「膵臓がん」で使用する「抗がん剤」はご存知ですか?副作用となる症状も解説!

Medical DOC監修医が膵臓がんで使用する抗がん剤の種類・副作用・抗がん剤以外の治療法などを解説します。

監修医師:
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)
目次 -INDEX-
「膵臓がん」とは?
膵臓がんとは膵臓にできるガンの事です。膵臓がんは胃や腸の背中側にあり、なかなか発見しづらいこと、進行が早いことなどにより見つかったときには進行がんとなっていることも少なくありません。膵臓がんが進行して手術等ができなくなった場合、抗がん剤の治療(化学療法)となることが多いでしょう。
ここでは膵臓がんの抗がん剤治療を中心に解説していきます。
膵臓がんで使用する抗がん剤の種類
膵臓がんの時に使用する抗がん剤はいくつか種類がありますが、ガイドライン上では使用する順番が決まっています。しかしながら人それぞれの状態(年齢など身体の状態)によって使用する抗がん剤やその量は調整されます。
FOLFIRINOX療法(mFOLFIRINOX療法)
FOLFIRINOX療法ではイリノテカン、オキサリプラチン、レボホリナートカルシウム、フルオロウラシル(5-FU)という薬を併用する治療法です。膵臓がんの抗がん剤治療でも1番目に推奨される治療の一つですが、効果が高いとされる反面、副作用も強い治療です。そのため、高齢の方には行いにくく、比較的元気な若い人に対して行います。また、日本人は一部の副作用(骨髄抑制:血球減少)が起こりやすいとされており、一部の薬を減量したもの(modified FOLFIRINOX療法:mFOLFIRINOX療法)を行う施設も多いでしょう。その他、この治療法にはイリノテカンという薬が使用されており、遺伝子型(UGT1A1) によっては副作用が出やすく、薬を減らしたり薬自体が投与できないということもあります。そのため治療を始める前に血液検査でこの遺伝子を調べます。
この治療では、まず外来で4時間ほどかけて薬を投与し、その後でフルオロウラシル(5-FU)を46時間かけて点滴で投与します。そのため、治療を始める前に皮膚の下に埋め込む形でカテーテルを留置し、そのカテーテルについている器具に点滴の針を刺して行います。最後に行う46時間の点滴については、自宅に帰って自分で針を抜く形になります。この治療を2週間おきに繰り返していきます。
ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法(Gem/nab-PTX療法、GnP療法)
ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法とはその名の通りゲムシタビン(ジェムザール)という薬とナブパクリタキセル(アブラキサン)という薬を併用する治療法です。これらの薬はガン細胞のDNA合成を妨げたり、細胞の分裂を妨げることによりガンの進行を抑えていくものです。これも先に説明したFOLFIRINOX療法と同じく1番目に推奨される治療法ですが、FOLFIRINOX療法に比べて高齢者でも安全にできると言われており、高齢の方の膵臓がんではこちらの治療が検討されます。
GnP療法では、1回60-90分程度(前投薬を含めると2時間程度)の点滴を外来で行います。これを基本毎週同じ曜日に3週間連続で行い、残り1週間をお休みとし4週間を一つの単位(1コース)として繰り返していきます。ただし、この薬も効果がある反面副作用もある程度ある治療のため、身体の状態、血液検査の結果などを診ながら適宜薬の量を変更したり、投与の回数、間隔を調整していきます。
Nal-IRI/FL療法
Nal-IRI/FL療法とはリポソーマルイリノテカン、レボホリナート、フルオロウラシル(5-FU)を組み合わせた療法です。この療法はゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法を行ったものの腫瘍を抑えきれなかった場合などに行われ、イリノテカンを脂質の膜で包んだ薬剤を使用することにより、血液の中に薬剤が存在する時間を長くしたり、ガンに集まりやすくし、効果を高めています。
この治療では先述したFOLFIRINOX療法と同様にイリノテカンという薬が使用されているため、同じく遺伝子型(UGT1A1) によっては副作用が出やすく、薬の減量が必要であったり薬が使用できないこともあります。そのためFOLFIRINOX療法と同様に治療を始める前に血液検査でこの遺伝子を調べておく必要があります。
