植毛の基礎知識 手術法の違いとメリット・デメリット 結果が表れるまでの期間とは?
薄毛が気になる部分に自分の髪の毛を移植する「自毛植毛手術」。毛包の採取方法の違いにより、いくつかの方法に分類されますが、それぞれどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか? 正しく選択する方法や注意事項などについて、東京メモリアルクリニックの藤巻先生に教えてもらいました。
監修医師:
藤巻 弘(東京メモリアルクリニック)
植毛とは?
編集部
植毛とはどのようなものですか?
藤巻先生
植毛とは、自身の毛髪を採取し、薄毛が目立つ部分に移植する治療法のことです。これを自毛植毛と呼びます。薄毛の原因が男性型脱毛症である場合、多くはM字部分やつむじ部分から進行していきます。一方で、後頭部はあまり進行していないことが多いため、この後頭部から毛髪を一部採取して、薄くなった部分に移植します。これが現在行われている自毛植毛の基本的な方法です。
編集部
どのような方に植毛がおすすめでしょうか?
藤巻先生
- 内服治療で理想の状態まで改善しない方
男性型脱毛症(AGA)の薬物治療を行っても、効果が出るまで時間がかかったり、ゆっくり現れる効果を実感できなかったりする場合があります。内服治療だけでは十分な改善が得られないと感じている方にとって、植毛は追加の選択肢となる可能性があります。 - 特定の部分の薄毛が特に気になる方
たとえば、M字の生え際やつむじ部分など、特定の箇所の薄毛が気になる方には植毛が効果的な場合があります。植毛では、患者さんの希望に合わせて、気になる部分を重点的に改善することを目指すことができます。 - 短期間でAGAの改善を希望する方
AGAの改善をより早く効果を実感したい方におすすめの治療法です。
編集部
植毛には自毛植毛と人工毛植毛があると聞いたことがありますが、それぞれどのようなものですか?
藤巻先生
自毛植毛は自身の毛髪を使用するため、安全性が高く、自然な仕上がりが得られます。これは男性型脱毛症の進行パターンを考慮した方法です。一方、人工毛植毛は、人工毛が異物であるため感染のリスクが高く、生着しないだけでなく、頭皮に強いダメージを与えてしまいます。さらに、海外では米国食品医薬品局(FDA)が禁止しているなど、安全性の観点から問題視されています。そのため、人工毛植毛は行うべきではありません。
自毛植毛の具体的な流れ
編集部
自毛植毛はどのようにして行うのですか?
藤巻先生
自毛植毛手術は局所麻酔で行われます。希望に応じて、鎮静剤を投与することもあります。手術の流れとしては、まず、うつ伏せの状態で後頭部から毛髪を採取します。次に、採取した毛髪を一本一本丁寧に余分な組織を除去する「株分け」という作業を行います。最後に、処理した毛髪を薄毛の部分に一本一本丁寧に植えていきます。
編集部
手術時間はどれくらいになりますか?
藤巻先生
手術時間は移植する範囲や本数(グラフト数)によって大きく変わります。小さい範囲であれば3〜4時間程度ですが、広い範囲の場合は8時間ほどかかることもあります。ただし、途中で休憩を取ることはできますし、処置中は携帯で動画を見ることもできるなど、患者さんの負担を軽減するような配慮が可能です。
編集部
費用はどれくらいなのでしょうか?
藤巻先生
自毛植毛はどうしても人手と時間を要する手術であるため、それなりの費用がかかります。通常の範囲であれば60~120万円程度が一般的です。ただし、小範囲での手術の場合はそれに応じて費用も下がります。
編集部
痛みはありますか?
藤巻先生
局所麻酔の注射の際に多少の痛みがありますが、できる限り痛みを軽減する工夫をして行います。具体的には、注射の前に貼るタイプの麻酔を使用し、さらにブロック麻酔という方法で一部分に麻酔をして全体に行き渡らせます。これにより痛みを最小限に抑えることができます。処置中は麻酔が効いているため、ほとんど痛みを感じることはありません。
編集部
植毛の手術には種類があるのでしょうか?
