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「肺がんが骨へ転移」した場合の症状はご存知ですか?【医師監修】

 公開日:2025/04/07
「肺がんが骨へ転移」した場合の症状はご存知ですか?【医師監修】

現代は2人に1人ががんに罹患し、3人に1人は亡くなるといわれており決して他人事とはいえません。なかでも肺がんの頻度はとても多く、骨転移も多く見られています。

治療をして完治のように見えても、気付かぬうちに転移・増殖する細胞の速さには追いつけません。この記事では、肺がんの骨転移が起こりやすい部位や症状・治療法について解説しています。

日頃からご自身や身近な方の変化を敏感にキャッチし、早期発見の手助けとなるよう参考にしてみてください。

山本 康博

監修医師
山本 康博(MYメディカルクリニック横浜みなとみらい)

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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい院長
東京大学医学部医学科卒業 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医 日本内科学会認定総合内科専門医

肺がんとは

肺がんとは、気管や気管支・肺胞の一部の細胞ががん化したもので、ほかの呼吸器疾患との区別がつきにくいため見過ごされやすい傾向にあります。
発見が遅れると治療が困難になる場合があるため、日頃から定期的な検査や生活習慣の改善など、肺がんにならないための予防や発見に努めることが重要です。

肺がんの5年生存率は5割程度

肺がんは、小細胞がん・非小細胞がんに大きく分類されます。治療法や予後はがんの種類や進行度、年齢、既往症の有無によっても大きく異なります。
肺がんのなかで8割以上を占める非小細胞がんは、手術以外に完治する方法はありません。
高齢者など心肺機能の低下や、既往症、進行度により手術困難な場合には化学療法や放射線治療を選択せざるを得ない場合もあります。
手術後の生存期間を年代別にみると5年生存率は69歳以下で48.8%、70歳代で42.9%、80歳以上で50.5%となっており大きな差は見られません。
過去に肺がんで手術された症例結果では5年生存率は61.6%で、そのうち男性が55.4%、女性が74.2%でした。
女性の喫煙率が男性に比べ低いためといえるでしょう。
CT検査の普及により早期発見につながっており、胸部X線レントゲン検査による肺がん検査を実施していない他国に比べても日本の5年生存率は高いといえます。

転移しやすい部位は骨・脳・肝臓・副腎

転移とは、治療によっていったんは完治したと思われたがんが別の臓器にあらわれることをいい、肺がんの再発は全体の8割を転移が占めるといわれています。
肺には多くの血管やリンパ管が集まっており、血液やリンパ液の流れに乗ってほかの臓器に移動しそこで転移する(増殖)のです。
血行性転移の頻度が高いのは肺のほかの部位・骨・脳・肝臓・副腎などがあげられます。

肺がんの骨転移

肺がんの骨転移について解説します。

肺がんは骨転移しやすい

肺がん患者さんの骨転移の頻度は約20〜40%で前立腺がんや乳がん、甲状腺がんに次いで多いです。
骨転移では、骨を溶かしてしまう溶骨性骨転移と正常ではない骨を造る造骨性骨転移、もしくは両方を起こすことがあります。
X線写真で診断されるのは10〜15%にすぎません。有用な検査を以下に示します。

  • 腫瘍マーカー
  • 骨シンチ
  • PET検査

これらの複数の検査を行うことで正確な診断につながります。

骨転移が多い部位は胸・腰

肺がんの骨転移の好発部位は以下となっています。

  • 肋骨49.2%
  • 胸椎45.4%
  • 腰椎41.1%
  • 骨盤骨38.9%
  • 四肢骨遠位4.3%

肺がんのなかでも扁平上皮がんは単発性骨転移が多いですが、腺がんはほかの組織に比べ多発性骨転移が多い傾向にあります。

肺がんの骨転移の主な症状

肺がんの骨転移の主な症状は大きく3つに分類されます。

痛み・病的骨折

骨転移の主な症状は疼痛が大きな問題です。神経を圧迫することで痛みを引き起こします。
また疼痛は体動困難にもなりうるので、いかに疼痛をコントロールするかでQOL(生活の質)が大きく変わってくるでしょう。
がんが広がった骨はもろくなっているため、健康な骨であれば耐えられる些細な力や軽度の衝撃、動作でも容易に骨折してしまうことがあります。これを病的骨折といい、骨転移が起こったら組織型に関わらず病期はステージ4と判定されるでしょう。

神経障害

骨転移による神経障害は、主に脊椎(頸椎7個・胸椎12個・腰椎5個・仙骨)のいずれかに転移することで発生します。
脊椎のなかには神経が通る脊髄があり、がん細胞が増殖し神経を圧迫または損傷させ、上下肢のしびれや痛み・麻痺が起こります。場合によっては、排泄障害を伴うこともあるのです。

