「抗がん剤を使わない場合の余命」はご存知ですか?医師が徹底解説!

抗がん剤を使わない場合の余命はどうなる?Medical DOC監修医が抗がん剤が効かなくなる原因・医師が抗がん剤の投与を中止する判断基準・抗がん剤が効かなくなってきた後の治療法などを解説します。

監修医師:
鎌田 百合(医師)
目次 -INDEX-
「抗がん剤」とは?
抗がん剤は、がん細胞の増殖・進行を防いで死滅に導くための薬剤です。抗がん剤を使用した治療は化学療法とも呼ばれ、外科手術・放射線治療と並ぶがんの主な治療法のひとつです。また、がん治療はこれらの治療を組み合わせることが多いです。
抗がん剤のみで完治を目指す場合もありますが、手術前に病巣を小さくする目的で抗がん剤を使用したり、術後の転移・再発を防ぐ目的で抗がん剤を使用したりするなど、補助的な役割で用いられることも多くあります。
抗がん剤を使わない場合の余命はどうなる?
抗がん剤を含むがん標準治療を行ったほうが余命は長くなります。たとえば手術を受けた膵がん患者が、術後に推奨される抗がん剤治療(ティーエスワン)を行った場合、生存期間が22.5ヵ月から46.5ヵ月に延長しました(JASPAC 01試験)。また、複数の抗がん剤治療を行ってきた転移性大腸がんの患者が、支持療法に加えてさらに抗がん剤治療(フリュザクラ)を行った場合、生存期間が6.6か月から9.3か月に延長しました(FRESCO試験)。すべての抗がん剤で毎回効果があるということではなく、効果があると審査で認められたもののみが現在の保険適応となっています。
注意したい点として、がんの専門医の提供する標準治療以外の自費診療や補完代替療法(CAM)と呼ばれる治療を行っても、無治療と比べて余命を伸ばすことはできません。これらは、がんになっても健やかな気持ちで過ごすためのお守り代わりであり、命を伸ばすなどの治療効果が期待できるものではないと知っておきましょう。
抗がん剤が効かなくなる原因
薬剤耐性の獲得
抗がん剤は使用していくうちにがんに効かなくなることがあります。これは「薬物耐性」と言い、抗がん剤の攻撃に抵抗するがん細胞が増えて治療効果を得られなくなることです。
耐性獲得のメカニズムは研究で徐々に解明されつつあるものの、耐性に対して効果的な薬剤はほぼありません。治療効果が得られなくなったと判断された場合は、使用する抗がん剤を変更してがんの治療を続けることになります。
医師はどのような基準で抗がん剤の投与を中止する?
治療が中止となるパターンは3つあります。1つ目は、今使っている抗がん剤治療の効果が不十分となった場合、2つ目は、治療の副作用が重度であり継続が困難と担当医が判断した場合、3つ目は、患者さんの希望による中止です。
治療の効果が不十分なとき
がんの大きさが小さくなる(奏功)か、がんの大きさが変わらない(安定)とき、使っている抗がん剤は効果があると判断されます。がんの大きさがどんどん大きくなった(進行)ことがCT画像などで分かった場合に、その抗がん剤は治療効果がないと判断されます。効果が得られなくなったときは、使用する抗がん剤を変更してがんの治療を続けることになります。
治療の副作用が重度のとき
副作用による抗がん剤の投与中止は、担当医の総合的な判断で行われます。抗がん剤の添付文書には有害事象共通用語規準 (Common Terminology Criteria for Adverse Events; CTCAE)を用いた休薬、減量及び中止基準が記載されています。多くの治療医はこれらや治療ガイドラインに準拠して薬剤の減量や中止を判断します。また、前提として、身の回りのことが自分でできず、日中の50%以上就床している PS(パフォーマンスステイタス)3 の状態は、有害事象が強く出る危険が高いため、固形がんでは抗がん剤治療の適応になりません。治療の副作用でPSが下がったとき、肝機能や腎機能の低下など臓器障害が強くでてしまったとき、血球減少が回復しないときは、治療の休止や中止が勧められることが多いと言えるでしょう。
患者さんの希望による中止
臓器機能がよく、PSがよい状態であっても患者さんが抗がん剤治療を希望しないケースがあります。たかだか半年の延命に意味はないと言い切る方、たくさん旅行に行きたいから治療をしたくないと迷う方、つらい副作用に耐えることに残り時間を費やしたくないと話される方など、いろいろな理由があります。治療医は最終的に納得のいく治療の選択をしてもらいたいと願っていますので、抗がん剤治療がどのように自分の人生にメリットデメリットをもたらすのかを考えて担当医と相談をしましょう。副作用が少ない治療のみ行う、など、希望に合わせて治療内容を選べることもあります。
抗がん剤が効かなくなってきた後の治療法
緩和ケア
がんに伴うすべての困難に対応するのが緩和ケアです。がんが大きくなって生じる痛み以外に、その周りにしびれを感じることや、腸の近くに病巣があると吐き気を感じることがあります。薬を使ってこれらの症状を取ることで、つらさを大きく感じない生活を維持することを目指せます。気持ちのつらさや経済面の困難についての相談も可能です。症状で強く苦痛を感じる前、自宅での生活に支障が出てくる前に、緩和ケアチームやソーシャルワーカーや通院治療センターのスタッフと、生活サポートの方法や支援制度の活用について相談したり情報収集したりして備えていきましょう。
緩和放射線治療
がんをなくすより症状をなくすことを目的に行う治療です。がんが全身に拡がり、骨が痛んだり、リンパ節が腫れてきたりするときは、その部分だけに少量の放射線を当てて、痛みを取ったり小さくしたりする治療ができます。1日-5日程度、日帰りで可能な治療です。
