理」を思い浮かべると思います。しかし、実際にどのような食事がダメなのかご存知ですか? “糖”尿病という病名なのだから、甘いものにだけ注意していればいいのでしょうか。医師の廣田先生に解説していただきました。

廣田 尚紀

監修医師
廣田 尚紀(医師)

プロフィールをもっと見る
糖尿病内科医・産業医として東京を中心に活動しながら、栄養学の研究を行っている。医学部卒業後は東京慈恵会医科大学、東京女子医科大学などの複数の病院で勤務、東京大学大学院研究員(研究分野は栄養疫学)などを経て現職。東邦大学医学部医学科卒業・東京女子医科大学大学院卒業。糖尿病専門医/認定内科医/総合内科専門医/博士(医学)/糖尿病認定医/日本医師会 認定産業医/成育医療研究センター共同研究員など。

糖尿病のある方が気をつけるべきなのは「量」と「頻度」

糖尿病のある方が気をつけるべきなのは「量」と「頻度」

編集部編集部

糖尿病になると、食事制限をしなくてはいけないイメージがあります。具体的にどのようなことに気をつければいいですか?

廣田先生廣田先生

糖尿病は食事の影響を受けやすい病気ですが、糖尿病だからという理由だけで、食べてはいけないものは基本的にありません。もちろん、毒や菌などで汚染されたものや、一般的には食べ物とは呼ばないようなものは食べるべきではありません。しかし、そうでなれば絶対的に悪い食べ物は基本的にはなく、食べ物や栄養素の「量・頻度」が大切です。

編集部編集部

なぜ、量や頻度が大切なのですか?

廣田先生廣田先生

糖尿病がある方に限らず、私達は食事からいわゆるカロリー(エネルギー)や栄養素を摂取して生きています。カロリーにも栄養素にも、ちょうど良い量の幅があります。また、毎日同じ食事を摂れる方はまずいないので、週・月の単位で、色々な栄養素を、どれくらいの頻度で摂っていくかを考えていくことが大切なのです。

編集部編集部

詳しく教えてください。

廣田先生廣田先生

例えば「鉄」という栄養素は、人間に必要不可欠な栄養素です。鉄は少なすぎると貧血などになりやすくなり、多すぎても問題になることがあることがわかっています。そのため多すぎず、少なすぎず、ちょうど良い量を摂る必要があります。鉄をがんばって取ろうとして、毎日レバーばかり食べていたら、鉄もほかの栄養素も多くなりすぎるかも知れません。食卓に登場させる頻度も考える必要があります。

糖尿病のある方が摂りすぎに気をつけたい栄養素とは

糖尿病のある方が摂りすぎに気をつけたい栄養素とは

編集部編集部

具体的にどのくらいが「ちょうど良い量」なのですか?

廣田先生廣田先生

“糖尿病のある方”と“健康な方”を比べて、栄養素などの「ちょうど良い幅」にどのような違いがあるか、すべてが分かりきっているわけではありません。「ちょうど良い幅」がほぼ変わらない栄養素も多そうなので、一般的な「ちょうど良い幅」とあわせて、糖尿病がある方の特有の注意点について考えていく必要がありそうです。

編集部編集部

なるほど。量が多すぎるとどのような悪影響がありますか?

廣田先生廣田先生

例えば、摂るカロリーが多すぎると、肥満になります。糖尿病のある方が肥満になると、糖尿病を悪化させてしまうことがわかっています。糖尿病がない方でも、肥満は健康に悪い影響がありますが、糖尿病のある方はより気をつける必要があります。

編集部編集部

やはり、糖尿病のある方は「炭水化物」の摂取量を減らすべきなのでしょうか?

廣田先生廣田先生

糖尿病は、血中の糖の量を調整する能力が落ちてしまう病気です。そう聞くと、糖質や炭水化物を食べる量を減らせば、血糖値を下げることができるように思ってしまいます。しかし、実はそう単純ではありません。炭水化物以外でいわゆるカロリー(エネルギー)のあるものとしては、脂質・たんぱく質などがあります。これらの脂質・たんぱく質も血糖値をあげる効果があります。炭水化物は食べてから、比較的すぐに血糖値があがるのに対して、脂質・たんぱく質は後から上がります。

編集部編集部

炭水化物を減らしても、脂質・たんぱく質が増えすぎては意味がないということですね。

廣田先生廣田先生

その通りです。炭水化物を極端に減らしたとしても、脂質・たんぱく質をとれば血糖値があがるし、「炭水化物さえ食べなければセーフ」だと思って脂質・たんぱく質を摂りすぎれば、血糖値はもっと上がってしまいます。このように、お米やパンなどの炭水化物についても、糖尿病のある方もちゃんと食べた方が良いでしょう。まだはっきりしない点もあるものの、糖尿病のある方はカロリーのうち炭水化物が40〜60%くらいが良いと言われています。

