「男性乳がんの発症率」はどれくらい?原因や治療法も解説!【医師監修】
乳がんは、低確率ながら男性にも発症するがんです。症例が少ないため女性の乳がんよりも認知度が低いといわれますが、男性乳がんとはどのような病気なのでしょうか。
今回は、男性乳がんに関する統計・発症の原因・治療法などを解説します。男性乳がんについて気になる方は、ぜひ参考にしてください。
監修医師:
上 昌広(医師)
目次 -INDEX-
男性乳がんとは?
乳がんは乳房にできるがんの総称で、多くは乳腺から発生します。乳腺は女性だけでなく男性にも存在する器官であり、男性も乳がんになることがあります。ただし、乳がんは女性に好発するがんで、男性の症例が少ない病気です。このように、性別により症例数や病気自体の認知度に大きな差があるため、男性が罹患する乳がんを特に男性乳がんといいます。
なお、発生のメカニズムや治療方法、同じステージで治療を開始した場合の予後は女性の乳がんと大きな差はないといわれています。
男性乳がんの発症率は?
前述のとおり、女性の乳がんと比較すると男性乳がんは患者数が少ない病気です。では、男性乳がんの発症率はどれくらいなのでしょうか。
乳がん全体に占める男性乳がんの割合や、好発年齢についても併せて解説します。
1000人に1人の割合で発症する
男性乳がんは罹患者が少なく、アメリカの統計では、乳がんの発症率は男性1,000人のうち1人程の割合とされています。また、日本での罹患率は10万人に1.1人ともいわれておりアメリカの統計よりもさらに男女比には差がみられます。
なお、国内での罹患者の少なさから男性乳がんは希少がんの一つとされています。希少がんとは、症例が少ないことにより診療をしたり受けたりするうえで課題が多いとされるがんです。
乳がん全体のなかで1%を占める
日本で1年間に乳がんと診断された方の人数は、2019年のデータでは97,812件となっています。このうち99%を女性が占めており、男性の患者さんは1%程です。
60~70歳の方が多く罹患する
女性の乳がんは30代~40代で罹患者数が急激に増加します。一方、男性の乳がんは60~70代で発症する方が多いとされています。このような好発年齢の違いには、後述する女性ホルモンの量が影響していると考えられます。
男性乳がんを発症する原因
男性乳がんの発症には、いくつかのリスク因子が関わっています。主な原因として挙げられるのは、遺伝・放射線治療による被爆・女性ホルモンです。
ここからは、それぞれの原因について簡単に紹介します。
乳がんの遺伝子
乳がんの発症に大きく関わるのが、遺伝的要因です。男性乳がんの場合、近親者に乳がん罹患者が1人以上いると、発症率はおよそ2倍になるとされています。
なお、この場合の乳がん罹患者は、女性も含みます。乳がんの遺伝に関わる遺伝子はいくつか特定されており、代表的なものはBRCA1やBRCA2です。
胸部の放射線療法
乳房や肺など、胸部の組織や臓器に対して放射線治療を行ったことがある方は、乳がんの発症率が高いとされています。そのため、放射線治療を行う際には治療の効果がリスクを上回るかどうかを医師が検討して、患者さんにも説明したうえで治療を行うのが一般的です。
体内の女性ホルモン
乳がんの発症には、女性ホルモンが関与しているとされています。乳がんが女性に多く発症するのも、女性ホルモンの影響です。一方、男性は体内の女性ホルモン量は少ないですが、疾患により女性ホルモンが増加することがあります。
男性の体内で女性ホルモンが増加する主な原因疾患は、クラインフェルター症候群や肝硬変です。これらの疾患により女性ホルモンが増加すると、乳がんの発症リスクが高まります。
男性乳がんの治療法
もし男性乳がんと診断された場合、どのような治療を行うのでしょうか。男性乳がんにはいくつかの治療方法があり、がんのステージや全身の状態により治療方法を決めていきます。
外科療法
外科療法とは、手術によりがんになった組織を取り除く治療です。乳がんの治療では、転移がみられ手術が難しい場合を除いて外科療法が第一選択となる場合が多いでしょう。乳がんの外科手術には、乳房全体を温存して病巣の周辺のみを切除する部分切除術と、乳房全切除術があります。
また、乳房に近いリンパ節に転移が疑われる場合は、乳房だけでなく周囲のリンパ節を郭清するケースもあります。
