「女性が脳動脈瘤」を発症する原因はご存知ですか?初期症状も医師が徹底解説!

女性が脳動脈瘤を発症する原因とは?メディカルドック監修医が、女性が脳動脈瘤を発症する原因・前兆となる初期症状・なりやすい人の特徴・予防法や何科へ受診すべきかなどを解説します。

監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
2011年福島県立医科大学医学部卒業。2013年福島県立医科大学脳神経外科学入局。星総合病院脳卒中センター長、福島県立医科大学脳神経外科学講座助教、青森新都市病院脳神経外科医長を歴任。2022年より東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医、健康経営エキスパートアドバイザー。
目次 -INDEX-
「脳動脈瘤」とは?
脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)とは、脳の血管、特に枝分かれしている場所にできる、風船のような「コブ」のことです。大きさは直径1~6ミリほどが一般的で、ほとんどは10ミリ未満です。この病気は決して珍しいものではなく、人口の2~6%の人が持っていると言われています。自覚症状がほとんどないため、多くは脳ドックなどでMRI検査を受けたときに偶然見つかります。
この脳動脈瘤の最も深刻な問題は破裂する可能性がある、ということです。破裂すると「くも膜下出血」という命に関わる状態を引き起こします。くも膜下出血は、突然の激しい頭痛や意識障害を伴い、約半数が即死するか、昏睡状態に陥るとされています。たとえ命が助かっても、後遺症なく社会復帰できるのはわずか25%ほどで、非常に恐ろしい病気です。このため、破裂する前の「未破裂脳動脈瘤」をいかに見つけ、どう管理するかが、脳神経外科の重要な課題となっています。
女性が脳動脈瘤を発症する主な原因
脳動脈瘤は、男性に比べて女性の方が発症しやすいことが、多くの疫学調査で明らかになっています。特に、命に関わるくも膜下出血の発症率は、女性が男性の約2倍と報告されています。この男女差には、女性ホルモンである「エストロゲン」が深く関係している可能性があります。
女性ホルモン(エストロゲン)
エストロゲンには、血管の壁を柔らかく保ち、炎症を抑えるといった、血管を保護する働きがあることがわかっています。しかし、女性は閉経を迎えるとエストロゲンの分泌が急激に低下します。エストロゲンが少なくなると、血管の壁を守る働きが失われ、血管が硬くもろくなりやすくなると考えられています。その結果、心臓から送られる血液の圧力(血流負荷)に耐えきれなくなり、脳動脈瘤ができやすくなると推測されています。
高血圧、喫煙などの生活習慣
性別に関わらず、生まれた後の生活習慣も脳動脈瘤の発生や大きさに大きく影響します。特に、高血圧と喫煙は、動脈瘤の強力なリスク要因として知られています。
高血圧は、血管に常に高い圧力をかけ続けることで血管の壁に物理的なストレスを与えます。一方、喫煙は血管の内側に炎症を引き起こし、血管の構造を弱くすることがわかっています。過剰な飲酒も同様にリスクを高める要因です。
女性の場合、これらの生活習慣によるリスク要因は、閉経後のエストロゲン減少という体の変化と重なると、より危険性が増す可能性があります。血管の保護機能が低下しているところに、高血圧や喫煙によるさらなるストレスが加わることで、動脈瘤の発症や破裂のリスクが一段と高まると考えられます。そのため、女性が脳動脈瘤を予防するためには、ホルモンバランスの変化に合わせた生活習慣の改善が、特に重要になります。
遺伝的要因
脳動脈瘤の発生には、遺伝的な要素も関係していることが知られています。特に、家族にくも膜下出血や脳動脈瘤になった人がいる場合、発症リスクが高いといわれています。親や兄弟など第一度近親者に、動脈瘤を持っている人が2人以上いる場合、その人が動脈瘤を持つ可能性は3~4倍に上昇するといわれています。これは、血管の壁がもろくなりやすい遺伝的な体質が関係している可能性を示唆しています。
また、「もやもや病」や「脳動静脈奇形」など、元々脳の血管に異常がある病気や、頭部外傷、感染、腫瘍などが原因で動脈瘤が形成されることもあります。こうした病気による血流の変化が血管の壁に負担をかけ、動脈瘤ができやすくなると考えられます。
