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「大腸ポリープを切除すると生存率が上がる」理由を医師に聞く 放置するリスクとは

 公開日:2025/06/25
「大腸ポリープを切除すると生存率が上がる」理由を医師に聞く 放置するリスクとは

健康診断や大腸内視鏡検査などで「ポリープが見つかりました」と言われると、不安を感じる方も多いと思います。特に「ポリープ=がんの前兆?」という印象を持つ方も少なくありません。実際に一部のポリープは大腸がんの前段階とされ、適切な切除ががん予防につながることもあるようです。今回は、ポリープの種類やリスク、内視鏡治療の必要性について、池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック東京豊島院 院長の柏木宏幸先生に詳しく解説していただきました。

柏木 宏幸

監修医師
柏木 宏幸(池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック 東京豊島院)

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2010年埼玉医科大学卒業後、沖縄にて初期臨床研修をおこない、東京女子医科大学病院消化器病センター内科へ入局。女子医科大学病院消化器内科助教となり複数の出向病院で勤務し、2023年4月に池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック開業。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、一般社団法人日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医、難病指定医。

ポリープ=前がん? 医師が教えるポリープの正体

ポリープ=前がん? 医師が教えるポリープの正体

編集部編集部

はじめにポリープとはどのようなものなのか、改めて教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

ポリープ」というのは、粘膜の一部に発生したイボのように盛り上がってできた隆起性の病変(腫瘍)です。様々な形があり、良性も悪性も含まれます。遺伝的要因や生活習慣、炎症などの様々な要因によって粘膜の表面に異常増殖が起こって盛り上がることで、ポリープが発生します。

編集部編集部

ポリープはがんの前段階なのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

大腸ポリープの代表とされる腺腫(せんしゅ)というタイプは、いわゆる大腸がんの前段階(前がん病変)といわれます。全ての大腸ポリープががんの前段階ではありません。大腸ポリープの中でも様々な種類があり、がん化しやすいポリープ(腺腫など)もあれば、がん化しないポリープ(炎症性など)もあります。多くの大腸がんは、大腸ポリープが前段階となって発生します。

編集部編集部

ポリープにも種類があると聞きますが、どのような種類がありますか?

柏木 宏幸先生柏木先生

大腸ポリープの種類は見た目の分類と組織による分類があります。見た目の種類としては、キノコのような茎のあるタイプ(有茎性)や茎のないタイプ(無茎性)その中間の亜有茎性があります。これらにより治療法や治療時の出血のリスク、治療の難易度などが変わってきます。見た目の分類とは別に、特に治療や大腸がんのリスクに関わってくるのが、組織の違いによる分類です。組織学的な違いとしては大きく腫瘍性非腫瘍性に分けられます。腫瘍性には腺腫、腺がんが含まれます。非腫瘍性には過形成性、過誤腫性、炎症性など様々な種類があります。

編集部編集部

それぞれのポリープの特徴を簡単に教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

腫瘍性ポリープである腺腫は数年かけて進行し、がん化するリスクがあります。非腫瘍性ポリープである過形成性、炎症性、過誤腫性といったタイプはがん化するリスクは低いとされています。腺腫以外に多く見つかるポリープとして、過形成性ポリープやSSA/P(Sessile serrated adenoma/polyp)などが挙げられます。SSA/Pは大腸がんのリスクとなるため積極的に切除するべきとされています。炎症性ポリープは強い炎症のあとに発症するポリープで、過形成性ポリープや過誤腫性ポリープは正常組織の過剰増殖によってできるポリープです。非腫瘍性ポリープに関してはサイズや発生部位、症状を起こす原因となる場合には切除されることもあります。

内視鏡で切除すべき理由とは? 生存率との関係

内視鏡で切除すべき理由とは? 生存率との関係

編集部編集部

ポリープはどのような検査で見つかるのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

大腸ポリープは大腸カメラ(大腸内視鏡検査)で見つかります。その他、大腸CT検査や注腸検査では間接的に腸内を評価することで大腸ポリープや大腸がんの疑いを評価することができます。しかし、確定診断には大腸内視鏡検査が必要です。大腸がん検診は検便検査(便潜血検査)のため、出血の有無の評価であることからポリープの評価には適しておりませんが、大腸がんの検診としては有用です。

