「呼吸機能検査(肺機能検査)の基準値」をご存じですか?発見できる病気も解説!【医師監修】

呼吸機能検査の基準値はどれくらい?Medical DOC監修医が肺機能検査の結果や数値の見方・スパイロメーターで発見できる病気などを解説します。

監修医師:
木村 香菜(医師)
目次 -INDEX-
呼吸機能検査(肺機能検査)とは?
呼吸機能検査は、肺や気道の機能を評価するために行われる重要な検査であり、様々な呼吸器疾患の早期発見や治療効果の評価に利用されます。
この記事では、呼吸機能検査の方法や見方、異常値の場合の評価について詳しく解説します。
呼吸機能検査(肺機能検査)の目的
呼吸機能検査は人間ドックや健診で行われたり、肺の手術の前の肺機能をチェックしたり、あるいは喘息などの治療効果を調べるために行われます。
自分では気づかない段階で、肺の疾患が進行していることもあります。呼吸機能検査は、間質性肺炎や胸水の貯留などによる拘束性障害(こうそくせいしょうがい)、気管支喘息などに伴う閉塞性喚気障害(へいそくせいかんきしょうがい)などを発見するために役立ちます。
呼吸機能検査(肺機能検査)の当日の流れ・検査のやり方
呼吸機能検査の当日は、まず受付を済ませ、看護師や医師による問診を受けます。既往歴や現在の症状、喫煙歴、内服薬などを確認します。検査前には、緩やかな服装を着用し、食事や喫煙を控えます。
検査はスパイロメトリーを用いて行われます。被検者は座位でマウスピースを口にくわえ、鼻をノーズクリップで閉じます。検査技師などの指示に従い、安静呼吸、最大吸気、最大呼気を行います。呼吸パターンがリアルタイムで記録され、肺活量(VC)、努力性肺活量(FVC)、1秒量(FEV1)、ピークフロー(PEF)などの指標が得られます。
検査後は、結果について簡単な説明を受け、異常があれば追加の検査や専門医への紹介が行われます。検査中に息切れやめまいを感じた場合は、看護師の指導に従い安静にしてください。正確な結果を得るために、リラックスして検査に臨むことが大切です。
呼吸機能検査(肺機能検査)の当日の注意点
呼吸機能検査を受ける際には、いくつかの重要なポイントを守ることが大切です。検査前の数時間は喫煙を控え、普段服用している薬については事前に医師に相談し、指示に従ってください。
締め付けの少ない服装を選び、体調が悪い場合は医師に相談しましょう。
リラックスして検査に臨むことも重要です。
検査前の激しい運動は避け、予約時間に遅れないように早めに到着し、検査技師などのスタッフの説明をよく聞いてください。
これらの注意点を守ることで、正確で信頼性の高い検査結果が得られます。検査結果は日常生活や治療方針に大きく影響するため、しっかりと準備して臨みましょう。
呼吸機能検査(肺機能検査)の費用の目安・保険適用
スパイロメトリーの場合、初診では約2,000~4,000円、再診では約1,000~3,000円です。
詳細な呼吸機能検査(機能的残気量(Functional residual capacity;FRC)・肺拡散能(Diffusing capacity of the lung for carbon monoxide;Dlco)など)では、もう少し値段が高くなります。初診の場合は約3,000~6,000円、再診の場合は約2,000~5,000円です。
これらの費用は、自費診療の場合の目安であり、保険診療が適用される場合は負担額が軽減されます。
特に、人間ドックや健康診断の一環として行われる呼吸機能検査は自費診療であり、費用は全額自己負担となります。検査内容や医療機関によって料金が設定されています。
一方、呼吸器疾患が疑われる場合や、治療効果の評価のために医師が必要と判断した場合には、保険適用となります。
慢性疾患の経過観察のために定期的に検査を行う場合も、保険適用となります。
保険適用の場合、患者の自己負担割合は一般的に3割となりますが、高額療養費制度を利用することでさらに負担を軽減することができます。
呼吸機能検査(肺機能検査)の基準値や検査結果の見方
それでは、呼吸機能検査の基準値や検査結果の見方について解説していきます。
「呼吸機能検査(肺機能検査)」の基準値
呼吸機能検査の結果は、いくつかの指標によって評価されます。
呼吸機能検査の基準値と危険な数値を理解することで、早期に疾患を発見し、適切な治療を受けることが可能になります。
「呼吸機能検査(肺機能検査)」の肺活量(VC)の基準値
肺活量(Vital Capacity; VC)は、最大限に息を吸い込んだ後、ゆっくりと息を完全に吐き出すまでの空気の総量を示す指標です。これは、肺の全体的な容量を評価するために有効です。
基準値は年齢、性別、身長に基づいて計算されます。一般的な成人の肺活量は、3〜5リットルです。