脳動脈瘤の前兆となる初期症状
未破裂脳動脈瘤は、多くの場合、破裂するまで症状がありません。しかし、動脈瘤が徐々に大きくなり、近くを通る脳神経を圧迫することで、さまざまな症状が引き起こされることがあります。これらの症状は、動脈瘤が破裂する前兆と見なされるため、非常に重要です。
目の症状(動眼神経麻痺)
脳動脈瘤が大きくなることで、まぶたが垂れ下がり目が開きにくくなる(眼瞼下垂)、物が二重に見える(複視)、視力や視野に障害が出る(視力低下や視野の一部が欠ける)といった症状が現れることがあります。
これらの目の症状は、特に脳内の血管が集まる場所にできた動脈瘤が、眼球を動かす「動眼神経」を圧迫することで引き起こされます。この神経の圧迫により、まぶたを動かす筋肉が麻痺し、眼瞼下垂や瞳孔が散大することがあります。また、動眼神経以外の神経も同時に圧迫されると、複視や頭痛を伴うこともあります。
頭痛(警告頭痛)
くも膜下出血を起こす数日前や数週間前に、動脈瘤からごく少量の出血が起こることがあります。このわずかな出血によって、普段とは違う、突然の頭痛が起こることがあり、これを「警告頭痛」と呼びます。人によっては、この頭痛による吐き気が何度も出ることもあります。
警告頭痛の特徴は、痛みの程度が人によって異なり、比較的軽度な場合もあることです。また、しばらくすると痛みが治まってしまうことも多いため、「気のせいだろう」と見過ごされがちです。しかし、これは動脈瘤が不安定な状態にあるという重大なサインであり、この数日後に本格的な破裂が起こるケースが少なくありません。
脳動脈瘤ができやすい人の特徴
女性、高齢
性別で比べると、女性は男性の約2倍の頻度で発症するとされており、その背景には閉経後のエストロゲン減少が強く関連していると考えられます。年齢では、50~60代での発見が多いのですが、高齢になるほど動脈瘤を持つ人の割合も高まると推測されています。これは、加齢による血管の老化やもろくなることと、女性の場合は閉経後のホルモン変化が重なる時期であるためと考えられます。
高血圧の人、喫煙する人
脳動脈瘤は生まれつきの要素だけでなく、日々の生活習慣も発症や破裂のリスクを高めます。
高血圧は、血管に過剰な圧力がかかり続けることで、血管の壁へのストレスが増大し、動脈瘤の形成や拡大を促進します。喫煙は、血管の内側の細胞を傷つけ、血管の壁を弱くする強力な要因です。これらの生活習慣は、動脈瘤の形成や破裂を直接引き起こすだけでなく、血管の老化を早め、女性のホルモン的要因と合わさることで、リスクをさらに高める可能性があります。
特定の基礎疾患がある
脳動脈瘤を発生しやすい病気がいくつか存在します。たとえば、多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)という病気の患者さんは、そうでない人に比べて脳動脈瘤を持っている割合が著しく高く、家族にこの病気の人がいる場合は約16%、いない場合でも約6%と報告されています。他にも、結合組織疾患(マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群など)が知られています。
脳動脈瘤の予防法
生活習慣の改善
脳動脈瘤の予防には、発症リスクを減らすための生活習慣の改善が不可欠です。
主に、血圧管理(高血圧予防)と、禁煙・節酒、適度な運動が挙げられます。
高血圧は動脈瘤の最も重要なリスク要因の一つであるため、血圧を適切にコントロールすることが不可欠です。塩分を控えた食生活を心がけ、必要に応じて血圧を下げる薬を適切に使うことが推奨されます。また、睡眠時無呼吸症候群のように高血圧を招く病気がある場合は、その治療も重要です。喫煙は血管の壁をもろくし、動脈瘤が破裂する確率を高めるため、禁煙は最も効果的な予防策の一つです。過度の飲酒も血圧を上げるため、節度を守ることが求められます。定期的な運動は血圧を安定させ、血管の健康を保つために有効です。
脳ドックなどの定期検査
定期的な画像検査により、症状のない段階で脳動脈瘤を発見し、適切な治療時期を決定することができます。これにより、破裂という最悪の事態を予防できます。
くも膜下出血や脳動脈瘤の家族歴がある人や、高血圧、喫煙歴などのリスク要因を持つ人は、40歳を過ぎたら定期的に脳ドックを受診することが推奨されます。動脈瘤が見つかった場合には、慌てずに脳神経外科の専門医から十分に説明を聞き、予防的な治療や厳重な経過観察を始めるための良い機会だと考えてください。
