「肝臓がん転移による余命」は?手術できる割合や治療法についても解説!

肝臓がんは、それほど進行していない段階でも5年後の生存率は低く、重篤な病気です。
肝臓がんは再発したり、別の部位に転移したりする病気です。
では実際に、がんが転移した場合はどのような治療が行われるのでしょうか。また、転移した場合の予後はどれくらいなのでしょうか。
この記事では肝臓がんが転移した場合の余命や、治療法を解説します。肝臓がんの概要も紹介しているので参考になれば幸いです。

監修医師:
山本 康博(MYメディカルクリニック横浜みなとみらい)
東京大学医学部医学科卒業 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医 日本内科学会認定総合内科専門医
目次 -INDEX-
肝臓がんとは
肝臓はお腹の右上にある臓器です。肝臓がんはがんが肝臓にできる病気ですが、日本で発生する肝臓がんの90%以上は肝細胞がんであるため、一般的には肝臓がんとは肝細胞がんのことを意味します。
肝臓がんの死亡数は男性ではがん死亡全体の8%で第5位、女性では5%で第6位とされており、決して少ない数ではありません。
肝臓がんの発生には、B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス・アルコール性肝障害・非アルコール性脂肪肝炎などの慢性的な肝臓の病気や肝硬変が影響しています。
沈黙の臓器と呼ばれる肝臓は、がんがあっても初期には自覚症状がほとんどありません。しかし、併存する肝臓の病気により肝機能が低下すると、黄疸・むくみ・かゆみ・だるさなどの症状があらわれます。
さらにがんが進行すると、腹部のしこりや圧迫感、痛みなどの症状が出現します。
肝臓がんステージ4の生存率
肝臓がんがステージ4まで進行した状態はどのような病態なのでしょうか。ここでは、ステージ4の病態とステージ1~3の生存率を解説します。
大腸がんから肝臓へ転移した場合のステージは4
肝臓がんでは領域リンパ節転移がある場合、または遠隔転移がある場合はステージ4と診断されます。領域リンパ節転移とは近くにある臓器から転移した場合であり、遠隔転移は離れた臓器から転移した場合です。
一方で、肝臓以外の臓器にできたがんが、肝臓に転移したものは転移性肝がんと呼ばれます。転移性肝がんは肝臓がんとは区別され、初めにがんができた臓器に基づいた治療が行われます。
この転移性肝がんの原発巣で発症しやすいのが大腸がんです。大腸がんから肝臓へ転移した場合、遠隔転移として扱われるためステージ4と分類されます。ステージ4の5年生存率は3.9%であり、かなり予後の悪い状態です。
ステージ1~3の生存率
肝臓がん患者さんの5年生存率は病期によって異なります。以下に、ステージ1~3の5年生存率は以下のとおりです。
- ステージ1:56.1%
- ステージ2:40.6%
- ステージ3:14.2%
病期が進行するにつれて、生存率が低下します。
肝臓がん転移による余命について
肝臓がんの余命は転移の有無で大きく変わります。ここではほかの臓器から肝臓に転移した場合の余命や、肝臓からほかの臓器に転移する可能性を解説します。
肝臓がんに転移した場合の余命
ほかの臓器から肝臓にがんが転移した場合の余命は、遠隔転移として扱われるためステージ4に準じます。
肝臓がんと同じように、手術による切除で予後が改善するといわれていますが、患者さんの状態を鑑みると実際に手術が行えるのは20~30%程度です。
肝臓への転移を認めることが多いがんは?
どの臓器のがんでも肝臓への転移を認める可能性はあります。そのなかでも、特に大腸がん・胃がん・膵がんなどの消化器系がんや、乳がん・肺がん・子宮がん・卵巣がん・腎がんなどに転移しやすいです。
肝臓からほかの臓器へ転移することもある
ほかの臓器から肝臓へがんが転移するように、がんがほかの臓器へ転移することもあります。肝臓がんは肝臓内で再発しますが、肺・リンパ節・副腎・脳・骨などに転移しやすいです。
転移した場合の病期は、ほかの臓器から肝臓に転移した場合と同様、ステージ4です。
肝臓がんの治療法
肝臓がんが転移した場合やほかの臓器から肝臓にがんが転移した場合は、予後不良になりやすいと理解いただけたでしょうか。ここからは肝臓がんの治療法を解説します。
穿刺局所療法
Child-Pugh分類といわれる肝臓の障害度がAまたはB・がんの大きさが3cm以下・がんが3個以下の、軽度の障害の場合に行われます。
この治療法はお腹の皮膚の上から針をがんに直接刺し治療を行う方法です。後述する外科手術に比べると、身体への負担が少ないことが特徴です。
穿刺局所療法には以下の治療方法があります。
- ラジオ波焼灼療法(RFA)
- 経皮的エタノール注入(PEI)
- 経皮的マイクロ凝固療法(PMCT)
特に肝臓がんの局所療法として代表的な治療はラジオ波焼灼療法です。この治療は、がんに針を直接刺し、高熱を発生させることでがんを死滅させる治療法です。
焼灼時間は30~60分程度ですが、治療後は数時間の安静が必要となります。
塞栓療法
X線で身体のなかを透かして見ながら、足の付け根や手首から肝動脈にカテーテルを挿入し、がんの治療を行います。上述した穿刺局所療法の対象とならず、手術も難しい対象に行われます。
