「心筋症」の症状・原因・なりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が徹底解説!
心筋症とは?Medical DOC監修医が心筋症の種類・症状・原因・なりやすい人の特徴・平均寿命・治療法などを解説します。
監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
目次 -INDEX-
「心筋症」とは?
心臓は4つの部屋に分かれている、筋肉で覆われた臓器であり、それぞれの部屋が連動して動くことによって血液を送り届けるポンプのような働きをしています。
心筋症とは、この心臓の筋肉に異常が生じてしまい、心臓の機能が低下してしまう病気です。
心筋症の種類
心筋症では心臓の筋肉が病的に厚くなるものや、逆に極端に薄くなってしまうもの、遺伝子の異常やウイルス感染等が原因となるものなど、いくつか種類があります。
ここでは、代表的な心筋症について解説していきます。
拡張型心筋症(DCM)
心臓の部屋が拡張して大きく膨らんでしまい、心臓の筋肉がうまく収縮できなくなるため、心臓から血液を送り出す働きが弱まり、血液の循環が障害される心不全状態を引き起こしてしまいます。
肥大型心筋症(HCM)
心臓の筋肉が厚くなる心肥大によって、心臓の筋肉の動きの障害が発生し、心機能が低下してしまう状態です。遺伝的な関連があることも知られており、6割程度には、心筋を形成する様々なたんぱく質の遺伝子変異が関連しているとされています。
拘束型心筋症(RCM)
心筋細胞の線維化が進行することで、心臓の筋肉組織の弾力が低下し、うまく心臓が膨らめなくなってしまい、心機能低下を認める疾患です。
非常にまれな疾患です。
心筋症の代表的な症状
どのタイプの心筋症でも、初期の段階で症状が出現することはほとんどありませんが、心筋症の進行に伴って心不全状態となり、心不全症状が出現するようになります。
主な症状としては以下のようなものがあります。
息切れ、呼吸の苦しさ(呼吸困難感)
各種心筋症の進行に伴い、心不全状態となると生じやすい、代表的な心不全症状の一つです。心不全状態となることで生じる息苦しさの代表的なものとして「起坐呼吸」というものがあります。これは心不全により、肺に水がたまる胸水が生じ、それが増えてしまうことで、特に横になったときに息苦しさ、呼吸困難症状が増悪し、体を起こした状態になると楽になる症状です。
他にも、普段できていたような労作で息切れが出現する、一休みしないと継続できなくなるような場合には、心不全症状を起こしている可能性もあるため、注意が必要です。
胸痛や強い動悸を伴う、突然の呼吸困難や息切れが出現した際には、緊急性が高い可能性もあるため、救急要請なども必要となります。
胸痛
心不全による症状の一つとして胸痛があります。
狭心症などのように、心臓の筋肉に栄養や酸素を供給している冠動脈の血流障害が生じてしまうことで引き起こされます。心筋症の進行によって心不全状態となり、心臓から拍出される血液量が低下することで、冠動脈の血流低下が生じます。
冠動脈の血流障害によって生じる典型的な症状としては、胸の中心~左側の締め付けられる様な強い痛みであり、冷や汗や吐き気を伴うような非常に強い症状のこともあります。中には、左肩や顎、奥歯まで苦しくなる放散痛を伴う事もあります。
15分以上持続するような強い胸痛の場合には、緊急性が高くなるため注意が必要です。
短時間で落ち着いたとしても、それまでなかった症状が出現している際には早期の循環器科受診が大切です。
動悸
心筋症の進行に伴って心機能が低下すると、様々な不整脈が出現すし、動悸が出現する事があります。
脈が数拍乱れるような期外収縮だけでなく、心房細動や上室頻拍のような頻脈発作が起こりやすくなります。さらに心筋症が進行し、心不全が悪化すると心室頻拍や心室細動など、致死的な不整脈が出現することもあります。中には突然死を起こすこともあり、注意が必要です。
動悸以外に胸痛や強い呼吸苦症状、失神などの意識の異常を伴う場合には緊急性が高い可能性があるため、救急要請も検討が必要です。
めまい、ふらつき、失神
心筋症が進行することで、心機能が大きく低下すると、心臓から全身へ送られる血液量が不足します。そうすると、脳への血流が低下することによってめまいやふらつきが生じやすくなります。ほかにも不整脈が多くなった場合にも同様の症状が出現することもあります。
高度の心機能低下が出現した場合や、高度の頻脈性不整脈や、心室頻拍や心室細動などの危険な不整脈が出現すると、失神することもあります。
