「AYA世代のがん」で罹患率の高いがんはご存知ですか?医師が徹底解説!
AYA世代のがんとは?Medical DOC監修医がAYA世代の罹患率が高いがん・原因・問題点・支援やサポート・何科へ受診すべきかなどを解説します。
監修医師:
横田 小百合(医師)
都内の大学病院・がんセンターにてがん治療と緩和ケア診療に従事。現在はがん専門病院にて緩和ケア診療を行っている。
保有資格:医師、がん治療認定医、総合内科専門医、日本緩和医療学会認定医
目次 -INDEX-
「AYA世代」とは?
AYA世代とはAdolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったものです。定義はさまざまですが、15才~39才までの世代を指すことが多いです。生活環境が学校から社会活動へとの転換期を迎える時期でもあり、進学・就職・結婚・出産など重大なライフイベントが多く、将来を考え社会生活と治療の両立に不安に感じる方も少なくありません。AYA世代のがんは全世代の中でも比較的少数で、かつ特有の社会心理的な背景があります。医学的にも精神的・社会的にも多くのサポートが必要な世代と言えるでしょう。
AYA世代の罹患率が高いがん
AYA世代のがんは、思春期と成人期のそれぞれの年代により疾患の頻度が異なるため、年代ごとに頻度の多いがんについて解説します。また、10代に発生することが多いがんには、胚細胞腫瘍、骨軟部肉腫、脳腫瘍といった、いわゆる希少がんが多く、診断や治療が困難なこともあります。
白血病
白血病とは、血液のがんです。小児期に起こるがんの中で最も多いものが白血病です。AYA世代のうち15~19才では白血病が最も頻度が高くなります。白血病では、血液を作る血球の遺伝子に異常が発生し、がん細胞が増殖するため、正常な血液の細胞(白血球・赤血球・血小板)が減ります。免疫力が低下して感染症にかかりやすくなり、貧血症状、倦怠感、出血しやすくなるなど、さまざまな症状が起こります。つかれが長く続き、発熱、息切れなど普段と違う症状が持続する場合には内科を受診しましょう。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫とは血液がんの一つで、白血球の中のリンパ球が、がん化したものです。AYA世代のがんの罹患率では、リンパ腫は15~19才で3位(13%)、20~29才で4位(10%)です。リンパ節や胸腺、脾臓、扁桃などのリンパ系組織と骨髄、肺などのリンパ外臓器のいずれにもリンパ腫が発生します。つまり、全身のどこにでも起こる可能性があるといえます。
リンパ腫の症状は、痛みを伴わないリンパ節の腫れ、発熱や寝汗、体重減少などです。これらの症状がある場合には、内科を受診しましょう。
胚細胞腫瘍
胚細胞腫瘍は、生殖器(精巣・卵巣)もしくは後腹膜、縦隔、松果体などの性腺外臓器に発生しやすいがんです。好発年齢は10才代から30才代となっています。AYA世代のがんの罹患率では、15~19才で2位(17%)、20~29才で1位(16%)、30~39才で3位(8%)が胚細胞腫瘍です。
胚細胞腫瘍の症状は、発生する部位により異なります。精巣に腫瘍が発生する場合には、痛みを伴わない精巣の腫れ、卵巣では下腹部のしこりや腹痛、縦隔では咳や胸痛、松果体では頭痛や嘔吐などが起こることがあります。その他症状も多彩なため、わかりづらいです。体調の悪さが長く続く場合には、医療機関を受診しましょう。
甲状腺がん
甲状腺はのどぼとけのすぐ下にあり、蝶のような形をしています。ここにできたがんを甲状腺がんといいます。AYA世代のがんの罹患率では20~29才で2位(12%)、30~39才で4位(8%)が甲状腺がんです。甲状腺がんは、小さい場合には自覚症状は出にくいです。大きくなると、しこりが触れることや、のどの違和感、声のかすれが起こることがあります。
甲状腺にしこりが触れた場合には、内科もしくは耳鼻科を受診しましょう。
乳がん
乳がんは乳腺にできるがんです。乳がんの罹患率は30代後半から増加し、40才~60才代がピークですが、20才代で乳がんになる方もいます。AYA世代のがん罹患率では、30~39才で1位(22%)が乳がんです。遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)という遺伝性疾患の割合がその他の世代より高いことがわかっています。
症状は乳房のしこり、皮膚の変化(色やひきつれ)、乳首からの血性分泌などが挙げられます。これらの症状に気が付いた場合には、乳腺外科を受診しましょう。