編集部編集部

その他、注意が必要な食べ物・飲み物があれば教えてください。

廣田先生廣田先生

注意が必要なものとして、糖類(お砂糖など)を足した甘い飲みものがあります。糖類が入っているようなジュース、炭酸飲料、エナジードリンクなどは、飲みすぎると糖尿病が悪化する可能性があります。まったく飲んではいけないわけではなく、習慣的に飲んでいる方は飲む機会を減らしたり、飲む量を減らしたりすると良いですね。

編集部編集部

糖尿病のある方は、具体的にどのような栄養素に気をつければいいのでしょうか?

廣田先生廣田先生

飽和脂肪酸」と「食塩」には注意が必要です。脂質にはいくつか種類があり、そのうちの一つの飽和脂肪酸は、過剰に摂取すると糖尿病を悪化させると言われています。飽和脂肪酸は主に、牛肉や豚肉など動物の肉や、一部の植物由来の油に多く含まれています。日本人全体でも摂りすぎていると言われている栄養素ですね。また、飽和脂肪酸を摂りすぎると、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)も上がりやすくなります。LDLコレステロールが上がりすぎると、血管が硬くなったり、詰まりやすくなったりします。これを「動脈硬化」と呼ぶのですが、糖尿病がある方は、動脈硬化に気をつけた方が良いと言われています。

編集部編集部

食塩についても教えてください。

廣田先生廣田先生

糖尿病の治療の大きな目的の一つは、血管を守ることです。食塩を摂りすぎると、血圧があがりやすくなって、血管を傷つけてしまいます。食塩は日本人全体で摂りすぎていると言われている栄養素なので注意しましょう。食塩が糖尿病そのものを悪くするわけではありませんが、糖尿病治療の目的を考えると、摂る量には気をつけたほうが良いですね。

課題は十人十色 自分に合った糖尿病治療をおこなうことが大切

課題は十人十色 自分に合った糖尿病治療をおこなうことが大切

編集部編集部

注意する項目が多くて、大変そうですね……。

廣田先生廣田先生

いろいろな例を見てきましたが、一概に糖尿病と言っても、食事の課題は人それぞれ違います。やせている人がそれ以上やせる必要はないですし、ジュースを日頃ほとんど飲まない人が飲む量をそれ以上減らす必要もありません。栄養バランスが崩れないよう、ほかに考えないといけないことはたくさんあります。それぞれちがった課題を自分で見つけて、対処していくのはなかなか大変です。

編集部編集部

栄養バランスを崩さないためには、どうすればいいのでしょう?

廣田先生廣田先生

すでに糖尿病を診断されている方には「栄養指導」をオススメしています。「栄養指導」というと、指導だから怒られるのではないか、などと身構えてしまう方も多いでしょう。しかし、実際にはあなたの課題を見つけてくれる「検査」や「相談」のような役割があります。あなたにとって多すぎるもの、少なすぎるものを見つけてくれて、更にその上で、どうしたらよいかプロが一緒に考えてくれるのが「栄養指導」です。自分が摂っている食事が「ちょうど良い幅」におさまっているかどうか、ぜひ栄養指導を受けてみると良いと思います。

編集部編集部

最後に読者へメッセージをお願いします。

廣田先生廣田先生

この記事では、ごく一部ですが、糖尿病の食生活で気をつけたほうが良い点を挙げました。そういったポイントを、実際に自分の食生活に落とし込んでいくことは簡単ではありません。食事は自分の好みだけで選べません。準備も含めて食事にかけられる時間、受けてきた教育、お金、家族、アレルギー、アクセスの良いスーパーや飲食店など、あなたの人生の様々な線が複雑に絡み合って、自分の食事を選んでいます。自由なようで自由ではない食事の選択の中で、栄養のことまで考えるのはとても大変だと思います。栄養の知識も、一朝一夕で修めることはできません。ぜひ、プロである管理栄養士とともに考えて見てほしいと思います。

編集部まとめ

「糖尿病だからといって絶対に食べてはいけないものは基本的にない」というのは驚きでした。“食事管理”と聞くと、食べるものが制限されるというイメージがありましたが、食べ物より「量・頻度」が大切とのことです。もちろん、甘いものだけの生活が悪いという話ではなく、栄養素やカロリーをちょうど良い幅の中におさめると良いでしょう。自分の血糖値が気になる方は、専門家に栄養指導を受けてみることを検討してはいかがでしょうか。

この記事の監修医師