心筋症の主な原因
心筋症の明らかな原因は、現在でもよくわかっていないことが多くあります・。。
ただ、最近ではウイルス感染や自己抗体の異常、遺伝など、いくつかの原因があることが分かってきています。
ウイルス感染
拡張型心筋症患者の心臓組織から、共通したウイルスゲノムを検出したとする報告が複数されています。特にコクサッキーウイルスやアデノウイルスなどのウイルスが影響している可能性が疑われるが、まだ詳細な関連は証明されていません。
自己免疫の異常
ウイルスの感染を契機として、異常な自己免疫反応が引き起こされてしまい、本来体を守るための免疫系が、自分の体を攻撃するようになってしまうことで、心筋症を引き起こす可能性があります。
しかし、報告による自己抗体の検出率に差があり、どのような機序で関連しているかはまだはっきりわかっていません。
遺伝
肥大型心筋症では、家族内で多く発症することがあり、約60%程度に心筋を形成するたんぱく質の遺伝子変異を認めるとされています。
拡張型心筋症では、患者の20-40%に共通した遺伝子の変異が検出されています。これらの遺伝子変異は、心筋の収縮に関連するたんぱく質をコードする遺伝子に生じています。
心筋症になりやすい人の特徴
心筋症は原因がはっきりしていないため、何がこの病気を引き起こすのかははっきりしていません。現時点で、関連がありそうな要因としては以下のようなものがあります。
家族内に心筋症患者がいる
日本の報告でも、拡張型心筋症と診断された患者の5%は家族内発症があり、肥大型心筋症では60%に遺伝子変異が認められていることが報告されています。そのため、家族内に心筋症の患者がいる場合には、遺伝的な要因が影響する可能性もあるため、定期的な健診などのフォローが重要となります。
生活習慣がみだれている人
拡張型心筋症の直接的な要因となるかははっきりしていませんが、心疾患は不適切な生活習慣によって引き起こされることが多く、心不全状態を悪化させる要因となるため、生活習慣には注意が必要です。
高血圧などの生活習慣病の管理や、塩分やカロリーの取りすぎ、喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足、不規則な生活リズム、過度のストレスなどは心不全の原因となるさまざまな病気を引き起こすため、注意が必要です。
心筋症の予後
どのタイプの心筋症か、患者の年齢や合併症、全身状態によって余命は異なりますが、一般的には下記のように考えられています。
拡張型心筋症では5年間生存できる確率は76%程度とされており、死因の大部分が心不全や致死的な不整脈です。
肥大型心筋症では、年間死亡率は2.8%、5年生存率91%、10年生存率が81%と報告されています。
拘束型心筋症は非常にまれな疾患であるため、疫学研究が少なく、まだはっきりわかっていません。
近年では、薬物療法やCRTなどの非薬物療法の進歩もあり、心筋症の予後は改善してきています。
心筋症の治療法
心筋症には、現時点では根治的な治療方法は確立されていません。
心筋症の進行によって引き起こされる心機能低下、心不全症状に対する治療を行う治療が行われます。行われる治療としては以下のようなものがあります。
薬物治療
心不全の治療として、利尿剤や心臓を保護する薬剤などを投与して治療を行います。
心筋症による心機能が軽い段階では、主に内服薬を用いた治療を行い、重症度が高い場合や急性期には、注射剤が使用されることが多いです。
代表的な心不全に対する効果が認められている薬剤としては、交感神経系に作用するβ遮断薬や、レニン・アンギオテンシン系に作用するアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が標準的に使用されることが多いです。これらの薬剤では、心機能保護効果や、心血管イベント、死亡の減少効果などのエビデンスが証明されています。
さらに近年では、SGLT2阻害薬やアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)といった新しい機序の薬剤も、心不全の悪化予防・予後改善が証明されており、標準的な心不全治療薬として広く使用されるようになってきています。
手術
肥大型心筋症の中でも、心臓の出口の筋肉が厚くなって狭くなってしまうことで血流障害が出現する閉塞性肥大型心筋症では、狭くなった心臓出口周囲の筋肉を削り取るような外科治療や、カテーテルを用いて厚くなった心筋の血管を閉塞して筋肉を壊死させ、狭窄を解除するカテーテル治療(経皮的中隔心筋焼灼術:PTSMA)が行われることもあります。
