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「心筋梗塞の主な5つの後遺症」はご存知ですか?リハビリについても医師が解説!

 更新日:2023/11/30
「心筋梗塞の主な5つの後遺症」はご存知ですか?リハビリについても医師が解説!

心筋梗塞の後遺症にはどんな症状がある?Medical DOC監修医が心筋梗塞の後遺症・リハビリなども解説します。

丸山 潤

監修医師
丸山 潤(医師)

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群馬大学医学部卒業。群馬県内の高度救命救急センター救急科及び集中治療科に2022年まで所属。2022年より千葉県の総合病院にて救急総合診療科および小児科を兼務。乳児から高齢者まで幅広い患者層の診療に努める。
【保有資格】
医師/医学博士/日本救急医学会救急科専門医/日本集中治療医学会集中治療専門医/DMAT隊員/日本航空医療学会認定指導者(ドクターヘリの指導者資格)/JATECインストラクター/ICLSインストラクター

「心筋梗塞」とは?

心筋梗塞は心臓の血管が詰まり、強い胸痛が出現して心筋が壊死する非常に怖い病気です。心筋梗塞は素早く治療することで後遺症なく完治することもありますが、しばしば心臓の機能低下を招いたり、その他の心疾患を引き起こす原因となったりします。

心筋梗塞の後遺症

心筋梗塞は心筋が壊死してしまう病態であり、壊死した部分が動かない・機能しない・破綻することによってさまざまな後遺症が出現します。

心不全

心不全の原因として心筋症や弁膜症など、さまざまな病気がありますが、最も多い原因は心筋梗塞です。心筋梗塞によって壊死した心筋部分が大きいと、心筋が十分にポンプの役割を果たせず、身体の要求に見合うだけの十分な血液を送り出せないため、心不全状態となります。心不全の症状としては、体を動かしたときの息切れ、横になっているときの呼吸困難、体重増加、むくみ(特に下肢)、全身倦怠感、胸の痛み、動悸などがあります。
心不全はすでに心筋が壊死して機能を失っているため、完治は困難です。症状を緩和して、症状が再燃・増悪しないように管理する治療が中心となります。具体的には薬を用いて水分バランスを整え、運動の強度を段階的に増やし、自宅で生活できる状態まで改善したら退院となります。退院後も心臓に負担をかけないよう塩分少なめの食事を摂り、水分制限をすること、無理のない適切な運動を行うことが重要です。

不整脈

心筋梗塞により心筋の伝導路(電気の流れる道)に異常が生じると不整脈が起こり得ます。心筋梗塞で入院した患者の80%以上が何らかの不整脈を発症すると言われ、非常に頻度の高い後遺症です。中でも心室性期外収縮はもっとも頻繁に見られ、これは心室頻拍や心室細動といった命にかかわる重症の不整脈へと進行するリスクがあるため、特に注意が必要です。さらに、発作性上室性頻拍や心房細動、心房粗動といった頻脈性(速いタイプの)不整脈から、洞性徐脈や房室ブロック、脚ブロックなどの徐脈性(遅いタイプの)不整脈までさまざまなパターンがあります。
不整脈の一部は薬物療法やカテーテル治療・手術で治療可能ですが、一度不整脈を経験した患者さんは再発のリスクを常に抱えています。発症後は定期的な心電図検査を受け、不整脈を抑える薬の用量を適宜調整します。心筋梗塞や心不全が合併すると不整脈が出やすくなるため、減塩食や水分管理を行い、その他の心疾患を起こさないよう健康管理をする必要があります。

左室破裂

心筋梗塞の深刻な合併症の一つに左室破裂があります。これは心筋梗塞により心室壁が壊死し、左室壁が裂けてしまう状態を指します。この合併症は心臓を水風船に見立てた場合、水風船に穴が空いてしまう現象であり、心臓の外側に血が噴出してしまいます。実際は心臓の周囲に心膜という膜があるため、心臓と心膜の間に血がたまる”心タンポナーデ”という状態となります。
心タンポナーデになると噴出した血が心臓を押しつぶし、血圧が低下し、最終的には心臓が止まってしまいます。血圧低下・心停止を防ぐために、心タンポナーデを発見したらすぐに心臓と心膜の間にある血液を吸引する”心嚢ドレナージ”という処置が必要になります。穴が小さく血が固まっている場合には様子見も可能ですが、穴が大きい場合はそのままでは治らないため、心臓血管外科が穴を塞ぐ手術を行います。手術後は集中治療室(ICU)で血圧を含め全身状態を厳格に管理し、リハビリテーションを経て退院します。退院後は心筋梗塞予防・心不全予防同様に血圧を管理し、食事・飲水量に注意して生活します。

