佐藤弘道「脊髄梗塞」で絶望。「完治しない病」と闘う現在の姿とは(2/2ページ)
佐藤弘道「脊髄梗塞」で下半身麻痺。壮絶なリハビリ生活と今後の展望
原先生
入院中はどのようなリハビリをされていたのですか?
佐藤さん
入院した当初は足の上げ下げや曲げ伸ばしを理学療法士や作業療法士の方にして頂き、リハビリやベッドサイドに真っ直ぐ座る練習をしていました。また、筆の先や爪楊枝の後端を用いて感覚の検査などもおこないました。今は、体幹や下半身の筋力トレーニング、バランス練習、歩行練習をしています。
リハビリ中の写真
原先生
そうなのですね。一般的にも最初は他動的と言って、誰かに体を動かしてもらって、関節可動域の維持や体に動かし方を思い出してもらうようなリハビリを開始します。最初の数ヵ月で体の機能が改善してくることが多いので、より日常生活に近い動きを取り入れた運動リハビリテーションが重要になります。
佐藤さん
今もリハビリ病院に通っていますが、症状の回復にはどのようなことが関係しているのでしょうか?
原先生
症状の改善に関しては、最初が重症な人ほど治りにくいと言われています。足が完全に動かなくなるまでの時間がすごく短い場合や詰まった血管の範囲が広いケースでは治りが遅い傾向があります。
佐藤さん
最終的には、どの程度まで回復するのでしょうか?
原先生
杖や歩行器を使わずに歩けるようになる人は全体の約40%と言われています。
佐藤さん
僕の場合は発症してからまだ半年なので、まだ回復の可能性があるということですか?
原先生
脊髄梗塞の症状が改善する期間は長いと言われています。例えば、脳梗塞の場合は発症後6ヵ月を過ぎると改善が緩やかになると言われていますが、脊髄梗塞の場合、発症後3年程度まで症状が徐々に改善することが多いと報告されています。
佐藤さん
僕の場合は、足の指が最初に動き始めました。足の神経が繋がることをイメージしながらリハビリをしていくと徐々に足が動くようになりましたが、麻痺や感覚が改善する順番は決まっているのですか?
原先生
一般的に神経の回復する過程としては、障害された部位から足の先に向かって症状が改善することが多いです。しかし、股関節や膝に比べて足の指の方が少しの力で動くため、人によっては指の動きから治ったと思う場合もあります。
佐藤さん
股関節の筋肉は右足が先に動いたのですが、左足は発症後8週目頃でしたので、なおさら指から動き始めるのだと思っていました。
原先生
もちろん、障害部位によって症状も治り方も千差万別ですので、佐藤さんのようなケースもありえます。教科書的には、血管や神経が左右対称に分布しているため、対麻痺として左右対称に発症するのが一般的ですが、実際には人によって症状は多岐にわたるので、左右で異なる症状や治り方をする人もおり、その人に合ったリハビリが必要になります。
佐藤さん
その人の生活に合わせられたら一番良いですよね。
原先生
佐藤さんはリハビリのモチベーションは最初から維持できていたのですか?
佐藤さん
初めは足も動かず身動きも取れないですし、尿管も入っているなど生活が制限されていたので気持ちも落ちていましたが、タレント業と言うこともあり、この病気を公表しました。リハビリを進めていく中で徐々に動きも改善し「頑張るしかない」と言う気持ちになりました。
原先生
諦めずに取り組むことは本当に重要だと思います。
佐藤さん
家族からもらった「大丈夫大丈夫、回復するよ」や「治ったらゴルフ行こうよ」のような前向きな言葉やファンの方からの応援メッセージがとても励みになりました。脊髄梗塞を経験した方の回復エピソードを聞いて前向きな気持ちになれましたね。
原先生
脊髄梗塞の治療に関して、リハビリの方法や頻度に焦点が当たりがちですが、実際には患者さん自身の落ち込んだ気持ちに医療者としてどのように向き合うことができるのか、どのようなサポートができるのかという点が医学的にもとても重要です。
佐藤さん
リハビリをする上で、前向きな気持ちに切り替えるための方法にはどのようなものがありますか?
原先生
患者さんは、将来の見通しがわからない場合に不安に感じることが多いと思います。そのため、先の経過が良くても悪くてもまずはきちんと伝えることが重要ではないかと考えています。その際、将来の希望に関してもきちんと伝えたいですね。自分の将来の見通しについて知ることで患者さんの気持ちが前向きになることにつながると思います。
佐藤さん
リハビリは大変ですが、絶対に効果が出ると信じて良い意味で例外を作りたいなと思いながら取り組んでいます。
原先生
しんどいと思ったら無理しない期間があってもいいと思いますが、諦めないことも本当に大事です。歩行可能な距離が回復の程度を示す指標として使われることがありますが、今はどの程度歩行できるのですか?
佐藤さん
トレッドミルと言うトレーニング器具を用いて60分で5km程度歩行しています。エアロバイクでも60分程度漕ぐことができますが、下り坂を歩くことには少々不安を感じることもあります。
原先生
健康な人よりも歩けるかもしれないですね。今も日常的にリハビリをおこなっているのですか?
佐藤さん
週に1~2回通院してリハビリ、週に1回パーソナルトレーナーと一緒に筋トレをしています。加えて、空き時間があるときは自主トレをおこなっています。
原先生
素晴らしいですね。ぜひ、これからも頑張って頂きたいなと思います。最後にリハビリを頑張っている人にメッセージはありますか?
佐藤さん
脊髄梗塞という非常に稀な病気を経験しましたが、多くの学びがあり、感謝や幸せをより強く感じる機会となりました。リハビリも積み重ねがすごく大事ですし、心と体を前向きに保ち、少しでも改善できるように皆さんと一緒に頑張っていきたいと思っております。
編集部まとめ
脊髄梗塞は原因や治療法が未解明の部分が多い病気であり、突然の発症が患者や家族の生活を一変させます。しかし、佐藤弘道さんが語る「絶望の中でも前向きにリハビリに向き合う姿勢」は多くの人に希望を与えるものでした。リハビリは地道で辛い道のりですが、一歩ずつ進むことで新たな可能性が広がることを佐藤さんは実体験を通じて証明しようと努力されています。この対談が、読者の皆様にとって脊髄梗塞への理解を深め、リハビリに取り組む方々の力になれば幸いです。