子宮頸がん
子宮頸がんとは、子宮下部にできるがんを言います。子宮頸がんは子宮がんのうち約7割程度を占め、以前は好発年齢が40~50才代でしたが、最近は20~30才の若い女性に増加しています。AYA世代のがん罹患率では、20~29才で5位(9%)、30~39才で2位(13%)が子宮頸がんです。子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因の大部分であることが分かっています。このウイルスに感染すると、多くは免疫の力で自然に排除されますが、一部で感染が持続し子宮頚がんに進行します。
症状は、初期にはほとんどありません。進行すると、不正出血や性行為の際の出血や下腹部の痛みが起こります。これらの症状がある場合には、婦人科を受診しましょう。
AYA世代でがんを発症する原因
AYA世代に発症するがんの原因ははっきりと解明されているわけではありません。AYA世代のがんは、これまであまり解析がなされておらず、白血病など一部のがんで遺伝子変異が同定されている以外にはその原因が殆ど不明です。大人と子供の狭間の年代であるため専門的に診療する医師が少ないこと、そもそも発症頻度が少ないがんも多く診断や治療が困難なこともあり、小児や大人のがんと比較して予後が不良ということがわかっています。
AYA世代でがんを発症した場合の生存率
全がんでの10年生存率(ネットサバイバル、2011年診断例)はAYA男性74.6%、AYA女性82.7%です。全がんでの3年生存率(相対)はAYA男性84.3%、AYA女性89.9%です。統計情報の取り方や治療の進歩により、その後はもっと伸びている可能性があります。
AYA世代のがん罹患率の男女比は、女性が全体の77%を占めており性差があります。15~20才未満では男女差がほぼありませんが、20才以上では年齢が上がるほど女性の割合が増加します。AYA女性のがん罹患の数を全体的にみると30代以降の患者、相対的に予後の長い乳がん・子宮がんの罹患が多いため、上記生存率の差が生じていると考えられます。
男性の生存率
全がんでの10年生存率(ネットサバイバル、2011年診断例)はAYA男性74.6%、AYA女性82.7%です。がん罹患の割合は、AYA男性では、癌腫が36.9%と最も多く、胚細胞腫瘍14.3%、脳・脊髄腫瘍10.5%、リンパ腫、白血病なども8.5%ほどです。AYA男性の癌腫の中では大腸がんが28.1%と最も多いがんになります。
AYA男性の中でもっとも多い大腸がんの、10年生存率(ネットサバイバル、2011年診断例)はAYA男性66.2%、AYA女性66.2%です。
女性の生存率
全がんでの10年生存率(ネットサバイバル、2011年診断例)はAYA男性74.6%、AYA女性82.7%です。がん罹患の割合は、AYA女性では、癌腫が38%と最も多く、脳・脊髄腫瘍3.3%ほどです。AYA女性の癌腫の中では乳がんが34.2%と最も多く、子宮がん25.4%、甲状腺がん14.3%となっています。10年生存率(ネットサバイバル、2014-5年診断例)は乳がん90.4%、子宮頸がん89.5%です。
AYA世代でがんを発症した場合の問題点
学生の問題点(中学生~大学生)
教育でないため院内学級もなく、単位取得が困難となり休学という選択をとりがちです。このため、学校との連携が大切です。自分の置かれている環境で可能な学習方法、どのような形で学習を継続できるかを相談してみましょう。訪問学級や通信制学校への転籍も選択肢となります。金銭面では奨学金の利用などを考えてみましょう。大学には独自のサポート制度があるところもあります。まずは治療先の医療機関や地域のがん拠点病院の相談支援センターなどで相談をしてみると良いでしょう。
社会人の問題点
がんの治療と仕事の両立に悩まれる方が多いと思います。若い世代の方では、特にこのまま働けなくなるのではないかという将来の不安などを抱える方もいるのではないでしょうか。まずは状況を整理し、最初から就職をあきらめない、すぐに仕事を辞めないことを心がけましょう。今後の経過がどうなるのか、どのようなことが予想されるか、どの程度入院や通院が必要かについて主治医から説明を受けつつ、職場の人事や産業医などに相談しましょう。在宅勤務や短時間勤務、フレックス制度など、活用できる社内制度を就業規則で確認しましょう。そのほか傷病手当金や雇用保険による失業後の手当てなどが受けられることがあります。
結婚・出産・子育ての問題点