ペースメーカー、植込み型除細動器
心筋症の悪化によって、脈が遅くなるタイプの不整脈が出現した場合、にはペースメーカー植込み手術が実施されることがあります。
さらに、心筋症が進行すると、心臓が痙攣して、血液をうまく送り出せなくなるような危険な不整脈が出現しやすくなるため、その危険な不整脈を電気ショックで止める機能がある、植え込み型除細動器の植込み術が行われる場合もあります。
また、心筋症の進行によって高度の心不全状態となった際には、心臓の動きを助ける特殊なペースメーカーを植え込む心臓再同期療法(CRT)が行われることもあります。
呼吸管理
心筋症の進行により低心機能状態となり、心不全が重度になると、胸水が溜まりやすくなったり増加することで、呼吸障害が強くなってしまいます。
そのため、日常的に呼吸をサポートする治療機器を使用することが必要となます。酸素の吸入や陽圧をかけるマスクを装着した治療の実施を入院中や、場合によっては在宅でも実施することが必要となることもあります。
さらに重症化すると、人工呼吸器を装着した集中治療が必要となります。
循環管理
心筋症の進行に伴う低心機能の進行、心不全の悪化により、心臓からうまく血液が送り出せなくなってしまう場合には、循環を助ける薬剤や機器を使用することが必要となります。
点滴で使用する心臓の働きを補助する強心作用がある薬剤や、血圧を上昇させる昇圧剤の薬剤の持続投与を行うこともあります。
さらに心機能の低下が進行し、全身に血液が送れなくなってしまった場合には、足の付け根の太い血管から、血液の循環をサポートする特殊なカテーテルを挿入し、カテーテルについた風船(バルーン)を心臓の動きに合わせて拡張・収縮させることで、心臓の働きをサポートする大動脈内バルーンパンピング(IABP)が使用されることもあります。
さらに心機能が悪化する際には、心臓の代わりに体外のポンプから酸素化した血液を送り込む人工心肺などの補助循環装置を使用する事もあります。
また、心筋症の進行によって高度の心不全状態となった際には、心臓の動きを助ける特殊なペースメーカーを植え込む心臓再同期療法(CRT)が行われることもあります。
心機能低下が高度に進行し、補助循環がないと生きていけない状態となってしまった際には、心移植が実施されることもあります。
「心筋症」についてよくある質問
ここまで心筋症について紹介しました。ここでは「心筋症」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
ストレスが原因で心筋症を発症することはありますか?
小鷹 悠二 医師
ストレスが原因で心機能の低下が生じる、「たこつぼ型心筋症」という病態もあります。
この疾患は、精神的・肉体的な強いストレスをきっかけに、突然の心筋障害を生じます。
ストレスの原因は、重い病気や大きな手術による負荷、家族との死別、中にはサプライズパーティーやギャンブルでの勝ち負けなど、さまざまな要因が報告されています。
心筋梗塞などの心疾患と似た、突然の胸痛や呼吸苦を生じますが、虚血性心疾患のように血管の流れが悪くなるなどの病態ではないため、特別な治療はなく、合併症や病態に応じた治療を行い、予後はよいとされています。
編集部まとめ
心筋症は、まだよくわかっていないところもあり、種類によっては治療が難しく、予後が悪いこともある、危険な病気の一つです。
しかし、近年では治療方法の進歩もあり、その予後は徐々に改善傾向となっています。
根本的な治療はありませんが、早期の発見・治療によって症状を軽減し、予後を改善させることができるため、普段から定期的に健診を受けるなど、ご自身の健康には気を付けるようにしましょう。
「心筋症」と関連する病気
「心筋症」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
心筋症にはいくつか種類がありますが、初期の段階でほとんど症状が出現しません。病気がある程度進行すると、心不全の症状が出現するようになります。
「心筋症」と関連する症状
「心筋症」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 息切れ、呼吸が苦しい
- 胸痛
- 動悸
- 浮腫
- めまい、失神
- 突然死
心筋症には現時点で根本的な治療はありませんが、早期の診断と治療によって症状の軽減と予後の改善が見込める病気です。気になる症状があれば早めに医療機関を受診するようにしましょう。