「卵巣がんが転移」するとどんな症状が出るの?転移しやすい部位も解説!
生活様式の欧米化に伴い、卵巣がんの発症率が増えており、日本では毎年約7500人が罹患しています。死亡数は年間約4500人と、死亡率も年々増加しているそうです。
そこで今回は、卵巣がんの転移をステージごとに解説します。再発した場合の治療法も紹介するので、ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
目次 -INDEX-
卵巣がんとは?
卵巣は子宮の左右に1つずつある臓器で、通常の大きさは2~3cmです。女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンを分泌しています。成熟した卵子を初経から閉経まで周期的に放出する排卵の働きもあるため、女性の妊娠・出産には欠かせない臓器といえるでしょう。
卵巣腫瘍にはさまざまなバリエーションがあり、良性・境界悪性・悪性の3種類に分けられます。そのうち悪性の卵巣腫瘍を卵巣がんと呼び、大きなものでは30cmを越えることもあるようです。
卵巣がんの年齢分布をみると、40歳以降に増加し、閉経前後の50~60歳代にピークを迎えています。
卵巣がんの転移について
卵巣がんは悪性の卵巣腫瘍で、転移を起こすことがあります。卵巣がんの転移は、卵巣の表面から種をばら撒くようにがん細胞が広がるのが特徴で、播種と呼ばれるそうです。がんの進行度はステージと呼ばれ、1期から4期までの4つに分けられます。
ここからは、卵巣がんのステージごとの転移の状態を解説します。
転移がみられるのはステージ3以降
卵巣がんの転移がみられるのは、ステージ3以降です。ステージ3では、がんが片側あるいは両側の卵巣または卵管にある・上腹部に転移している・後腹膜リンパ節に転移している状態になります。腹膜播種が進むと腹水が溜まってきて、腹部のリンパ節転移も起こりやすくなるでしょう。次第に胸部や首のリンパ節にも広がっていき、胸水が溜まるようになります。
さらにステージ4になると、がんは骨盤腔を越えて全身どこにでも広がり、遠隔転移している状態になるでしょう。
転移しやすい部位
卵巣がんの転移しやすい部位は、腹膜・骨盤リンパ節・傍大動脈リンパ節です。転移が進むにつれて、卵巣自体がどんどん腹部内で大きくなるためお腹のハリを感じやすくなるかもしれません。
転移に伴う症状
卵巣がんは、腫瘍が小さなうちは無症状で経過しますが、腫瘍が大きくなったり腹水が溜まったりしてからは症状が出ることがあります。がんが腹膜に転移すると、腹水がお腹の中に溜まるため腹部膨満感を覚えやすくなるでしょう。また、卵巣は腸や膀胱など排泄に関する臓器のすぐ横にあるため、便秘・頻尿などの症状が出る場合もあります。
腹部に異常を感じたら、なるべく早く産婦人科を受診してください。
卵巣がんの治療
卵巣がんでは、どの進行期でもできるだけがんを切除する目的で手術を行います。その後、再発を抑えるため進行期に応じて化学療法を追加するのが治療の基本です。
また、診断から5年経過したときに生存している割合を5年生存率といい、卵巣がんの5年生存率は以下のとおりです。
- ステージ1:90%
- ステージ2:85%
- ステージ3:50%
- ステージ4:30%
ステージ1の卵巣がんの5年生存率は、90%を超えていますが、早期がん・進行がん合わせたすべての卵巣がんの割合は、60%強に過ぎません。卵巣がんの治療は、少しでも早いステージで手術・化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせて行うことが多い傾向にあります。
ステージごとの術式は個人差があるので、以下を参考に医師と相談してください。
1期卵巣がんの治療
卵巣がんの手術はがんを取り切れるかどうかが判断基準ですが、ステージ1の早期卵巣がんは卵巣内に小さく留まっているため、手術で切除が可能です。術式としては、子宮全摘・両側卵巣卵管切除・リンパ節郭清・大網切除を行います。
手術後は、抗がん剤による治療の継続が多い傾向にあります。担当の医師と相談のうえ、治療を続けてください。
2期卵巣がんの治療
2期卵巣がんは子宮や直腸など、骨盤内へ進展します。術式は、子宮全摘・両側卵巣卵管切除・リンパ節郭清・大網切除が行われますが、大腸などほかの臓器にまでがんが及んでいる場合は部分切除が必要です。2期の場合も、手術後は抗がん剤による治療の継続が多いようです。
3期卵巣がんの治療
3期卵巣がんは、骨盤を越えて上腹部にまで広がり、リンパ節へも転移します。手術ですべてのがんを取り切ることができない場合は、まず抗がん剤治療を行ってから手術を行います。抗がん剤の効き方には個人差がありますが、手術できるようになるには2ヵ月~半年程かかるでしょう。
抗がん剤治療術式は、子宮全摘・両側卵巣卵管切除・リンパ節郭清・大網切除・播種切除のほか、転移した臓器の部分切除が必要なこともあります。術後は抗がん剤治療が行われ、さらに分子標的治療を2~3年追加で行われることもあります。
4期卵巣がんの治療