VCが基準値の80%未満の場合、拘束性換気障害(こうそくせいかんきしょうがい)が疑われます。つまり、肺の膨らみが通常よりも低下しているということを指します。
この場合、間質性肺疾患や肺線維症などの疾患の可能性があります。
「呼吸機能検査(肺機能検査)」の努力性肺活量(FVC)の基準値
努力性肺活量(Forced Vital Capacity; FVC)は、最大限に息を吸い込んだ後、一気に息を吐き出すまでの空気の量を測定する指標です。FVCは、肺の容量や気道の通りやすさを評価するために使用されます。
FVCも年齢、性別、身長に基づいて異なります。
FVCが基準値の80%未満の場合も拘束性換気障害が考えられます。これには、肺の弾性が低下している場合や、胸郭(きょうかく)の運動制限がある場合が含まれます。
「呼吸機能検査(肺機能検査)」の1秒率(FEV1%)の基準値
1秒率(FEV1%)は、最大限に息を吸い込んだ後、最初の1秒間に吐き出すことができる空気の量(FEV1)を努力性肺活量(FVC)で割った値です。
この指標は、気道の通気性を評価するために役立ちます。特に、気道の閉塞の有無や程度を示すために使用されます。
健康な成人の1秒率(FEV1%)の基準値は通常、70%以上とされています。70%未満の場合、閉塞性換気障害を示します。これは、気道が狭くなっている可能性があり、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの病気が疑われます。
「呼吸機能検査(肺機能検査)」のPEF(ピークフロー値)の基準値
ピークフロー (Peak Expiratory Flow; PEF)は最大努力で息を吐き出したときの最高速度を示す指標です。これは、患者が最大限の力を使って一気に息を吐き出す際に達する空気の流速を測定します。
性別、年齢、身長によって標準値、つまり本来はどれくらいあればよいのかが算出されます。喘息の管理やCCOPDの病状管理や治療効果の評価に役立ちます。
実際に測ったPEFが基準値の50%未満の場合、重篤な呼吸器疾患のリスクが高いとされます。この場合、速やかな医療評価が必要です。
「呼吸機能検査(肺機能検査)」の結果の見方
FEV1/FVC(%VC)と1秒率を用いて呼吸機能の障害パターンが診断されます。
%VCが80%未満を拘束性換気障害と診断し、1秒率は70%未満を閉塞性換気障害と診断します。
引用)愛知県臨床検査標準化ガイドライン「呼吸機能検査における標準手順書」 第2版 2024年7月 愛知県臨床検査標準化協議会
また、フローボリューム曲線(Flow-Volume Curve)などのグラフを確認し、正常なパターンか異常なパターンかを見ます。
フローボリューム曲線は、最大吸気位から最大努力で息を吐き出したときの気流量と肺気量の関係を示します。
以下に、フローボリューム曲線の例を図示します。
引用)愛知県臨床検査標準化ガイドライン「呼吸機能検査における標準手順書」 第2版 2024年7月 愛知県臨床検査標準化協議会
正常パターンは、高いピークを持ち、その後なだらかに下降します。
閉塞性パターンでは、ピークが低く、曲線が凹状になります。COPDや喘息で見られる。
拘束性パターンでは、全体の大きさが小さく、急激に下降します。間質性肺疾患などでみられます。
検査結果を正確に解釈することで、早期の病気発見と適切な治療が可能になります。定期的な検査と医師の指導の下で健康管理を行いましょう。
「呼吸機能検査(肺機能検査)」で発見できる病気・疾患
ここではMedical DOC監修医が、「呼吸機能検査(肺機能検査)」に関する病気を紹介します。
どのような病気や症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。
喘息
喘息は気道が慢性的に炎症を起こし、気道が狭くなることで息苦しさや咳を引き起こす病気です。発症の原因としては、アレルギー反応(ダニ、花粉、ペットの毛など)や煙、冷たい空気、運動などがあります。また、遺伝的な要因も関与していることがあります。
喘息の患者さんでは、1秒率(FEV1/FVC比)が低下し、通常70%未満になります。フローボリューム曲線では、ピークが低く曲線が凹状になる閉塞性パターンが見られます。さらに、気管支拡張薬を投与した後にFEV1が12%以上、または200ml以上改善する可逆性が確認されることがあります。
喘息の治療には、環境対策としてアレルゲンを回避することが重要です。また、薬物療法としては、吸入ステロイド、長時間作用型β2刺激薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬が使われます。発作時には、短時間作用型β2刺激薬を使用します。
