運動療法で「糖尿病」の合併症予防 糖尿病性腎症と運動の関係とは?
糖尿病3大合併症の1つ「糖尿病性腎症」とは一体どのような合併症なのでしょうか? 改善・予防は可能なのでしょうか? 適切な運動療法は「糖尿病性腎症」の重要な治療法の1つと言われています。なぜ運動を行うことによる血圧や血糖のコントロールが効果的なのか、具体的な運動方法や運動の際、日常生活での注意点について、理学療法士の相澤さんに詳しく解説してもらいました。
監修理学療法士:
相澤 郁也(理学療法士)
糖尿病性腎症と運動の関係
編集部
糖尿病性腎症とはどのような病気ですか?
相澤さん
腎臓には血液を濾過して老廃物や余分な水分を取り除き、尿として排出する働きがありますが、糖尿病性腎症を合併すると腎臓の働きが低下します。腎症前期から始まり、早期腎症期には微量アルブミン尿が出現し、顕性腎症期には蛋白尿、浮腫が出現します。腎不全期には、蛋白尿や浮腫に続いて貧血、全身倦怠感が出現します。そして最終的には人工透析を行う状態である透析療法期に至ります。
編集部
人工透析の段階に至るとどうなるのですか?
相澤さん
人工透析が必要になると、週3回4〜5時間は透析を受けに行くことになり、生活の質(QOL:Quality Of Life)が落ちてしまうことがあります。QOLだけでなく、運動機能や日常生活動作(ADL)も低下しやすいため、透析療法期に至らないように、血糖管理のための運動療法を含む治療が重要となるのです。
編集部
運動によって糖尿病性腎症が予防できる理由について教えてください。
相澤さん
糖尿病性腎症の発症・進行予防のためには血糖や血圧のコントロールが有効であるとされています。運動は、筋肉でエネルギーとして血液中の糖を利用することから血糖値を低下させてくれます。また、内臓などに溜まった脂肪などを減らすことで、インスリン抵抗性(インスリンの効きづらさ)を改善できます。
編集部
運動には2つの良い効果があるのですね。
相澤さん
はい。両者の改善により血糖値を低下させる能力が向上することで、血糖コントロールに効果的に働きます。さらに、運動は血管を柔らかくする効果もあり、血圧のコントロールにも有効であることから、糖尿病性腎症の発症、進行予防に有効です。
編集部
運動による血圧低下や血糖コントロールと糖尿病性腎症はどのように関係しているのですか?
相澤さん
糖尿病によって血糖値が高い状態が長く持続すると、血管が詰まったり全身の小さな血管を傷つけて破れたりします。腎臓の濾過装置(糸球体)は、細く小さな血管が多いため、運動によって血糖のコントロールを行う必要があります。また、血圧が高くなると腎臓の血管でも血液の流れが制限されます。流れが制限されることで、腎臓に必要な酸素や栄養素の供給が少なくなるため、腎臓の機能が低下してしまいます。そのため、運動によって血圧を下げる必要があります。
運動による糖尿病性腎症の予防・改善
編集部
糖尿病性腎症を予防するためにはどのような運動が効果的ですか?
相澤さん
有酸素運動は、血糖と血圧のコントロールの改善に有効で、糖尿病性腎症の発症・進行を予防します。有酸素運動の例としては歩く、ジョギング、サイクリング、水泳などがあります。週に150分以上、中強度から高強度の有酸素運動を目指すと良いですね。また、筋力トレーニングも同様に血糖と血圧のコントロールの改善に有効で、糖尿病性腎症の発症・進行を予防します。筋力トレーニングには自分の体の重さを使った運動(スクワットや踵上げなど)や、ダンベル・重錘(じゅうすい)を使った運動などがあります。
編集部
糖尿病性腎症の合併している人に有効な運動はどのようなものがありますか?
相澤さん
糖尿病性腎症を合併すると食欲が落ちることによる栄養不足や、病気の進行などによって筋力や体力、筋肉量の低下が見られると言われています。また、ADLや生命予後が低下するとも言われており、こちらも筋力トレーニングと有酸素運動がADL能力や合併症の維持・改善のためにも効果的であるとされています。
編集部
日常生活において気にかけると良い点は何かありますか?
相澤さん
どの病期においても血糖と血圧のコントロール、脂質の管理、禁煙、身体活動は大事なため、生活習慣の改善を気にかけると良いでしょう。また、早期腎症期以降では、タンパク質の摂取量など、食事で気にかける必要が出てきますので、医師や栄養士などの医療従事者と相談する必要があります。
糖尿病性腎症における運動療法の注意点
編集部
糖尿病性腎症の進行度によって、運動の適否や注意すべき点はどのように変わるのでしょうか?
相澤さん
早期腎症までは運動制限の必要はありませんが、顕性腎症期以降では病態により運動の強度を調整することが勧められています。病態による運動方法の調整については、どの程度調整するべきか医師や理学療法士など医療従事者に確認を取ってください。
編集部
運動中に起こりやすい合併症や危険な症状について教えてください。
相澤さん
糖尿病性腎症の特有のリスクとして、特に低血糖に注意する必要があります。腎臓の機能が低下すると代謝機能が低下し、薬剤が体内に残ってしまうことから低血糖になりやすいですね。したがって、体内に直接インスリンを注入するインスリン製剤や経口摂取薬(口から摂取する薬)のスルホニル尿素(SU)薬、グリニド薬といった、血糖値を低下させる薬剤を使用している場合には特に注意が必要です。
編集部
低血糖になるとどのような症状があるのですか?
相澤さん
低血糖の症状として、70mg/dLでは、空腹感、あくび、めまい、発汗(冷や汗)、動悸(頻脈)、震えなどといった自律神経の症状が出ます。50mg/dL以下では、中枢神経の症状により眠気、脱力感、集中力の低下などが起こり、30mg/dLでは、意識障害、昏倒、けいれんなどが起こってきます。したがって、症状の出現に注意しながら運動を行う必要があります。
編集部
糖尿病性腎症のある患者さんが運動を始める前に注意すべき点は何ですか?
相澤さん
運動は利点も多いですが、適切に行わなければ合併症の状態を悪くすることがあります。自身の状態を把握し、適切な運動を実施するために、予め医師や理学療法士と相談してから運動を開始する必要があります。
編集部
最後にMedical DOC読者にメッセージをお願いします。
相澤さん
「糖尿病性腎症」は腎臓の機能低下を引き起こし、重症化すると人工透析が必要になり、QOL・ADLを低下させてしまう場合もあります。医師や理学療法に相談し、注意点を理解した上で、ぜひ有酸素運動、筋力トレーニングを行ってみてください。
編集部まとめ
「糖尿病性腎症」には、適切な運動が予防と進行の抑制に有効とのことでした。血糖や血圧のコントロールを改善し、合併症の発症・進行の予防に努めましょう。重篤化してしまうと人工透析が必要になり、QOLを低下させてしまいます。日々の運動・治療を継続しておこない、健康に日々を過ごしましょう。