「女性が脳動脈瘤を発症する原因」についてよくある質問
ここまで女性が脳動脈瘤を発症する原因などを紹介しました。ここでは「女性が脳動脈瘤を発症する原因」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
脳動脈瘤ができたらやってはいけないことはありますか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
脳動脈瘤が発見された場合、日常生活で血圧を急激に上昇させる可能性のある行為は控えるべきです。
まず最も重要なのは、急激な血圧上昇を避けることです。重い物を持ち上げる、激しい運動、強くいきむ動作(便秘時のいきみ、大声を出すなど)は控えるのが良いでしょう。また、熱すぎるお風呂やサウナ、急激な温度変化も血圧が変動する原因となるため注意が必要です。
喫煙はやめましょう。喫煙は動脈瘤が大きくなったり、破裂したりするリスクを著しく増加させるため、診断された時点で完全にやめる必要があります。
過度の飲酒も避けましょう。アルコールは血圧を不安定にし、処方されている薬との相互作用もあります。
ストレスや興奮も血圧上昇の原因となるため、可能な限り穏やかな生活を心がけてください。
ただし、過度に制限しすぎて生活の質を下げてしまう必要はありません。医師と相談しながら、適切な生活指導を受けることが重要です。
脳動脈瘤が何ミリ以上になると手術が必要なのでしょうか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
脳動脈瘤の治療方針は、単純なサイズだけで決まるわけではありません。一般的に、脳卒中治療ガイドラインなどでは、直径5~7mm以上の動脈瘤が治療の目安とされています。しかし、日本人を対象とした大規模な研究によって、サイズだけでなく、患者さんの年齢、全身の状態、職業なども治療方針を決める重要な要素となります。最終的には、脳神経外科の専門医が一人ひとりを個別に評価し、患者さん・ご家族と十分に相談して治療方針が決定されます。
編集部まとめ
女性の脳動脈瘤は、一つの原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症します。最も重要な要因はエストロゲンの変動で、特に更年期以降のエストロゲン減少により、脳血管の保護機能が低下し、動脈瘤のリスクが高まります。
また、女性の脳血管は男性に比べて構造的に動脈瘤ができやすい特徴があり、これに高血圧や喫煙といった改善可能なリスク要因が加わることで、リスクがさらに高まります。
重要なことは、多くの危険要因は予防や改善ができるということです。血圧管理、禁煙、適正体重の維持、定期的な検診によって、脳動脈瘤の形成や破裂のリスクを大幅に減らすことができます。特に50歳以降の女性、家族に動脈瘤の人がいる方、持病がある方は、積極的に予防対策を行い、定期的な脳ドックを受診することを強くお勧めします。
脳動脈瘤は「沈黙の病気」とも言われますが、適切な知識と予防対策によって、その脅威から身を守ることは十分に可能です。気になる症状がある場合は、ためらわずに脳神経外科を受診してください。早期発見・早期対応により、健康な生活を維持することができます。
「脳動脈瘤」と関連する病気
「脳動脈瘤」と関連する病気は8個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
生活習慣病は脳動脈瘤の原因や破裂リスクを高める要因と考えられています。特に血圧管理や禁煙は自己管理できるため、日々の生活習慣の改善を心がけることがくも膜下出血の発症予防に重要です。
「脳動脈瘤」と関連する症状
「脳動脈瘤」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 頭痛
- 複視(ものが二重に見える)
- 眼瞼下垂(まぶたが下がる)
- 視野の異常
- 吐き気・嘔吐
- 意識障害
脳ドックなどで脳動脈瘤があることがあらかじめわかっていたり、親族にくも膜下出血を発症したことのある方がいる場合には、これらの症状が急に出現したらくも膜下出血が疑われます。すぐに救急車を呼んで病院を受診するようにしてください。