塞栓療法にはいくつか種類がありますが、主流となっている治療法は肝動脈科学塞栓療法(TACE)と呼ばれる治療法です。この治療法はがんに栄養を送っている血管を詰まらせる方法です。
カテーテルで抗がん剤を注入し、その後塞栓物質を注入して肝動脈を詰まらせ、がんへの血流を減らします。
抗がん剤によりがん細胞の増殖を抑え、血流を減らすことでがんへの栄養が送られなくなるため、がんを死滅できます。
肝切除
肝臓にできた腫瘍に対して手術によって取り除く治療法です。多くの場合、がんが3個以下の場合に行い、大きさは10cmを超えるものでも切除できます。
しかし、肝臓はさまざまな機能を持った臓器であるため、切除した分だけ肝臓の機能は失われます。
肝臓がんの患者さんは肝機能が正常時より落ちることが少なくないため、患者さん毎に切除範囲とリスクを評価して慎重に手術の検討が必要です。肝切除は切除範囲によって、以下の切除方法があります。
- 肝部分切除
- 肝亜区域切除
- 肝区域切除
- 肝葉切除
- 腹腔鏡下肝切除術
手術後は、順調に経過した場合は1~2週間以内に退院となります。食事も問題なく摂取できることがほとんどであり、術後数日で歩行も可能です。
しかし、手術の経過には個人差があるため、術後に入院期間が長期化する可能性も十分にあります。
肝移植
肝臓にがんがあり、腹水の貯留・黄疸・脳症などの肝不全と呼ばれる状態になっている場合に、肝移植が保険適用となります。しかし、肝不全があっても肝臓がんが一定の基準以上に進行していると、保険が適用されません。
この基準はミラノ基準と呼ばれ、下記の項目があります。
- 肝臓がんが遠隔転移を認めない
- 肝臓がんが血管侵襲を認めない
- 5cm以下のがんが1個または個数が3個以下で径が3cm以下
肝移植のほとんどは生体肝移植と呼ばれる、脳死の方からではなく、健康な方をドナーとして肝臓を部分的に取り出し移植する手術です。
そのため、肝臓を渡す方(ドナー)と受け取る方(レシピエント)が同時に手術を行います。
国内で2020年までに行われた生体肝移植の総数は9,760例であり、年間では300例前後行われている手術です。
緩和ケア
緩和ケアと聞くと終末期のイメージを持つかもしれませんが、基本的にはがんと診断されたときから始まります。
緩和ケアは身体だけではなく、がんによる心や社会的なつらさをやわらげたり、治療による副作用や後遺症を軽くしたりする予防や治療法です。
上述したように肝臓がんは、初期は無症状であることがほとんどですが、進行すると腹部の圧迫感や黄疸などの症状が出現します。本人しかわからないつらさを医療者に相談し、解決や軽減に導いてくれる治療が緩和ケアです。
肝臓がん転移による余命についてよくある質問
ここまで肝臓がんの転移や余命、治療法について紹介しました。ここでは治療後の余命や、生存率と余命の関係についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
適切な治療で余命を伸ばすことができますか?
山本 康博(医師)
病期や治療方法、合併症の有無などにもよるため、一概に余命が伸びると断言はできません。例えば、10cm以上の腫瘍に対する肝切除後の5年生存率は20~30%程度との報告があり、推定される自然経過よりは明らかに優れているとされています。肝臓がんにはほかにも多くの治療法があるため、各治療や病期ごとの余命を担当医に確認する必要があるでしょう。
肝臓がんの生存率は余命と関係がありますか?
山本 康博(医師)
一般的に生存率は余命と関係があります。例えばがんの5年生存率が50%の場合、5年後には2人に1人は死亡している計算となり、生存率は高くないといえるでしょう。しかし、この数値は統計的な平均値を算出しているにすぎず、個別のケースに当てはまるとはいえません。症例報告ベースですが、89歳で肝臓がんの治療を開始して10年生存した高齢症例の報告もあります。患者さん一人ひとりが適切な治療を受けることが、生存率を高めることに重要です。
編集部まとめ
この記事では肝臓がんの転移や余命、治療方法を解説しました。病期が進行するにつれて、生存率が低下します。
肝臓がんは生存率の高い病気とはいえませんが、適切な治療を受ければ生存率以上の余命を過ごす可能性も残されています。
もしご自身やご家族が肝臓がんと診断された場合は、諦めずに主治医と相談し治療に望んでいただけますと幸いです。
肝臓がんと関連する病気
「肝臓がん」と関連する病気は4個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これらの病気は、肝臓がんの発生に関与します。また、肝機能の低下に伴い、黄疸や倦怠感などの症状が出現します。
肝臓がんと関連する症状
「肝臓がん」と関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 黄疸
- むくみ
- かゆみ
- だるさ・倦怠感
- 腹部のしこり・圧迫感
- 腹部の痛み
上記は、合併する慢性肝疾患により肝機能が低下した場合に起こりうる症状です。このような症状があった場合は早期に内科や消化器内科を受診しましょう。
参考文献