【白内障手術】術前から術後までの流れや合併症リスクを眼科医が解説
加齢によって発症率が高くなり、視力の低下などをきたすことがある「白内障」。点眼薬で症状の進行を抑えることもある一方、見え方に支障がある場合には、外科的手術の適応となることがあります。そこで、白内障の手術がどんな手術なのかの説明や、術前から術後までの流れなどについて、「新小岩眼科」の渡辺貴士先生に話を聞きました。
監修医師:
渡辺 貴士(新小岩眼科)
白内障について
編集部
白内障について教えてください。
渡辺先生
白内障とは、目の中でレンズの役割をする「水晶体」という部分が濁ってしまう病気です。眼の奥に光が届きにくくなるため、視力が低下して物がかすんだり、ぼやけて見えたりします。
編集部
白内障の原因は何ですか?
渡辺先生
白内障は加齢とともに発症率が高くなり、高齢になると誰にでも起こりうる病気です。また加齢以外にも、糖尿病やステロイド薬の使用、アトピー性皮膚炎、強度近視、外傷、ぶどう膜炎などにより、比較的若い年齢で白内障を発症することもあります。
編集部
どんな症状があれば、眼科を受診した方が良いですか?
渡辺先生
目がかすんだり、まぶしく見えたりするほか、物が二重、三重に見える場合、眼鏡やコンタクトレンズを装着しても見えにくい場合、裸眼での視力が不安定な場合、色が鮮やかに見えない場合、目が疲れやすいなどの症状でお悩みの場合には、眼科で検査を受けることをおすすめします。
編集部
白内障の治療法についても教えてください。
渡辺先生
まず、検査によって白内障の有無や程度を診断します。その結果も踏まえ、日常生活に支障がない場合には、点眼薬で白内障の進行を遅らせる治療を行います。しかし、既に進行してしまった白内障の症状は、点眼薬では改善できません。そのため、白内障によって見え方に支障が生じている場合には、手術を行います。また、視力低下などの症状がない場合にも、「狭隅角」(きょうぐうかく/房水が流出する隅角のスペースが狭い状態)によって急性緑内障発作のリスクがある場合や、硝子体手術を行う場合には、白内障手術が必要なケースもあります。
白内障手術から術後までの流れ
編集部
そもそも白内障の手術とはどういうものですか?
渡辺先生
白内障の手術では、濁った水晶体を超音波で取り除き、新たなレンズを目の中に挿入する手術を行います。
編集部
術前から当日の流れはどうなりますか?
渡辺先生
感染症予防のため、手術の3日前から抗生剤の点眼をして頂きます。手術当日は普段通りに食事を済ませ、内服しているお薬がある場合にも普段通りに内服して来院してください。来院後は医師による術前診察を行い、十分な消毒を行ってから、手術を開始します。
編集部
手術中の流れはどうでしょうか?
渡辺先生
目の表面に小さな創口をつくり、ここから器具を挿入して手術を行います。超音波で濁った水晶体を細かく分割し、吸引して取り出します。続いて、空っぽになった水晶体の袋の中に眼内レンズを挿入し、創口を閉じて終了です。
編集部
術後はどのように過ごすのでしょうか?
渡辺先生
日帰り手術の場合には、手術が終わってから院内でしばらく安静にして頂き、体調などに異常がなければそのままお帰り頂けます。
手術のリスクや合併症
編集部
白内障手術では、合併症などのリスクはありますか?
渡辺先生
最近の白内障手術は、多くの患者さんにとって視力を回復することができる安全な手術となりましたが、合併症が生じるリスクはあります。術中に起こるものとして、「後嚢破損」(こうのうはそん)という、水晶体の袋が破れてしまう合併症があります。場合によっては、水晶体のかけらが手術中に眼の奥(硝子体)に落下してしまう「水晶体核落下」を生じる場合もあり、この際には「硝子体手術」が必要になります。「硝子体手術」に対応している医療機関は多くはありませんが、リスクの高い高難度の手術の場合には「硝子体手術」を行える施設で白内障手術を受けると安心だと思います。
編集部
術後の場合はどうですか?
渡辺先生
術後間もないうちでは、「角膜浮腫」や「虹彩炎」、「眼圧上昇」などを生じることがあります。いずれの場合も、軽症の場合には術後1週間程度で改善します。重篤な合併症としては、細菌感染による「術後眼内炎」が挙げられます。術後1週間以内に発症した場合には強毒菌である可能性があり、適切な処置をしなければ失明に至ることもあるため注意が必要です。このほか、「嚢胞様黄斑浮腫」(のうほうようおうはんふしゅ)という合併症を生じることもあります。これは視力に重要な黄斑という部位に、一時的にむくみが生じるものです。自然に治ることもありますが、むくみが続く場合には、目にステロイド薬を注射する治療が必要なケースもあります。「嚢胞様黄斑浮腫」の予防のために、術後は点眼をきちんと継続して頂くことが重要です。
編集部
経過時間によっても異なるのですね。もっと時間が経つとどうなりますか?
渡辺先生
術後数週間〜数年程経過して、水晶体の袋(後嚢)が濁ってしまう「後発白内障」を発症することがあり、視力低下などの症状がみられることもあります。後発白内障を生じた場合には、外来で「YAGレーザー」という機械により濁った部分を除去する必要があります。
編集部
術後の見え方などについても教えてください。
渡辺先生
無着色の眼内レンズを挿入した場合には、患者さんによって視野が青っぽく見える感覚を自覚することがあります。しかし、この現象は特に大きな害はなく、多くの場合時間の経過とともに慣れて感じなくなります。着色された眼内レンズの場合には青色光を抑えているため、青っぽく見える感覚はほぼありません。しかし、比較的若年の患者さんの場合には、少し黄色っぽく見えることがあります。この現象も、経過とともに慣れてくるでしょう。
編集部
術後の注意点などはありますか?
渡辺先生
術後は眼を強くつぶったり、押さえたりしないようにしてください。また、感染を防ぐため、目の周りを清潔に保つようにしましょう。洗顔や入浴、洗髪などは主治医の指示に従っていただくほか、決められたとおりに点眼薬を使用して下さい。
編集部
ありがとうございました。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
渡辺先生
白内障は、加齢とともに発症率が高くなり、長生きすれば必ずどこかで発症する病気です。現代は「人生100年時代」と呼ばれていますが、長い人生を生きる上で良好な視力を保つことはQOLの維持・向上に繋がるといえるでしょう。白内障手術は、安全性の高い手術です。白内障による視力の低下などでお悩みの場合には、眼科で相談されてみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
白内障手術は安全性の高い手術とされていますが、外科手術であるため術中、術後ともに合併症のリスクは避けられないといいます。リスクを避けるためにも、術前から術後にかけて、主治医の指示に従い、抗菌薬の点眼や眼の周りを清潔に保つことなどを心掛けましょう。また、白内障手術は多くの場合日帰りで受けることが可能です。手術を受ける医療機関によって多少流れが異なることもあるかもしれませんが、硝子体手術に対応している医療機関で白内障手術を受けることで、白内障手術中に万一合併症が起きても、迅速に対応してもらえるようです。
医院情報
所在地 | 〒124-0024 東京都葛飾区新小岩2-1-21 東晃ナカジマビル 1階 |
アクセス | JR「新小岩駅」南口から徒歩3分 |
診療科目 | 眼科 |