高カルシウム血症

がん細胞によって骨が溶けることで、骨に含まれていたカルシウムが血中に溶け出して血中カルシウムが上昇することを高カルシウム血症といいます。
進行性のがんが伴う場合、全身状態が悪いために高カルシウム血症の症状と気付かれにくいこともあります。
主な症状は嘔気や食欲不振、便秘等の消化器症状や口渇・多飲・多尿・脱水などの腎障害、傾眠・錯乱・幻覚や昏睡を伴うなどの中枢神経症状です。
軽度の場合は無症状ですが、倦怠感・疲労感・脱力感などの症状が出現し重症化すると急性腎不全・意識障害や痙攣・不整脈をきたし致死的となることもあるのです。
 

肺がんの骨転移の治療法

肺がんの骨転移の治療法には主に3つに分類されます。

放射線治療

痛みの緩和には鎮痛薬の服用や放射線療法を行います。放射線治療の目的は以下となります。

  • 照射部位のがん細胞を減らし痛みをやわらげる
  • 骨転移が脊髄を圧迫するために起こる麻痺を治療する
  • 骨折や麻痺を予防する

疼痛寛解効果は75〜100%と報告されています。骨折等により麻痺や運動障害といった著しい QOL(生活の質) の低下が予測されます。
その場合、骨折部位に対し放射線治療を行うことで、壊れていた骨の再生の効果が見られる方にはQOL(生活の質)の面からも予後の改善がみられるでしょう。
副作用でだるさや吐き気・照射部位の皮膚のかゆみや赤みなども生じることがありますが、これらの症状は薬で軽減できるので主治医と相談しながら治療を継続していきましょう。

外科手術

骨折の危険性が高い場合や神経が圧迫されている場合には外科治療を行うこともあります。外科的治療の目的は以下となります。

  • 痛みの緩和
  • 神経の圧迫を除去
  • 弱くなった骨を補強して骨折予防
  • 移動能力の維持や再獲得
  • 局所的な根治

しかしながら、外科的治療は身体への負担が大きいため、治療によるメリットが明らかにリスクを上回る場合にしか適応とはなりません。

薬物療法

肺がんの骨転移の薬物療法には、非ステロイド性の消炎鎮痛薬やモルヒネなどの麻薬による疼痛緩和や、骨の吸収と形成のバランスをとり骨折予防の目的で使用される骨修飾薬(ビスホスホネート製剤と抗RANKL抗体薬)や、がん自体の縮小を狙って分子標的薬を使用されることがあります。
分子標的薬はがんの発生や増殖に関わる特定の分子に作用するためピンポイントで標的に効果を示しますが、がん細胞だけでなく正常細胞にも分子が存在するために特徴的な副作用があります。
まれに命に係わる副作用として心毒性・間質性肺炎・腸管穿孔・動脈血栓症などが起こる可能性もあります。
また、ストロンチウム-89という放射線を出す薬剤を注射することで、骨転移による痛みをやわらげる方法もあるのです。

経障害性疼痛にはプレガバリンなどの補助薬も有用です。

肺がんについてよくある質問

ここまで肺がんの骨転移が起こりやすい部位・症状・治療法などを紹介しました。ここでは「肺がんの骨転移」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

肺がんの骨転移はいつごろから起きる可能性がありますか?

山本 康博医師山本 康博(医師)

肺がんは早期から骨転移を生じることが多いといわれています。肺がんでは診断時にすでに骨転移があることも珍しくなく、約25%の患者さんで診断時に骨転移が認められているのです。

肺がんが骨転移した場合の完治は見込めますか?

山本 康博医師山本 康博(医師)

骨転移がある状態は進行期と考えて手術より薬物や放射線による治療が選択されます。骨転移は体内のほかの部位にもがんが潜んでいることを意味し完治は困難といえるでしょう。骨転移を生じた肺がんでは従来、長い余命は期待できないとされてきました。しかし肺がんの骨転移の管理は近年大きく変化してきています。近年では分子標的薬が使用されるようになり、効果が見られる場合には、骨破壊を生じていた病変部位に新しい骨の再生効果が見られ短期間に骨修復が生じることも稀ではなくなってきました。放射線治療や分子標的薬の効果により以前では想像もつかないほど長期にわたって安定した状態を保つ方が増えてきています。

編集部まとめ

今回は肺がんの骨転移が起こりやすい部位・症状・治療法について解説しました。

画像検査の技術が進歩しこれまでは発見できなかった小さな骨転移も早期に発見できるようになり、鎮痛薬以外にも骨転移による痛みに効く薬剤も登場し、痛みの管理は格段によくなっています。

QOL(生活の質)を落とさず安定した状態を保つためには痛みは我慢せずに、主治医に相談しましょう。

肺がんと関連する病気

「肺がん」と関連する病気は5個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

これらの病気の症状は肺がんで出現する症状ととても似ており、呼吸機能も低下しやすい疾患です。症状だけでは判断がしにくいので、CTなど精密な検査を受け肺がんかどうか診断してもらいましょう。

肺がんと関連する症状

「肺がん」と関連している、似ている症状は8個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。 

関連する症状

  • 血痰
  • 息苦しさ
  • 全身倦怠感
  • 体重減少
  • 骨の痛み

これらの症状はほかの呼吸器疾患でも認められます。しかし、血痰を伴う場合は肺がんの可能性が高いです。血痰が出現した場合は早期に受診しましょう。

この記事の監修医師