4期卵巣がんになると、肝臓や肺など遠くの臓器にまで遠隔転移します。年齢や体力などを考慮して、手術と化学療法を組み合わせて治療を進めます。ただし、ステージ4の5年生存率は10~20%程と低く、全身に転移したがんによってがん性疼痛に悩まされることも少なくありません。
放射線治療は、がんが脳や骨に転移した場合にのみ症状を和らげる目的で行われます。緩和ケアをうまく活用して末期がんの精神的・肉体的苦痛から開放されることで、自分らしい生活を送る選択肢もあるでしょう。
再発した卵巣がんの治療法
卵巣がんは完治したようにみえても数年で半数以上が再発する、再発率が高いがんです。3期~4期卵巣がんでは、2年以内に約55%・5年以内に70%以上が再発するといわれています。再発したがんは、初発のがんより治療が困難になる傾向があることにも注意してください。
化学療法をしなかった場合
卵巣がんは抗がん剤などの化学療法が効きやすいため、年齢や体力などを考慮して手術が適応にならない場合は、化学療法を中心に治療を進めていきます。前回の治療で化学療法をしなかった場合は、標準治療(TC療法)・二次腫瘍減量手術を組み合わせて治療し、経過観察を行います。薬物療法が主な治療法です。
また、脳に遠隔転移があって痛みや出血などがある場合には、放射線治療で症状を和らげることもあります。
初回化学療法終了後から6ヵ月未満の場合
再発まで6ヵ月未満の場合は、初回治療での抗がん剤が効かなかった細胞が多く存在すると考えられ、治療法を変更した二次化学療法・放射線治療・緩和ケアを組み合わせて治療します。プラチナ製剤には抵抗性があるので、初回治療とは異なる単剤が選択されるでしょう。また、放射線治療で痛みや出血の症状を和らげる治療をする場合もあります。
緩和ケアを用いることでQOL(生活の質)を維持しながら、毒性の少ない抗がん剤を使うことが治療目標になるでしょう。
初回化学療法終了後から6ヵ月以上経過している場合
再発まで6ヵ月以上経ったプラチナ製剤感受性の患者さんは、プラチナ系の薬がよく効くと考えられるため、通常は初回治療と同じ化学療法を再開して経過を観察します。ただし、腹水・胸水のコントロールのため、アバスチンは初回・再発・プラチナ感受性に関わらず使用してください。リムパーザなど分子標的治療剤が有効な場合もあるでしょう。
初回と同一または類似の化学療法を用い、二次腫瘍減量手術と放射線治療を組み合わせて治療計画を立てます。
卵巣がんの転移についてよくある質問
ここまで卵巣がんの転移・治療法・再発などを紹介しました。ここでは「卵巣がんの転移」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
卵巣がんの原因について教えてください。
馬場 敦志医師
- 遺伝的な要因がある
- 骨盤内の慢性的な炎症がある
- 婦人科疾患(子宮内膜症)がある
- 排卵誘発剤の使用
- 排卵回数が少ない
- 妊娠・出産経験が少ない
- 初経が早い・閉経が遅い
以上のような危険因子がある方は、卵巣がんになる可能性が高くなります。
卵巣がんの完治率はどのくらいでしょうか?
馬場 敦志医師
卵巣がんの完治率は、ステージ1期で約90%・2期で約70%と高く、3期で約45%・4期で約30%と低くなっています。また近年では、分子標的治療薬が卵巣がん治療にも応用されるようになりました。条件が合えば、血管内皮細胞増殖因子阻害剤のアバスチン・阻害剤のリムパーザやゼジューラなどが使用可能です。
編集部まとめ
今回は、卵巣がんの転移について治療法・再発した場合の対策などを解説しました。卵巣がんは症状からの早期発見は難しく、いまだ有効な検診方法も確立されていないのが現状です。
しかし、卵巣がんは、がんのなかでも抗がん剤がよく効くがんです。前回化学療法をしなかった・効かなかった患者さんでも、再発治療では抗がん剤の効果が期待できるかもしれません。
また、卵巣がんの患者さんのなかには、将来的に妊娠・出産を希望する女性もいるでしょう。卵巣摘出手術の前には、卵子凍結など妊孕性温存治療の選択肢も視野に入れて医師に相談してください。
卵巣がんと関連する病気
「卵巣がん」と関連する病気は5個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
卵巣がんと関連する婦人科のがんには、卵管がん・腹膜がんがあります。卵管がんは卵管に発生する悪性腫瘍です。卵巣がんや卵管がんではない腹腔内の腫瘍は、腹膜がんと診断されることが一般的でしょう。
卵巣がんと関連する症状
「卵巣がん」と関連している、似ている症状は5個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 生理のとき以外の出血
- 性行為による出血
- 茶褐色・黒褐色のおりものが増えるなどおりものの異常
- 足腰の痛み
- 血の混じった尿
卵巣がんと関連する症状には、腹痛・腹部の違和感・膨満感があります。早期には症状が出にくいため、見過ごされることもあるでしょう。がんの進行に伴い、腹部の膨満感が強くなり、腹水・胸水が溜まるため呼吸が苦しくなることもあります。