「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の寿命」はご存知ですか?寝たきりになるまでの期間も解説!
公開日:2025/06/03

ALS(筋萎縮性側索硬化症の余命とは?Medical DOC監修医がALS(筋萎縮性側索硬化症の余命・末期症状・リハビリ・治療法・対処法などを解説します。

監修医師:
神宮 隆臣(医師)
プロフィールをもっと見る
熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す
目次 -INDEX-
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」とは?
ALS(筋萎縮側索硬化症)は、運動をつかさどる上位・下位運動ニューロンの両者が変性してしまうことで、徐々に筋肉が萎縮してしまう病気です。上位運動ニューロンとは、大脳皮質の運動野から始まり脳幹を通り、運動の指令を下位運動ニューロンに情報を伝える神経細胞です。この上位運動ニューロンが脊髄を通る場所が側索です。下位運動ニューロンは、上位運動ニューロンからの指令を受け取り、筋肉に信号を送って実際に身体を動かす役割を担っています。 ALSの症状には、運動情報を手足が動かしづらくなる、ろれつが回らなくなる、あるいは飲み込みづらくなるといったものがあります。 今回の記事では、ALSの症状や予後、治療、家族の方が知っておくべきことなどについて解説します。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の平均寿命
ALSは、今のところは、完治が難しい病気です。 ALSの患者さんにおいては、人工呼吸器などの補助換気療法を行わないと、2〜5年で死亡することが多いとされています。 また、発症から死亡するまでの平均期間は約3.5年とも言われているものの、正確な調査は現時点ではなく、個人差が大きいとされています。 発症後1年以内に呼吸不全になってしまう患者さんがいる一方で、換気補助療法なしに10年以上生存する例も1割以上あるといわれています。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の末期症状
ALSの経過は個人差が大きいのですが、最終的には以下のような症状を呈することが多いです。身体を動かすことが難しくなる
ALSは最初に症状が現れる部位からいくつかに分類されています。手足のいずれかの筋肉の萎縮と筋力低下から始まる脊髄発症型(古典型)は最も頻度が高いとされています。その他、言葉を発しづらくなったり飲み込みづらくなったりする症状が初発となる球麻痺型(進行性球麻痺)もあります 。 いずれのタイプでも、ALSの病気が進行すると、全身の筋肉の筋力低下や筋肉の萎縮がみられるようになり、自分で身体を動かすことが困難となります。そして、身の回りの動作や日常生活動作の自立が難しくなってきます。 最終的には寝たきりとなり、家族や介護スタッフなどのケアが不可欠になります。言葉を発することが難しくなる
ALSが進行すると球麻痺症状も強く現れるようになります。 球麻痺とは、延髄から出ている脳神経(舌咽・迷走・舌下神経)の障害による運動麻痺のことです。嚥下障害と構音障害が中心となります。言葉を発することが難しくなることや、運動障害もあり書字も難しくなるため、言語以外のコミュニケーションの方法が必要となります。こちらは後述しています。。食べ物や水分を飲み込みづらくなる
球麻痺症状によって、食べ物や水分を飲み込みづらくなる嚥下障害が強くなってきます。すると、栄養障害や誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。嚥下訓練を行い、誤嚥の防止を図ることが必要となります。また、食事の形態を変更し、むせにくいようとろみをつけたり、ペースト状にしたりするなどの工夫もあります。誤嚥性肺炎を予防するためには、口の中を清潔に保つことも大切です。日頃から歯磨きなどのケアを怠らないようにしましょう。最終的には口から食事をとることが難しくなります。食事がとれないと、だんだん衰弱してしまいます。対処法としては、経鼻胃管や胃ろうなどによる栄養療法の導入も検討されます。 食事は栄養面でなく、食べる楽しみという側面もあります。最終的に食事がとれなくなる前に、栄養面のサポートをどこまで行うかを患者さん本人やご家族、主治医とみんなで相談しておきましょう。呼吸が十分にできなくなる
ALSが進行すると、呼吸筋の麻痺も進みます。すると、呼吸がうまくできなくなり、呼吸不全が生じるようになります。 十分に空気を取り込めず、最終的には命に関わる状態です。酸素マスクなどによる酸素投与で対処できるうちはよいですが、次第に進行します。重度の呼吸不全を来した場合には、人工呼吸器などの補助換気療法が必要になります。しかし、不可逆的な変化であり、その後は気管切開が必要になることがほとんどです。人工呼吸器装着によって、生存期間が大幅に延長するとされています。こちらも、飲み込めない症状と同様に、早めにどこまで補助換気療法を行うか決めておきましょう。十分に患者さん本人や家族、主治医と相談しましょう。補助換気療法を行っても、低体温、不安定な血圧、高血糖、感染症などの合併症にも注意が必要です。コミュニケーションが難しくなる