心室中隔欠損

心室中隔穿孔も心筋梗塞の合併症の一つで、心筋梗塞により心室中隔(心臓のしきり)が壊死し、穴が開いてしまう状態です。これにより左心室と右心室間で異常な血流が生じ、心不全を起こします。心室中隔穿孔を起こすと血圧低下による全身倦怠感・体動困難、肺水腫による呼吸困難が生じます。心室中隔に心筋梗塞によるダメージがあるとわかっている患者さんでこのような症状が生じた時には、すぐに心臓エコー検査を行い、心室中隔穿孔による異常な血流が発生していないかチェックします。
心室中隔穿孔の治療は手術やカテーテル治療です。手術を受けられる体力がある場合、手術によって穿孔を閉鎖し、心機能を回復させることが期待できますが、手術自体に高いリスクが伴います。また、手術をしたとしても、やはり一度壊死した部分は弱いため再発するリスクがあります。高血圧の治療をしっかり行い、もし息切れや体動困難を自覚した時には心室中隔穿孔の再発の可能性も考えて、すぐにかかりつけの循環器内科・心臓血管外科を受診しましょう。

僧帽弁閉鎖不全症

心臓の左心房と左心室にある扉が僧帽弁で、その扉が逆側に開かないようにヒモ(腱索)を引っ張っておくことが乳頭筋の仕事です。この乳頭筋が心筋梗塞で壊死してちぎれてしまうと、僧帽弁閉鎖不全症をきたします。僧帽弁閉鎖不全症は左心室から左心房へ血流が逆流することで、心不全症状(動悸、息切れ、めまい、むくみなど)を起こします。心筋梗塞を発症して数日後に突然の呼吸困難と血圧低下を起こすこともあります。
乳頭筋断裂による僧帽弁閉鎖不全の治療において、かつては保存治療(手術をせずに入院管理)が主流でしたが、その死亡率は80%でした。そのため、現在では原則手術を行います。手術方式としては僧帽弁を入れ替える “僧帽弁置換術” が最も確実に僧帽弁を修復できるため、選ばれることが多い治療法になります。ただし、部分的な断裂の場合や健康な乳頭筋が残っている場合には、断裂した乳頭筋を健康な乳頭筋に固定する手術や、人工的な腱索を作成する手術が選択されることもあります。最近では、カテーテルを用いて僧帽弁をクリップで閉じる治療も行われるようになりました。カテーテル治療であれば胸を開く大手術は必要なく、太ももの付け根から針を刺してカテーテルでクリップを置いてくるだけで済むため、手術の負担に耐えられない高齢者や併存疾患をお持ちの患者さんも治療できるメリットがあります。

心筋梗塞の後遺症を軽減するリハビリ

心筋梗塞後の後遺症や慢性心不全のある患者さんには「心臓リハビリテーション」と呼ばれるリハビリが提供されます。心臓リハビリテーションとは、心臓病の患者が体力を回復し、自信を取り戻し、快適な家庭生活や社会生活に復帰することを目指して行われる総合的な活動プログラムです。このプログラムでは以下のようなリハビリが行われます。

運動療法

心不全で入院したばかりの急性増悪時には運動は禁忌であり、安静にする必要があります。しかし、慢性心不全があるとしても病状が安定している時は適度な運動が大切です。もし運動せずに過度な安静状態が続くと、運動耐容能(体力)が低下し、疲れやすく息切れしやすい体になってしまいます。特に高齢者では階段の上り下りやトイレ、入浴といった日常生活にも支障をきたすようになるため、運動療法は非常に重要なリハビリです。
運動療法は、左室駆出率(LVEF)が低下した慢性心不全患者に対して有益であり、中等度の強度で行われる2〜6ヶ月のトレーニングによって、運動耐容能が約20%向上することが示されています。また、運動療法を行うことで入院率が低下し生存率が改善するとの報告もあります。つまり、運動療法にはより健康的な状態で長生きできる効果があると言えます。
運動療法は入院中から患者さんの状態に応じて慎重に開始され、安定期には週に3〜5回、1回に20〜60分の運動が推奨されています。