日常生活に支障をきたす症状がある場合や発作が頻繁に起こる場合、治療に反応しない場合には医療機関を受診しましょう。
喘息の診断と治療には、呼吸器内科やアレルギー科を受診することをお勧めします。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
COPDは、主に喫煙が原因で気道が慢性的に狭くなり、呼吸が困難になる病気です。長期的な喫煙や有害な物質にさらされることが気道と肺の組織を損傷し、息切れや咳、痰などの症状を引き起こします。
COPDの患者さんでは、1秒率(FEV1/FVC比)が低下し、通常70%未満になります。フローボリューム曲線では、ピークが低く曲線が凹状になる閉塞性パターンが見られます。気管支拡張薬を投与した後もFEV1の改善が見られない場合が多いです。
COPDの治療には禁煙が最も重要です。さらに、気管支拡張薬(短時間作用型・長時間作用型)、吸入ステロイドが使用されます。重症の場合は、長期酸素療法や呼吸リハビリテーションも行われます。
呼吸困難が悪化する場合や慢性の咳や痰が増加する場合には受診する必要があります。
COPDの診断と治療には、呼吸器内科を受診することをお勧めします。
間質性肺疾患
間質性肺疾患は、肺の間質(肺胞の壁の部分)が炎症を起こし、線維化する疾患群です。原因は多岐にわたり、特発性、薬剤性、自己免疫疾患などがあります。
間質性肺疾患の患者さんでは、肺活量(VC)が低下し、通常80%未満になります。フローボリューム曲線では、全体の大きさが小さく、急激に下降する拘束性パターンが見られます。また、拡散能(DLCO)が低下し、肺のガス交換能力が低下します。
間質性肺疾患の治療には、原因の除去が重要です。職業性曝露や薬剤性の場合は原因物質の除去が必要です。薬物療法としては、抗線維化薬、ステロイド、免疫抑制薬が使用されます。また、呼吸リハビリテーションも有効です。
呼吸困難が進行する場合、慢性的な乾性咳嗽が続く場合、または胸部画像検査で異常が見られる場合には医療機関を受診するようにしましょう。
間質性肺疾患の診断と治療には、呼吸器内科や、自己免疫疾患が関与している場合はリウマチ科を受診することをお勧めします。
「呼吸機能検査(肺機能検査)の基準値」についてよくある質問
ここまで呼吸機能検査(肺機能検査)の基準値について紹介しました。ここでは「呼吸機能検査(肺機能検査)の基準値」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
呼吸機能検査(肺機能検査)の正常値はどれくらいでしょうか?
木村 香菜 医師
1秒率(%)は70%以上、%1秒量は80以上、%肺活量(%)は80.0以上が基準値値となっています。
呼吸機能検査(肺機能検査)の異常値はどれくらいでしょうか?
木村 香菜 医師
呼吸機能検査の異常値は、VCが基準値の80%未満、FEV1/FVC比が70%未満の場合です。これらの異常値は、拘束性換気障害や閉塞性換気障害の可能性を示唆します。
肺機能検査の1秒率と%1秒量の基準値は異なりますか?
木村 香菜 医師
1秒率(%)は70%以上、%1秒量は80以上となっています。
30代で呼吸機能検査の1秒率が70%以下の場合肺が悪いのでしょうか?
木村 香菜 医師
30代で1秒率が70%以下の場合、閉塞性換気障害が疑われます。COPDや喘息などの疾患が考えられるため、呼吸器専門医の診察を受けることをお勧めします。
スパイロメーターの数値が悪い子供は喘息の可能性がありますか?
木村 香菜 医師
スパイロメーターの数値が悪い場合、特に1秒率が低い場合は喘息の可能性があります。気管支拡張薬投与後の改善を確認することで、診断の参考になりますので、医師の診察を受けてください。
まとめ 呼吸機能検査(肺機能検査)の基準値は、年齢や性別、身長で決まる!
呼吸機能検査(肺機能検査)は、肺や気道の機能を評価するために欠かせない重要な検査です。検査の目的や方法、結果の見方を理解することで、呼吸器疾患の早期発見や治療効果の評価が可能となります。正確な検査結果を得るためには、検査前の準備や注意点をしっかり守ることが大切です。疑問や不安がある場合は、専門医に相談し、適切なアドバイスを受けましょう。呼吸機能検査を通じて、健康な呼吸器を維持するための一歩を踏み出しましょう。
「呼吸機能検査(肺機能検査)」の異常で考えられる病気
「呼吸機能検査(肺機能検査)」から医師が考えられる病気は16個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経内科系の病気
- 筋萎縮性側索硬化症
- 重症筋無力症
- 多発筋炎
呼吸機能検査では、肺が膨らみにくくなる拘束性障害や、息が吐き出しにくくなる閉塞性障害、さらにそれが混ざり合った混合性障害など、さまざまな病気があります。