この治療は、外来で4時間ほどの点滴を行い、その後でフルオロウラシル(5-FU)を46時間かけて点滴で投与します。そのためあらかじめ治療を始める前に皮膚の下に埋め込む形でカテーテルを留置し、カテーテルの先にある点滴の針を刺して行います。最後に行う46時間の点滴については、自宅に帰って自分で針を抜く形になります。この治療を2週間おきに繰り返していきます。
ゲムシタビン単独療法
ゲムシタビン単独療法は第一選択のFOLFIRINOX療法やゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法に比較し副作用が少なく、身体への負担も少ないとされています。FOLFIRINOX療法を行ったけれどガンを抑えきれなかった人の他、年齢や他の病気、身体の状態からこの2つの治療を行うことが難しい人もこの療法が選択肢の一つとして挙がります。
この治療法では1回30分程度(前投薬を含めて1時間程度)の点滴を週1回、3週連続で行い、その後の1週間をお休みとして4週間を一つの単位(1コース)として繰り返していきます。
S-1単独療法
S-1単独療法はゲムシタビン単独療法と同様に第一選択のFOLFIRINOX療法やゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法に比較し副作用が少なく、身体への負担も少ないとされています。また、この治療法は飲み薬で行うため、ある程度状態が落ち着いているのであれば病院の受診回数も少なくすることができます。また、他の治療法と異なり、1回数時間の点滴を受ける必要もありません。ただし、自宅で薬を管理して治療していくため、薬の飲み忘れ等がある人には不向きです。
この治療はゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法を行ったけれどガンを抑えきれなかった人の他、ゲムシタビン単独療法と同じく年齢や他の病気、身体の状態からこの2つの治療を行うことが難しい人もこの療法が選択肢の一つとして挙がります。
この治療では飲み薬を1日2回服用し、それを28日間連続で続けます。その後、14日間薬をお休みし、6週間を一つの単位(1コース)として繰り返していきます。
その他
膵臓がんの中には遺伝子変異などを伴うものがあります。遺伝子の変異を調べ、もしその変異があった場合、その異常のある部分に対して効果を発揮しガンの進行を抑える薬剤(オラパリブ、ペムブロリズマブ)もあります。ただし、もちろんこれらは遺伝子変異のある人にしか使えず、変異がある確率もどのようなものかにもよりますが数%程度です。
また、手術ができる人に対しても手術前に転移を抑えるための術前化学療法(GS療法)や術後の抗がん剤治療を行うこともあります。
膵臓がんで使用する抗がん剤の副作用
消化器症状
抗がん剤により、下痢や便秘、嘔気嘔吐などの消化器症状が起こることがあります。これらについては適宜吐き気止めや便秘薬などの薬で対応していきます。下痢の場合でも、かなりひどい下痢であれば下痢止めを使うことがあります。
血球減少
抗がん剤治療ではガン細胞だけではなく、全身の細胞に対して抗がん剤が効いてきます。その中でも白血球や赤血球、血小板などの血球は抗がん剤の影響を受けやすいでしょう。
抗がん剤によってこれらが少なくなってくると、感染症に弱くなってしまったり、貧血が進んでいろいろな症状が出たり、出血しやすく、血が止まりにくいなどの症状が出てきます。
そのため、抗がん剤を投与する前は毎回血球の値を確認し、値が少なくなっていれば薬の量を減らしたり一旦投与を中止したりと調整していきます。
倦怠感
抗がん剤を投与すると身体のだるさが表れてくることがあります。抗がん剤治療を始めてすぐの時はあまり感じない人も多いのですが、これを複数回繰り返していくと、徐々に体がだるい、という症状が出てきます。特に抗がん剤を投与した直後であったり、何度か繰り返し投与して身体に蓄積されたタイミングであったりするときに多く出てきます。
身体が少しだるい程度であればそのまま抗がん剤を投与することも多いですが、身体がだるすぎて動けない、一人で歩けないなどの症状になった場合は、抗がん剤の量を減らしたり、いったん中止するなどを検討していきます。
肝機能障害
先に述べた通り、抗がん剤はガン細胞だけではなく身体中の細胞に対しても効いてきます。そのため、肝臓の細胞に対しても効果を発揮してしまい、肝機能障害が現れることがあります。肝機能も抗がん剤投与前に確認し、よほどひどい肝機能障害があれば薬の減量・中止を検討していきます。