自分の子供をつくる能力のことを“妊孕能(にんようのう)”といいます。がんの治療の影響によって、男女問わず妊孕能が低下し、失われる可能性があります。将来妊娠や出産を希望される患者さんのために、将来自分の子供を持つ可能性を残す「妊孕性温存」が可能です。最近は妊孕性温存の費用助成をする自治体もありますし、専門相談外来開設も増えてきています。治療の開始前に、自分の妊孕性のことを主治医にきいてみましょう。具体的に知りたい・できることを進めたいようであれば、専門の医師に話を聞ける相談窓口を受診しましょう。
また、子育て世代である場合には、家庭、子供のことに充分対応できないことに悩むかもしれません。闘病中の子育てには周囲のサポートが必要です。家族に相談をしたり、医療者(主治医、看護師、ソーシャルワーカーなど)に相談してみましょう。
介護保険のサービスが40才未満では受けられないなど、受けられる支援が限られていることもAYA世代でがん治療をする上で負担が増している要因です。自治体によっては40才未満でもサービスに補助が出る場合があります。医療機関の相談窓口で相談をしてみましょう。
AYA世代でがんを発症した方への支援やサポート
AYA世代のがんについての情報は広く知られているわけではありません。まず、下記のようなサイトを参考にしてみてはいかがでしょうか。治療について、また今後の生活について事前知識を得ることで、不安が軽減されることもあるでしょう。自分と同じように悩む仲間の体験談を聞くことで治療生活を乗り越える力となるかもしれません。
一人で悩まず、周囲へ相談してください。通院する医療機関の相談窓口も利用しましょう。
・「国立がん研究センター.AYA世代の方へ」
国立がん研究センターのAYA世代のがんの情報をまとめたサイトです。
・「AYA世代のがんとくらしサポート」
AYA世代のがんの情報と体験談のサイト
・「がん相談支援センター」
がんについての相談ができる窓口です。全国にあります。
また、それぞれの病院に相談窓口がある場合もあります。通院中の病院の医療スタッフに相談してみましょう。
「AYA世代のがん」についてよくある質問
ここまでAYA世代のがんの特徴などを紹介しました。ここでは「AYA世代のがん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
AYA世代のがんで罹患率の高いがんについて教えてください。
横田 小百合 医師
10-20代では白血病、胚細胞腫瘍、リンパ腫、脳腫瘍が多いといえます。14才以下の小児期からAYA世代にかけて罹患するがんの内訳は大きく変わっていき、AYA世代になると小児に多い脳腫瘍の割合は減っていきます。また、30代になると女性の罹患割合が増えていくため、30代のAYA世代全体では乳がんや子宮頸がんの割合が高くなります。
若年層に白血病が多い原因はどんなことが考えられますか?
横田 小百合 医師
年齢を問わず、血球細胞では他の組織と比較して高い頻度で細胞分裂を繰り返して、血液がつくられています。加齢によって遺伝子異常が蓄積してがんが起こりやすくなるのが一般的ですが、細胞のターンオーバーが多いために遺伝子異常が起こる可能性が高くなります。若年層では白血病が多い原因であると考えられています。
まとめ AYA世代のがんは、周囲に相談して乗り越えよう!
AYA世代のがんは情報が少なく不安に感じる方も多いと思います。一人で悩まず、通院中の医療機関で相談窓口や医療スタッフに相談をしてみましょう。国立がん研究センターや自治体の情報サイトなどを利用して正しい情報を得るようにしましょう。治療と社会生活の両立を目指す際の不安が少しでも解消し、治療に集中できるようにしていかれるよう願っています。
「AYA世代のがん」と関連する病気
「AYA世代のがん」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
血液科の病気
- 白血病
- リンパ腫
脳神経科の病気
婦人科の病気
AYA世代のがんは年代ごとに発生するがんの頻度が異なります。健康診断やがん検診がない年代であることもあり、異常に気が付きづらいです。体調の異変に気がついたら、早めに内科もしくは小児科を受診しましょう。
「AYA世代のがん」と関連する症状
「AYA世代のがん」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
AYA世代のがんははっきりとした症状がないこともあります。普段と違う不調が持続した場合には早めに医療機関を受診しましょう。一般的に中学生までは小児科、高校生以降で内科を受診すると良いでしょう。