「前立腺がんの余命」はご存知ですか?ステージ別の余命・生存率も医師が解説!
前立腺がんの余命とは?Medical DOC監修医が前立腺がんの余命・生存率や何科へ受診すべきかなどを解説します。
監修医師:
中川 龍太郎(医療法人資生会 医員)
目次 -INDEX-
「前立腺がん」とは?
前立腺がんは、前立腺に発生する悪性腫瘍のことを指します。前立腺は、男性の生殖器系に存在する臓器で、膀胱の下部、尿道の周囲に位置しています。この前立腺は、男性ホルモンの影響を受けて機能し、精液の一部を生成する役割があります。
成人男性の中で最も多く見られるがんの一つで、特に60歳以上の高齢者に多く発症します。しかし、初期段階では自覚症状が少ないため、定期的な健診や検査が推奨されています。
前立腺がんの大きな特徴は、進行がゆっくりで、寿命に影響しないと考えられるパターンがあるという点です。死亡した男性の死因を解剖で調べた結果、偶然前立腺がんであったことが確認されるというケースもあります。他にがんでは放置していると、そのがんのせいで寿命が縮む(余命に影響する)ことが多いですが、前立腺がんでは、余命に影響せず、がんと共存できるケースもあるということです。もちろん進行が早いケースもあるため、その見極めは重要です。以下でその検査方法も含めて説明していきます。
前立腺がんのステージ別の余命・生存率
前立腺がん・ステージ1の余命・生存率
ステージ1は、触診でも超音波検査でも発見不能なごく小さな病変で、前立腺肥大などの手術の際に偶然見つかったものを指します。当然自覚症状はなく気づきません。
ステージ1の5年生存率(治療してから5年後に生きている人の割合)は89.6%です。
前立腺がん・ステージ2の余命・生存率
ステージ2は、がんが前立腺の中にとどまっているものを指します。
前立腺がん特有の症状はあまりないです。尿が出にくい、尿の切れが悪い、排尿後すっきりしない、夜間にトイレに立つ回数が多い、我慢ができずに尿を漏らしてしまうなど、排尿に関わる症状がみられることはありますが、前立腺肥大症でもみられます。もちろんこれらの症状がみられない場合もあります。
5年生存率は91%程度とされています。
前立腺がん・ステージ3の余命・生存率
ステージ3は、がんが前立腺をおおう被膜を超えて外側に広がっており、膀胱の一部や精のう(膀胱の後ろにある生殖器の一つ、精巣とは別の臓器)に及んでいるものを指します。
5年生存率は86.4%です。
症状はステージ2と同様に、排尿に関わる症状がおこることがあります。
前立腺がん・ステージ4の余命・生存率
ステージ4は、前立腺と別の臓器(隣接した膀胱、直腸など)に転移した状態を指します。
5年生存率は51.1%です。これまで腫瘍によって起こる排尿に関わる症状に加えて、血尿や骨への転移による腰痛が出現することがあります。
前立腺がんの検査法
前立腺がんの診断は、大きく3段階に分かれます。
- ・前立腺特異抗原(PSA)という血液検査によるスクリーニング検査
- ・直腸からの前立腺生検(組織をとって細胞レベルで調べること)による確定診断
- ・画像検査による病期(ステージ)診断
という流れになります。
以下で順番に解説します。
前立腺特異抗原(PSA)
PSAは、前立腺の細胞でつくられるタンパク質分解酵素です。前立腺に何か異常があると、これが血中に漏れて血液検査でのPSAの値が上昇します。
前立腺肥大症や前立腺炎でもこの値は上昇するため、高値だからといって必ず前立腺がんとは限りません。この検査の目的はスクリーニング検査、つまりがんの疑いがある方を幅広く引っ掛ける検査になります。
PSA値を測るのは一般的な内科であればどこでも可能です。一般的な採血の一項目として調べることができます。異常高値(基準値上限を超えた)の場合、再検査を行い、それでも異常高値が続く場合は、専門科である泌尿器科で直腸診や前立腺エコー検査を行うのが一般的です。病院によってはMRI撮影を行うところもあります。
これらの検査においては特に入院の必要はなく、何回かの通院で行うことが可能です。
前立腺針生検