学習運動・生活指導

学習活動では、心不全とはどんな病気なのか、どんな症状が出るのか患者さんと家族に知っていただきます。そして、日頃からどのようなことに気をつけて過ごしてもらうのか、急性増悪時にどう対処すべきなのか深く理解してもらうことで、より良い状態を維持できるよう支援します。
具体的な生活指導としては血圧の適切な管理、塩分制限、水分制限、禁煙、運動制限などが挙げられます。また、治療アドヒアランスの維持・向上も非常に重要です。治療アドヒアランスとはしっかり定期通院を継続し、治療薬を毎日忘れずに飲むといった形で「患者が治療方針の決定に賛同し積極的に治療を受ける」ことを指します。そのためにも、学習活動を通して、患者さんに今行っている治療の意義についてしっかり納得してもらうことが大切です。
認知症などセルフケア能力に制限がある患者さんに対しては、家族の支えや社会資源の活用が推奨されます。適切なセルフケアは心不全増悪の予防に大きな役割を果たし、セルフケア能力の向上により生命予後やQOL(生活の質)の改善が期待できます。

カウンセリング

抑うつや不安といった精神症状は、心不全患者の生命予後悪化と関連しており、治療アドヒアランス低下の原因にもなります。そのため、カウンセリングによってこれらの精神症状を改善することも重要なケアの一つです。
カウンセリングの過程では、まず患者との信頼関係(ラポール)を構築し、患者さんが個人として尊重されていると実感できる環境を提供します。そして、心不全に関連する精神症状についての情報を伝え、ストレスへの対処法を一緒に検討することで感情のコントロールを含むセルフマネジメントの能力を高めます。臨床心理士によるカウンセリングを受けることができる医療機関もあります。ただし、ただのストレスに留まらず病的な精神症状が出ているケースでは、精神科医や心療内科医による専門的な診断と治療が必要になります。
カウンセリングはストレスの軽減のほか、仕事や家事の効率化や余暇活動についての話し合いなど患者さんのQOLを高める援助も行います。カウンセリングの中で、妊娠希望や性生活、環境(家族関係や受けることができる看護・介護サービス)についての悩みを拾い上げて医師と情報を共有することで、よりその患者さんの状況に即した心不全治療を提供することにも繋がります。

「心筋梗塞の後遺症」についてよくある質問

ここまで心筋梗塞の後遺症を紹介しました。ここでは「心筋梗塞の後遺症」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

心筋梗塞が原因で脳に後遺症を引き起こすことはありますか?

丸山 潤医師丸山 潤(医師)

心筋梗塞が原因で脳に後遺症を引き起こす可能性はあります。それは心筋梗塞により血圧が非常に低くなった、もしくは一旦心臓が止まったような場合です。脳血流が少なくなり、一時的に脳に酸素が送られなかったことが原因で脳に障害が残ってしまいます。これは低酸素脳症と呼ばれ、植物状態になってしまうものから、手足の麻痺・しびれが出てしまうもの、遅れて認知症のような症状をきたすものまで、その症状はさまざまです。
低酸素脳症が重篤なものにならないようにするためには、一秒でも早く脳血流を改善させることがなにより重要です。そして、その後も脳への酸素供給が損なわれることがないよう注意深く管理する必要があります。

心筋梗塞の後遺症に疲れやすさはありますか?

丸山 潤医師丸山 潤(医師)

疲れやすさは心筋梗塞の後遺症による心不全の典型的な症状です。動いた時の息切れや体の浮腫からくる全身倦怠感がある場合は、治療が必要な心不全になっている可能性があるため、かかりつけの循環器内科・心臓血管外科を受診しましょう。

編集部まとめ

心筋梗塞は早期治療により後遺症なく完治することもありますが、心不全や不整脈など今後の生活を大きく変えてしまうような後遺症が出てしまうケースもしばしばあります。しかし、包括的な心臓リハビリテーションを通して、正しい食生活、適度な運動、適切な服薬を続けることでより良い状態を維持することができます。
この記事がご自身や身近な人にとって、より健康的で有意義な時間を過ごすヒントになれば幸いです。

「心筋梗塞の後遺症」と関連する病気

「心筋梗塞の後遺症」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

循環器科の病気

脳神経科の病気

心筋梗塞の後遺症は発症後すぐに起こるものから、遅れて出てくるものまでさまざまです。何かいつもと違うなと思う症状が出現した場合は心筋梗塞の後遺症かもしれません。

「心筋梗塞の後遺症」と関連する症状

「心筋梗塞の後遺症」と関連している、似ている症状は7個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

心筋梗塞の後遺症ではこれらの症状が出現することがあります。このような場合は心筋梗塞の後遺症による心不全や血圧低下による脳障害の可能性もあるため、すぐに医療機関を受診しましょう。

この記事の監修医師