放射線療法
放射線療法は、放射線を照射してがん細胞を攻撃し、がん細胞の抑制や死滅を目指す治療方法です。照射は局所的に行う場合が多いため、全身に影響を及ぼす副作用は少ないでしょう。
ただし、照射部分の熱感・皮膚の発赤・倦怠感などの副作用が現れる可能性があります。放射線療法は手術が難しいケースだけでなく、術後の再発予防を目的として行う場合もあります。
抗がん剤治療
抗がん剤治療は、がんを攻撃する薬剤を投与することでがん細胞を攻撃し、がん細胞の抑制や死滅を図る治療方法です。薬剤は血液により全身に行き届くため、がんが広範囲に広がっている場合や、目視できないがん細胞に対しても効果が期待できます。また、手術の前後に補助的に化学療法を行うケースもあるでしょう。
なお、抗がん剤を使用すると吐き気・倦怠感・末梢神経障害など、さまざまな副作用が現れる可能性があるため注意が必要です。患者さんにより副作用の強さや症状には差があります。
ホルモン療法
乳がんのなかにはホルモンの影響を受けて増殖するがんがあり、このようなタイプをホルモン受容体陽性の乳がんと呼びます。ホルモン療法は、ホルモン受容体陽性の乳がんを対象としてホルモン療法薬によりがんの縮小を目指す治療です。
ホルモン治療薬には、ホルモンの分泌を抑えるものや、ホルモンの働きを抑制するものなどいくつかの種類があります。薬の種類や適用の可否は、性別・年齢・がんのタイプにより異なる可能性があります。
男性乳がんの発症率についてよくある質問
ここまで男性乳がんの発症率や原因などを紹介しました。ここでは「男性乳がんの発症率」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
男性乳がんは何科を受診すればよいですか?
上 昌広(医師)
乳がんを専門とする診療科は外科または乳腺外科です。「乳腺外科は女性の患者さんが多く行きにくい」と感じる場合は、乳腺の診療も行っている外科の受診をおすすめします。乳腺外科を受診することに対しては戸惑いもあるかもしれません。しかし、男性の診療も行っていると標榜している医療機関を選択したり、事前に連絡して男性の受診も可能か確認しておくことで受診がスムーズになるでしょう。
女性の乳がんより進行が早いですか?
上 昌広(医師)
男性乳がんは、女性の乳がんと進行速度やステージごとの生存率に大きな違いはないとされています。しかし、男性の場合は気になる症状があっても「乳がんではないか」という考えが浮かびづらく、受診に至らないケースもあります。このような背景から、男性乳がんは診断されたときにはすでに進行しているケースも珍しくありません。
編集部まとめ
乳がんは女性に発症することが多く、男性の患者さんは稀です。そのため、乳がんで受療することについて不安を感じる男性もいるかもしれません。
しかし、気になる症状があれば「自分は男性なので乳がんではないだろう」と放置せず、乳腺外科を受診しましょう。
女性の乳がんに関する情報も参考にしながら、適切に受診することが早期の発見と治療につながるでしょう。
男性乳がんと関連する病気
「男性乳がん」と関連する病気は5個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 乳腺症
- 女性化乳房
- クラインフェルター症候群
- 肝疾患
- 精巣異常症
乳腺症と女性化乳房は男性乳がんと似た症状が現れる病気です。なお、クラインフェルター症候群・肝疾患・精巣異常の患者さんは女性ホルモンが増加しやすいため男性乳がんになるリスクが高いといわれています。
男性乳がんと関連する症状
「男性乳がん」と関連している、似ている症状は2個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胸にしこりを感じる
- 乳頭から分泌物が出る
いずれも乳腺に異常がある場合によくみられる症状ですが、乳がんのしこりは弾力がなく石のように硬く、押してもあまり動かないことが多いとされています。また、血や膿が混ざった乳頭分泌物も乳がんの方によくみられる症状です。上記のような症状がきっかけで男性乳がんが見つかる場合もあるため、気になる症状があれば早めの受診をおすすめします。