PSAの値とエコー検査の結果から前立腺がんが疑われた場合、生検による確定診断に移ります。これは専門科の泌尿器科でしかできません。
方法は、肛門から針を挿入し組織を採取する経直腸生検と、陰嚢と肛門の間の皮膚から針を挿入する経会陰生検の2種類になります。どちらの方法であっても、針をさして組織をとるという形態のため、出血や感染症というリスクが0ではありません。多くの病院では1泊2日〜2日3日の入院のもと実施されています。
また、この生検の際に「前立腺がんかどうか」という確認だけでなく、「前立腺がんの悪性度」というものも調べます。グリーソンスコアという点数をつけることで、前立腺がんそれぞれの性質も評価して、リスクを評価し、治療方針の決定に使用します。
画像検査
前立腺生検で前立腺癌の診断になった場合、次にがんの広がりを見るために画像検査を行います。画像検査は一般的に、CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ検査などを、患者さんの状況に合わせて行います。
CT検査では、リンパ節転移の有無や肺転移の有無を確認するために行われます。MRI検査では、がんが前立腺内のどこにあるのか、前立腺の外へ浸潤がないか、リンパ節へ転移がないかなどを調べます。骨シンチグラフィ検査では、骨転移があるかどうかを調べます。このがんの広がりがどこまであるか、という情報から病期(ステージ)や治療方針が決まります。
前立腺がんの治療法
前立腺がんの治療選択、また治療自体に関しては泌尿器科が専門科になります。
監視療法
監視療法とは、前立腺生検でがんが見つかったものの、その悪性度が低く、治療を開始しなくても寿命に影響がないと判断される場合に、経過観察を行う方法です。監視療法では、3~6カ月ごとの直腸診とPSA測定、そして1~3年ごとに前立腺生検を行います。もし病状が悪化している兆候がみられたら、その時点から治療の開始を検討します。
監視療法が適している状態とは、一般的にPSA値が10ng/mL以下、病期がT2以下(し腫瘍が前立腺内にとどまっている状態)、グリーソンスコアが6以下となりますが、その他の指標も含めて総合的に判断されます。
手術
手術では、前立腺と精のうを摘出し、その後、膀胱と尿道をつなぐ前立腺全摘除術を行います。手術の際に前立腺の周囲のリンパ節も取り除くこともあります(リンパ節郭清)。
手術はがんが前立腺内にとどまっており、期待余命が10年以上と判断される場合に行うことが最も推奨されていますが、前立腺の被膜を越えて広がっている場合でも対象となります。手術の方法には、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術があります。
開腹手術は下腹部をまっすぐに切開して手術を行う方法です。腹腔鏡手術は、お腹に小さな穴をいくつか開けて、ガスで腹部をふくらませて、専用のカメラや器具で手術を行う方法です。開腹手術に比べて出血量が少なく傷口も小さいため、体への負担が少なく、合併症からの回復が早いといわれています。
ロボット手術は下腹部に小さな穴を数カ所開けて、精密なカメラや手術器具を持つロボット(ダヴィンチ)を遠隔操作して行う方法です。わずかな手の震えが抑えられ、拡大した画面を見ながら、非常に精密な手術ができます。
ロボット手術は、開腹手術と同等の制がん効果(がんの増殖抑制効果)があり、開腹手術に比べて傷口が小さく、腹腔鏡手術と比較しても合併症からの回復が早いといわれています。
どの手術方法を選択するかは前立腺がんの状態や施設によって異なります。ロボット手術はそもそもこのダヴィンチを設置している施設が限られますし、開腹手術の方が安全にがんを取り除けるというケースもあり得ます。どの手術を行うかは泌尿器科の主治医と相談しながら選択することになります。
入院期間は病状や施設にもよりますが、8日~14日程度のことが多いです。
放射線治療