編集部編集部

ポリープが見つかった場合は必ず切除するべきなのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

必ずではありません。腫瘍性ポリープを含む大腸がんのリスクとなるポリープ(腺腫やSSA/P)、出血や腸閉塞などの症状をきたすポリープは治療適応となります。大腸がんの多くは大腸ポリープが進行して発生することからも、大腸がんの予防のためにも切除が必要と判断された場合には切除することが勧められます。がんのリスクがないとされるポリープでは経過観察となることが一般的です。

編集部編集部

ポリープを切除すると生存率が上がる理由について教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

大腸がんのリスクとなる大腸ポリープを切除することで、大腸がん発症のリスクを減らせます。その結果、大腸がんによる死亡率の低下、結果的に生存率の上昇につながります。また、大腸がんは早期発見で治癒の可能性が高くなるというデータがあり、早期発見・早期治療が大切です。特に早期大腸がんの5年生存率は90%以上とされ、早期診断による生存の可能性が非常に高いがんであることが示されています。大腸がんになる前の前がん病変の段階で切除することが望まれます。

ポリープの切除と再発の可能性

ポリープの切除と再発の可能性

編集部編集部

ポリープを切除せずに放置した場合のリスクについて教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

大腸ポリープの組織や大きさによって放置した場合のリスクは異なってきます。まずは前がん病変とされる腫瘍性ポリープですが、10mm以上の場合には10~30%はがんであるとされています。10mm未満であっても数%はがんである可能性があり、大きい病変ほどがんとの相関が明らかになっています。なので、腫瘍性ポリープは放置した場合に成長していくため、大腸がんのリスクになります。発見された時点でどの程度のサイズや状態かによって変わりますが、医師の指示に従って治療や経過観察が勧められます。

編集部編集部

ポリープが見つかった場合に意図的に処置しないこともあるのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

腫瘍性ポリープであっても、小さい場合には経過観察になることもあります。非腫瘍性ポリープである過誤腫や過形成性ポリープの多くは放置しても問題とならないことも多いのです。内視鏡診断で治療する必要がないと判断された場合に放置することは問題ないですが、内視鏡画像でポリープの診断が難しい場合には診断目的に生検またはポリープ切除することもあります。

編集部編集部

内視鏡検査と同時にポリープ切除もできると聞きますが、切除までの流れについて教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)をおこなっている最中に大腸ポリープを認めた場合、その場で切除ができる施設では、検査中に治療に移行します。切除の流れとしては大腸ポリープを医師が確認し、内視鏡画像を見て良悪性の判断、種類の判断をおこないます。切除した方が良い、切除可能と判断した場合にポリペクトミーまたは内視鏡的粘膜切除術(EMR)という治療でおこなわれます。ただし、がんを強く疑う場合や上記の方法での切除が難しい場合、大きな病変の場合には入院での治療、その他の治療法(ESD、手術)を案内されることもあります。治療時間は1つのポリープあたり数分かかるため、ポリープの個数は多くなければ検査時間が数分延長する程度です。

編集部編集部

ポリープを切除しても再発する可能性はありますか?

柏木 宏幸先生柏木先生

再発する可能性はあります。ポリープ切除では、医師はポリープの取り残しがないように切除するよう心掛けています。しかし、ポリープの形状や大きさ、ポリープの発生した場所によっては完全に切除することが難しいことも起こりえます。そのようなケースもありますので、がんを強く疑ったケースでは、取り残しが起こらないような治療法を選択します。ただ、多くの場合にはポリープを切除した部位からの再発よりは、治療した場所とは別の場所に新たに発生したポリープが定期検査で認められ、治療が必要となることが多いですね。そのため、再発を心配するよりは新たなポリープの発生を見逃さないためにも、定期検査での経過観察が重要です。

編集部まとめ

ポリープと聞くと「怖い」「がんの手前では」と不安に感じますが、その正体や治療方針を知ることで、過度に心配せずに済むこともあります。特に、内視鏡での早期発見・切除は、大腸がんの予防と生存率の向上に直結します。今回の記事が、ポリープに関する正しい知識を得るきっかけとなり、検査や治療への不安軽減につながりましたら幸いです。

この記事の監修医師