その他
膵臓がんに対する抗がん剤の副作用としては上に挙げた症状以外にも複数あります。脱毛などは一般的に思い浮かべる症状の代表的なものでしょう。
その他、抗がん剤の種類にもよりますが、手足がしびれてしまったり、肺炎(間質性肺炎)を起こしたりなど様々な症状を起こすことがあります。抗がん剤治療を検討する際に医師から説明がありますが、疑問があれば聞いておくようにしましょう。
また、これらの副作用の中で間質性肺炎は一度起これば命に関わることもあります。発熱や呼吸困難感、空咳などが続く場合は病院を受診しましょう。
抗がん剤以外の膵臓がんの治療法
ここまでは膵臓がんに対する抗ガン剤治療(化学療法)について解説しました。では、抗がん剤の治療以外にはどんな治療法があるのでしょうか。ここではその他の治療について触れていきます。
手術
膵臓がんの場合、唯一根治を目指せる治療法は手術です。手術はガンの進行の程度により受けることができるか決まります。具体的にはガンが周囲の組織や血管など、どの程度まで及んでいるか、他の場所に転移しているかどうか等です。
また、手術ができる状態のガンであったとしても、膵臓がんの手術はかなり大きな手術であるため、年齢や他の病気、身体の状態によっては耐えられないと判断されることもあります。その場合は手術が困難となるため、他の治療法を検討していくことになるでしょう。
手術ができる場合、外科に入院して行いますが、膵臓がんの精密検査は消化器内科で行うことが多いです。内科で精密検査を行い、手術が検討できるのであれば内科から外科に紹介、という流れが一般的です。
放射線化学療法
膵臓がんがある程度進行しているため手術ができない場合、かつ、肝臓や肺などへの転移がない場合は放射線化学療法も選択肢の一つとして挙げられます。
放射線化学療法はその名の通り放射線をガンにあてる放射線治療と抗がん剤を投与して行う化学療法を組み合わせたものです。
他の臓器にガンが転移している場合、放射線をその全てにあてることができないので対象にはなりませんが、転移がなく周囲の組織に進行している(局所進行)であれば検討されることがあります。放射線治療自体は放射線科が行い、化学療法(抗がん剤治療)は消化器内科や腫瘍内科が行うことが多いです。
緩和ケア療法
手術や化学療法などの治療ができない、出来なくなった場合や積極的な治療を望まない場合はガンに伴う症状の治療を行います。ガンの進行に伴って、身体のだるさ、お腹や背中の痛み、食欲不振などいろいろな症状が出てきます。これらの症状に対して「痛身に対しては痛み止め」など薬を使って治療を行っていくのです。
基本は外来で治療を行っていきますが、症状がかなり強く日常生活が難しい場合等は入院で薬の調整を行うこともあります。
「膵臓がんの予後」についてよくある質問
ここまで膵臓がんの予後について紹介しました。ここでは「膵臓がんの予後」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
膵臓がんは発症するとどれくらい生きられるのでしょうか?
岡本 彩那 医師
膵臓がんは気づかれにくいこと、進行が早いことなどより見つかった時点でかなり進行しており、発見と同時に余命を伝えられるということも少なくない病気です。一般的に膵臓がんが見つかった場合は1年ほどと言われますが、病状によってはもっと早く、半年もしくは数か月と言われることもあります。
編集部まとめ
膵臓がんは早期発見しにくく、発見された時には末期であった、告知と同時に余命を伝えられたということも少なくないがんです。手術ができる段階で発見できるかが予後を左右します。定期的に健診を受け、膵臓がんのリスクがある人は特に定期検査を受け、早期発見できるように努めましょう。
「膵臓がん」と関連する病気
「膵臓がん」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
内分泌・代謝科の病気
膵臓がん発生のリスクとなるような病気は様々であり、また、膵臓がんにより他の病気を発症することもあります。
「膵臓がん」と関連する症状
「膵臓がん」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- からだがだるい(倦怠感)
- 背部痛(鈍痛)
- 腹痛
- 体重減少
- 黄疸
がん自体の痛み、あるいは、がんによる膵臓の管(膵管)や肝臓の消化液を流す管(胆管)が詰まった場合に起こる発熱や腹痛などの症状が見られることがあります。
参考文献
- 膵癌診療ガイドライン2022年版(日本膵臓学会)