緩和的手技
がんに伴う症状は適切なタイミングであれば外科や内視鏡治療の適応です。腸閉塞になったら、詰まりが1-2カ所であれば手術ができます。新たに人工肛門を作ることで、スムーズな排便機能を維持することもできます。食道がんで食道が詰まりそうになったら、食道を拡げるステント(金属の筒)を入れて食事を再開できるようになります。胸水や腹水といった症状が出てきても、自宅で往診医が管をいれて水を抜き、楽に過ごせるようになったりします。
抗がん剤以外の治療法
手術
転移のないがんを身体から全て切り取って根治を目指します。大腸がんなどで転移巣のみを切り取って症状のない状態を維持するための手術もあります。手術自体にも大きな負担がありますので、できるだけがんの専門医のもとで説明を受けて納得して治療に向かいましょう。
放射線治療
放射線をがんに当てて、がんの細胞分裂と増殖に必要な遺伝子情報を傷付けてがん細胞を死滅させる治療法です。抗がん剤治療と組み合わせて放射線治療をすることで、手術と同様の治療効果を得られることがあります。また、前立腺がんや手術しづらい部位の肺がんなど、放射線治療単独で治療を終わらせることのできるがんもあります。放射線治療を多く行っている病院とそうでない病院がありますので、放射線治療を強く希望する場合はセカンドオピニオン受診も考えましょう。
効果が証明された免疫療法
がん免疫療法は手術・抗がん剤・放射線治療に次ぐ第4のがん治療です。近年研究開発が進んだ分野で、たくさんの新薬が次々に効果が証明されて保険適応になっています。もっとも代表的なものが2018年ノーベル生理学医学賞を受賞した本庶佑氏の研究をもとに作られたオプジーボ(一般名ニボルマブ)です。他にも効果的な新薬や光免疫療法が保険診療で行えるようになってきています。
しかし、同じ「免疫療法」「光免疫」などと表示しながら効果が明らかになっていない別の治療法を、患者が全額治療費を支払う自由診療として行っている医療施設もあります。効果が公に証明されていない自由診療を行ってしまうと、効果が出ないばかりか元の病院に通うことができなくなることがあります。また、クリニックで行うことが多いため、副作用にきちんと対応してもらえません。自由診療を受ける前に病院の担当医とよく相談しましょう。
「抗がん剤を使わない場合の余命」についてよくある質問
ここまで抗がん剤を使わない場合の余命などを紹介しました。ここでは「抗がん剤を使わない場合の余命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
抗がん剤治療をしないとどうなりますか?
浅野 智子 医師
抗がん剤は余命を伸ばすと言えますが、抗がん剤を使わなかった場合の余命がどうなるかは、正直なところ誰にもわかりません。一般的に放置されたがんは時間が経つごとにそのまま大きくなったり、体内の別の場所へ転移したりしますが、人によってはそのまま大きくならないこともあるからです。がんの存在による痛みやつらさで生活の質が低くなっている場合、がん治療でがんを小さくして症状を和らげたりなくしたりすることも期待できます。まずは専門医のもとで診断とお勧めの治療についての説明を受けましょう。がんが大きくなるかどうかまだ初期のためわからず、専門医が経過観察を治療として指示する人もいます。主治医とよく話し合いましょう。
抗がん剤の代わりとなる代替療法について教えてください。
浅野 智子 医師
残念ですが、がんの治療に効果のある代替療法は今のところはありません。効果があれば保険診療になるからです。効果をうたうweb広告や口コミは、眉唾なものが多く、かつ高額ですので気を付けましょう。一方、がんを治療するわけではないですが、がん治療を行う人を精神的身体的にサポートする方法はいくつもあります。これらは緩和ケアならびに補完代替療法(CAM)と呼ばれ、厚生労働省からガイドラインが発行されています。健康食品やハリ治療、ホメオパシーや運動などに関する記載があるほか、緩和医療学会発行のガイドラインでは効能が期待できるがんの種類や症状がより詳しく記載されています。しかし、代替療法はがん治療の妨げになることがあるので、希望する場合は主治医に相談しましょう。
編集部まとめ 抗がん剤治療はメリットデメリットを総合的に判断して決めよう
抗がん剤は余命を伸ばすことができますが副作用もあります。担当医からの説明をもとに、メリットデメリットを総合的に判断して、行うかどうか決めましょう。治療適応がなく抗がん剤が続けられなくても、緩和的治療で症状の少ない生活を維持することは可能です。
「抗がん剤」と関連する病気
「抗がん剤」と関連する病気は9個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
耳鼻咽喉科の病気
- 咽頭・喉頭がん
呼吸器科の病気
婦人科の病気
- 卵巣がん
- 子宮がん
代表的な抗がん剤を使用するがんについてあげました。ここには記載しきれないものも含め、多くのがんに対して抗がん剤を使用して治療をします。それぞれのがんや、その病期により治療法は異なります。ご自身の納得のいく治療を選択するために主治医とよく相談をしましょう。
「抗がん剤」と関連する症状
「抗がん剤」と関連している、似ている症状は12個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
抗がん剤治療中に起こる上記のような症状は、抗がん剤の副作用である可能性があります。症状が強い場合は、早めに主治医に報告し、治療計画を相談しましょう。
参考文献