放射線治療は、X線や電子線を照射してがん細胞を傷害し、がんを小さくする治療法です。外照射療法(体の外から前立腺に放射線を照射する方法)と、組織内照射療法があります。組織内照射療法とは、小さな粒状の容器に放射線を出す物質を密封したもの(放射線源)を前立腺の中に入れて体内から照射する方法です。
外照射療法では通常1日1回、週5回通院で合計35〜40回程度通院するのが一般的です。また組織内照射療法では3〜4日程度の入院が必要です。
どちらの方法にも利点欠点があり、患者さんごとに向き不向きもあります。例えば前立腺肥大という病気に対して、前立腺を削り取る手術を受けた方は、組織内照射療法を行うことはできません。
このように前立腺の形状やサイズなどによって実施できるかどうか、有効かどうかも変わります。担当医とよく相談して治療方針を決めていきましょう。
ホルモン療法
前立腺がんには、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲンという男性ホルモンによって、病気が進行する性質があります。
ホルモン療法は、このアンドロゲンの働きや分泌自体を妨げる薬を使って、前立腺がんの勢いを抑えようという治療です。
患者さんの全身状態やがんの状態によって、手術や放射線治療を行うことが難しいと判断された場合、もしくは放射線治療の前後、前立腺がんが他の臓器に転移している場合などに行われます。
ホルモン療法は、内服や皮下注射で投与するので、基本的には外来通院で行うことになります。
抗がん剤治療(化学療法)
化学療法は、薬を注射や点滴または内服することにより、がん細胞を消滅させたり小さくしたりすることを目的とした治療方法になります。基本的にはすでに転移がある前立腺がんで、ホルモン療法が効かなくなった症例で選択されます。
抗がん剤の副作用としては、重篤なアレルギー反応や投与から数日以内の吐き気、手足のしびれ、筋肉痛、投与から1週間程度以降の貧血や白血球の減少(発熱性好中球減少症)、脱毛などがあります。
「前立腺がんの余命」についてよくある質問
ここまで前立腺がんの余命・生存率などを紹介しました。ここでは「前立腺がんの余命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
前立腺がんが骨に転移した場合の余命・生存率はどれくらいでしょうか?
中川 龍太郎(医師)
骨への転移がある場合、ステージ4に該当し、5年生存率は51.1%です。
前立腺がんがリンパ節に転移した場合の余命・生存率はどれくらいでしょうか?
中川 龍太郎(医師)
リンパ節への転移がある場合も、ステージ4に該当し、5年生存率は51.1%です。
編集部まとめ
今回は前立腺がんの生存率に注目して解説いたしました。他のがんに比べて進行が遅い分、「がんが余命に関わるか」という視点が特徴的な病気です。それを判断するには適切な検査を受ける必要があります。まずはPSAのスクリーニング検査から始め、その後の泌尿器科で診察を受けるという流れが重要になります。スクリーニング検査だけで終わることのないよう注意してください。
「前立腺がんの余命」と関連する病気
「前立腺がんの余命」と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
泌尿器科の病気
- 前立腺肥大
消化器科の病気
- 胃がん
- 大腸がん
前立腺肥大は前立腺がんと自覚症状が似ており合併する場合もあります。また胃がん、大腸がんは直接関係はしませんが、このようなお腹の臓器に対しての手術歴、治療歴は、特に前立腺がんに対して手術を行う際に重要な情報になります。
「前立腺がんの余命」と関連する症状
「前立腺がんの余命」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 尿が出しづらい
- 尿が漏れてしまう
- 血尿
- 尿痛
- 尿漏れ
- 尿 泡立つ
- 尿意があるのに尿が出ない
- 尿意がないのに尿漏れ
このような症状は前立腺肥大でも見られますが、前立腺がんでも見られることもあります。年齢を重ねるごとに生じる症状ではありますが、この症状を一つのきっかけにしてPSA測定を検討してみてください。