球麻痺による構音障害や筋力低下、筋萎縮によって、発語、書字なども次第に困難になります。通常のコミュニケーションが取れなくなっても、残された筋力や目の動き、口の動きなどでコミュニケーションをとる方法が考えられています。拡大・代替コミュニケーション(augmentative and alternative communication:AAC)といわれています。IT機器を使わない古典的なAACには、口文字や瞬き、コミュニケーションボード、透明文字盤などがあります。簡便で一般的な病院や家庭でも準備しやすいものです。一方、IT機器を活用するAACとして、PCやタブレットを利用して、視線や口の動きで操作方法や、脳波や脳血流量の変動などを電気的信号に変換する、生体現象型のものもあります。 ALSと診断された後、運動機能や音声言語機能を失う前からコミュニケーション機器を導入することが大切です。ALS(筋萎縮性側索硬化症)のリハビリ
ALSのリハビリについて、解説していきます。運動療法
手足・体幹のリハビリとして、運動療法があります。心身機能や日常生活活動、社会参加維持・向上を目的として行われます。特に、運動療法の中でも関節可動域(range of motion:ROM)エクササイズは、全病期を通じて有効とされています。可動域を保ち、拘縮を防ぐために理学療法士などと一緒に行われます。手足や肩、首周りのストレッチなどがあります。 また、筋力増強運動は、軽度から中等度の筋力低下を示す患者さんたちの転倒防止やQOL維持などに効果がある可能性が示唆されたという報告もあります。しかし、過度な運動負荷は過用性筋力低下(overwork weakness)を招く可能性があるので、負荷量には注意が必要です。筋肉痛が来ないような強度に設定することが肝要です。 最近、ロボット・リハビリテーション医療がALS症例に導入されています。その一つに装着型サイボーグHybrid Assistive Limb®(HAL®)があります。HAL®は、歩行機能の維持改善に効果がある可能性があるとされています。呼吸リハビリテーション
ALSの呼吸機能障害の原因の一つに、呼吸筋の筋力低下があります。そのため、呼吸機能障害に対しては、吸気筋トレーニングなどが行われます。運動療法に比べて、呼吸リハビリテーションはイメージがしづらいかもしれません。具体的には、口をすぼめて呼吸をしたり、おなかの筋肉をつかった腹式呼吸をしたりして楽な呼吸法を獲得したりします。家族の方はもちろん、訪問リハビリテーションや訪問看護によって、排痰などを含めた呼吸リハビリテーションを受けることが可能です 。摂食嚥下訓練
嚥下障害が早期から目立つ球麻痺型だけでなく、ほぼ全例でALSは進行すると嚥下機能も障害されてきます。そのため、食べ物や水分を飲み込むための嚥下訓練は非常に重要になってきます。主に言語聴覚士や摂食嚥下リハビリテーション認定看護師が行います。また、口腔内の清潔を保つために歯科衛生士や歯科医師と協力することもあります。 摂食嚥下訓練には、食物を使う直接訓練と、使わない間接訓練があります。 直接訓練では、飲み込みやすい姿勢や体位を調整し、学んでいきます。また、食事の形態や摂り方も指導されます。だんだん摂食嚥下機能が改善してきた場合は、摂食嚥下訓練のスタッフとともに、次の段階の食事を食べる訓練も行います。 間接訓練では、食べ物を使わずに摂食嚥下機能の改善を目指します。主に食事がとれなくなったかたに行いますが、残された摂食嚥下機能を維持し、少しでも改善させることは重要です。嚥下体操や頭部挙上訓練、ストローでコップの水を泡立てるブローイング訓練、アイスマッサージなどがあります。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療法
ALSに対する根本治療はまだ開発されていません。現時点で、日本で保険適用になっている薬物療法と、さまざまな症状に対する非薬物療法について紹介します。リルゾール
リルゾールは、シナプスからのグルタミン酸放出阻害作用などによって神経を保護する働きがあると考えられている薬です。日本では、ALSの治療に対して保険適用が認められており、1日100mgを経口投与します。無力感や吐き気、めまいなどの副作用に注意が必要です。また、重篤な肝機能障害がある場合には禁忌とされています。エダラボン
エダラボンは抗酸化作用を持つ薬で、以前から脳梗塞急性期に用いられていました。日本では、ALSの運動機能障害の進行抑制に対して2015年に保険適用の認可がおりました。 1日60mgを初回14日間、1回1時間かけて点滴静注し、その後14日間休薬します。そして、10日間投与と14日の休薬期という4週間のサイクルを続けます。重篤な腎機能障害がある場合には禁忌です。点滴の場合でも入院は必ずしも必要ではありません。 当初は点滴薬のみでしたが、2023年から内服でも投与できるラジカット内用懸濁液が発売されました。点滴の針を入れる必要がなくなり、治療がしやすくなりました。対症療法
症状の進行そのものや、病気の進行の受け入れ、生活の変化などに伴って、不安やうつ状態になってしまうことがあります。これらに対しては、家族や主治医のみならず、臨床心理士などのさまざまな職種が連携し、心理ケアやサポートを行っていきます。また、必要であれば不安に対しては抗不安薬、うつに対しては選択的セロトニン再取り込み阻害薬などの抗うつ薬が用いられます。筋力低下による疼痛などには湿布薬などの貼付剤や鎮痛剤などが処方されることもあります。 また、前述したようなリハビリテーションも非常に重要となります。家族がALS(筋萎縮性側索硬化症)になったらやるべきこと
家族がALSになった場合には、患者本人のみならずその家族の負担も大きくなる場合があります。そのため、以下のようなことが大切です。療養環境を整える