藤巻先生
採取方法の違いにより、「FUE法」と「FUT法」に分類されます。FUE法は採取部から一本一本(1グラフト)ずつ丁寧に毛髪を抜いていく方法です。一方、FUT法は帯状に皮膚を採取し、その部分を縫い合わせる方法です。
編集部
それぞれの特徴を教えてください。
藤巻先生
FUE法は一本一本抜いていくため時間がかかりますが、一定の比率までであれば周囲の毛で隠れるため、採取したことがわかりにくいのが特徴です。FUT法は時間は早いのですが、傷跡ができます。ただし、技術のある外科医が行えば細い傷跡になり、周囲の毛で隠すことができます。近年は世界的にFUE法が主流になってきています。それぞれに長所短所があるので、担当医と相談しながら決めていくことが大切です。
植毛を受ける際に気をつけるべきこと、注意点
編集部
ダウンタイムはありますか?
藤巻先生
手術後、約1週間程度はむくみや滲出液(傷を修復するために分泌される液体)が少し出ることがありますが、これは正常な経過です。また、植えた毛が抜けないよう、植毛部分は安静にする必要があります。翌日からシャワーで頭を洗うこともできます。デスクワークであれば数日で仕事に復帰される方も多くいらっしゃいます。
編集部
手術のリスクはありますか?
藤巻先生
植毛手術にも、ほかの手術と同様にリスクがあります。出血、感染、術後の痛みが起こる可能性は完全にはゼロではありませんが、適切な予防措置を取ることで、これらのリスクは最小限に抑えられます。
編集部
どれくらいの結果を期待することができるのですか?
藤巻先生
手術の結果については、個人差があることを理解しておくことが重要です。どんなに優れた技術で手術を行っても、皮膚の状態などにより、全ての毛髪が完全に生着するわけではありません。移植した毛は1〜3ヶ月後に一度抜け落ち、その後再び生え始めます。そのため、術後6ヶ月の時点では一時的に元の状態に戻ったように見える場合もあります。最終的な結果が表れるのは、術後約1年程度経ってからです。
編集部
効果が出るまで、長い時間がかかるのですね。
藤巻先生
はい。術後、移植された毛根は温存されており、多くの場合、時間とともに再び生えてきます。したがって長期的な視点を持ち、定期的に受診して経過を見ていくことが大切です。また、採取部分が過度に透けたり、傷跡が目立ったりするリスクもありますが、適切な技術を持つ医師が手術を行えば、これらのリスクも最小限に抑えることができます。植毛の効果を最大限に引き出し、リスクを軽減するためには、経験豊富な医師による施術と、患者さん自身による適切なアフターケア、そして定期的な経過観察が不可欠です。
編集部
手術の技術に違いはありますか?
藤巻先生
はい、手術の技術には大きな違いがあります。クリニックや医師によって、採取率、移植方法、移植部の密度、移植毛の角度、デザインなど、全ての面で技術の差が現れます。これらの技術を熟知した医師による施術で、最良の結果が得られる可能性が高くなります。
編集部
クリニックを選ぶポイントはありますか?
藤巻先生
植毛手術は決して簡単な手術ではありません。一部のクリニックでは手術の一部の工程しか医師が関与せず、残りの作業を医師でないほかのスタッフが行っているケースもあります。これは望ましくない状況です。そのため、植毛手術を検討する際は、全ての工程に医師が責任を持ち、高い技術を持つ信頼できるクリニックで受けることをおすすめします。適切な技術と経験を持つ医師による施術は、より自然で満足度の高い結果につながる可能性が高くなります。
編集部
最後にメッセージをお願いします。
藤巻先生
AGAの治療は自由診療であり、不当に高額な処置や根拠のない治療により、不利益を被っている患者さんが多く見受けられます。正しい治療法を適切な費用で提供する信頼できる医療機関を選びましょう。
編集部まとめ
植毛の治療を受けようか、悩んでいる人は多いと思います。しかし医師により、結果に大きな差が出るのは事実。複数の医療機関を訪ね、症例写真を見せてもらったり、信頼できる人から情報をもらったりして医療機関を決めることが、治療成功を期待するには必要になりそうです。
医院情報
所在地 | 〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-16-7 山葉ビル2階 |
アクセス | JR「新宿」駅南口より徒歩7分 |
診療科目 | 形成外科、美容外科 |