ALS患者さんは、自宅で療養する場合が多いです。過去のデータにはなりますが、ALS患者さんのうち、入院療養中の方が約3割、在宅療養中の方が約7割だったという報告もあります。 特に病初期のうちは在宅療養を行うことが多いですが、進行してからも自宅で過ごす方も多いのが現状です。訪問看護やリハビリテーションを利用することになりますが、任せっきりにならないように注意が必要です。訪問看護やリハビリテーションのスタッフがいないときには、経管栄養や喀痰の吸引などを行わないといけません。正しい知識や手順などを身につけましょう。在宅療養をする場合には、必要に応じて介護ベッドをレンタルしたり、屋内外の段差や手すりなどのリフォームをしたりすることが必要になる場合もあります。経済的支援を受けるための手続きをする
ALSはその重症度によって特定医療費受給が受けられる場合があります。また、その他にも経済的な支援を受けることができます。窓口は保健所や市地区町などの自治体などです。 詳しくは、かかりつけの医療機関のMSW(メディカルソーシャルワーカー)などの相談員に相談してみましょう。訪問看護・介護サービスを受けるための手続きをする
在宅療養をすることになった場合には、訪問看護サービスや介護サービスを受けるようにしましょう。ALSの場合、訪問看護は介護保険ではなく医療保険の対象となります。 医療機関のMSW(メディカルソーシャルワーカー)や、包括支援センターに相談してみましょう。症状進行したときにどうするかを相談しておく
ALSは進行性で現在の医療では治癒できない神経疾患です。だんだんと症状が進行していき、できないことが出てきます。ALSと診断されたあと、病状をしっかりと受け入れられる段階になったら病状が進行したときのことをきちんと相談しておく必要があります。「自分で動けなくなったり、介助が必要になったりしたときにどこで過ごすのか。」、「食事が口からとれなくなったときに、栄養療法を導入するのか。」、「自力での呼吸が難しくなった場合に、補助換気療法を導入するのか。」などなど、家族でしっかりと決めておきましょう。迷うようなことがあれば、主治医の先生にも相談してもよいでしょう。関わる方すべてが、今後の方針を理解して、ALSの治療と療養をすすめましょう。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の介護・日常生活で困った時の対処法
ALSの方の介護や日常生活で困った時には、以下の方法を試してみましょう。主治医に相談
内服や治療についてなど、医学的な疑問や相談がある場合には、主治医に相談することが大切です。なかなか薬が飲めない、むせてしまう、呼吸がしづらそうになってきたなど、気になることがある場合には、主治医に相談しましょう。そのほか、困りごとなどあれば定期的な外来などの診察のときに相談しておきましょう。難病相談支援センターへの相談
各県に、難病相談支援センターが設置されています。難病相談支援センターでは、ALSを含む難病の患者さんやその家族、支援者全般の相談を受け付けています。療養中の生活に困ったことがある場合には、相談に応じてくれます。かかりつけの病院や主治医のみでは対処が難しい場合などは、相談してみるとよいでしょう。レスパイト入院で家族の休息
在宅介護をしていると、患者さんの家族にも疲労が溜まってしまうケースも多々あります。 終わりの見えない介護のため、疲労が限界となり、介護困難になることがあります。そういった事態を予防するため、家族が休息(レスパイト)するために、患者さんが入院するケースがあります。これをレスパイト入院といいます。レスパイト入院はどの病院でも受け入れているわけではありません。かかりつけ医やケアマネージャー、訪問看護ステーションなどと相談し、レスパイト入院可能な病院をあらかじめ知っておく必要があります。介護による疲労を感じる前に、レスパイト入院可能な病院を紹介してもらい、今後に備えておく必要があります。「ALSの寿命」についてよくある質問
ここまでALSの寿命などを紹介しました。ここでは「ALSの寿命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
ALSを発症してから寝たきりになってしまうまで、どれくらいなのでしょうか?
神宮 隆臣 医師
ALSの進行のスピードは、患者さんごとに異なるため一概には言えません。しかし、一般的には症状の進行に伴い、次第に手足や体幹、呼吸器筋なども障害を受け、2〜3年で寝たきりとなることが多いと考えられます。
編集部まとめ
今回の記事では、ALSの寿命や治療法などについて解説しました。 ALSは現時点では根本的な治療法はなく、薬物療法などによって症状の進行を抑えていくことになります。そして、多くの場合、在宅での療養が選択されます。今回の記事を参考にして、さまざまな社会的支援も得ながら生活を続けていくことが大切です。「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する病気
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する病気は11個ほどあります。 各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。呼吸器内科の病気
循環器内科の病気
整形外科の病気
- 頸椎症性脊髄症
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する症状
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。 各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。関連する症状
- 筋肉が痩せる
- 筋肉がぴくつく
- 話しにくい
- 息切れしやすい
- 飲み込みづらい




