糖尿病の治療薬「GLP-1受容体作動薬」の効果・副作用を薬剤師が解説 ダイエット目的の服用は危険?
糖尿病の治療は生活習慣の改善だけではなく、薬による治療も必要です。糖尿病の薬といえば、ひと昔前はインスリン注射というイメージがありましたが、近年は新薬の開発が目覚ましく、重症化予防の段階から使える薬が増えてきました。その中でも、最近は「GLP-1受容体作動薬」という薬が注目されています。GLP-1受容体作動薬にはどのような効果や副作用があるのでしょうか。安全に使用するために知っておくべき特徴について薬剤師の志田美春先生に解説していただきました。
監修薬剤師:
志田 美春(COCO et al)
GLP-1受容体作動薬はインスリンの分泌を促す薬
編集部
はじめに、GLP-1受容体作動薬はどのような薬なのか教えてください。
志田さん
GLP-1受容体作動薬は、主に「2型糖尿病」治療のために開発された薬です。最近では肥満症の治療効果が認められている製品も出ていますね。糖尿病は血液中のブドウ糖(血糖)が増えてしまう病気です。中でも、2型糖尿病は血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が低下する、または生活習慣や肥満などによってインスリンの効果が弱まることが原因です。一方で、肥満症は、肥満(BMI25以上)による健康問題の改善のため、または糖尿病をはじめとする合併症を治療するために、減量が必要と思われる状態を指します。
編集部
どのような作用で、2型糖尿病に効くのですか?
志田さん
GLP-1受容体作動薬は私たちの体で作られるホルモンのGLP-1と同じ働きをすることで血糖値をコントロールします。GLP-1はとても分解されやすく、血液中では約2分で半分になってしまいます。そのため、GLP-1受容体作動薬はGLP-1のもつ血糖値のコントロール効果はそのままに、分解されにくいように改良されています。体内に入ったGLP-1受容体作動薬は血流に乗って膵臓や胃、脳などの全身の臓器に運ばれます。主に膵臓では血糖の量に応じてインスリンの分泌を促し、分泌されたインスリンによって血糖値を下げます。
編集部
インスリン注射とは何が違うのでしょうか?
志田さん
最も大きく異なるのは、副作用である低血糖の起こりやすさです。GLP-1受容体作動薬は血糖の量に応じてインスリンの分泌を促進するため、インスリンが過剰になることはほとんどなく、低血糖になりにくいことが特徴です。低血糖は重症になると脳障害や死亡にもつながる重篤な副作用ですが、日本では重症低血糖が原因と考えられる救急搬送が年間約2万件発生していると推計されており、起こりやすい副作用の1つです。
GLP-1受容体作動薬の正しい使い方について知る
編集部
GLP-1受容体作動薬は飲み薬ですか? 注射ですか?
志田さん
2024年4月現在、日本国内では8種類の製品が承認されており、そのうち7つが注射剤、1つが錠剤の飲み薬です。なお、8製品のうちリベルサス、オゼンピック、ウゴービは異なる製品ですが、薬効成分は全て同じセマグルチドという成分です。リベルサスは錠剤の飲み薬、オゼンピックとウゴービの2つは注射剤です。
編集部
GLP-1受容体作動薬は、どのくらいの期間使い続けると効果が出るのでしょうか?
志田さん
治療効果が十分で副作用が問題にならなければ、期間の上限は無く長期的に継続して使用することができます。継続的に使用できるかどうかは、使い始めてから数週間〜数か月の間でわかります。その間、必要に応じて薬の量や製品の種類を変更しながら、治療効果や副作用を観察して判断します。このような薬の調節は薬と身体との相性に大きな個人差がありますので必ずおこないます。
編集部
GLP-1受容体作動薬は保険適用の薬ですか?
志田さん
2024年4月現在、日本国内で保険適用可能なGLP-1受容体作動薬は8種類あります。しかし、GLP-1受容体作動薬に限らず、処方せん医薬品を保険適用で使用できるのはその医薬品の適応症と診断されている人の治療に使う場合のみです。医薬品の適応症は医薬品の添付文書の「効能・効果(適応)」の項目に記載されています。8製品の適応症はウゴービが肥満症、それ以外は2型糖尿病です。
GLP-1の副作用と注意点とは
編集部
GLP-1受容体作動薬を使用することができない人はどのような人ですか?
志田さん
治療効果が出るまでに数週間程度必要になるため、すぐに血糖コントロールが必要な糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病性昏睡(こんすい)になっている人は使用できません。また、体調が急変する可能性がある重症感染症の人や手術などの緊急対応が必要になりそうな人は、急な体調の変化に合わせて厳格な血糖コントロールが必要なため、インスリン製剤を使用します。
編集部
副作用についても教えてください。
志田さん
特に注意する必要があるのは、胃腸障害、低血糖、膵炎の3つです。胃腸障害は薬の使い始めにGLP-1受容体作動薬の食欲を減らす効果が裏目に出てしまったことによるもので、下痢や便秘、吐き気・嘔吐などの症状が出ます。低血糖はほかの薬との併用や過度な食事制限・運動などによるもので、軽度では異常な空腹感や冷や汗、ふるえ、だるさなど、重度では錯乱やけいれんなどの症状が出ます。膵炎は薬と身体との相性の問題で、GLP-1受容体作動薬が膵臓で悪さをしてしまうことでまれに起こり、使用した後に我慢できないぐらいひどい腹痛と嘔吐などの症状が出ます。
編集部
副作用が出た時の対処方法について教えてください。
志田さん
副作用の対処法は症状の種類と程度に分けて考える必要があります。日常生活に支障がない程度の胃腸障害は、脱水にならないように水分補給をしながら、継続して使用していると徐々に落ち着きます。日常生活に支障がある場合は次の受診日を待たずに早めに受診してください。症状に応じて薬の量や製品の変更、それが難しい場合は中止してほかの治療に変更することになります。
編集部
急に強い症状が出る場合もあるのでしょうか?
志田さん
急に激しい腹痛がでて、特に背中の痛みや嘔吐も出るようでしたら、膵炎の可能性が高いですね。必要であれば救急車を利用して、すぐに受診してください。軽症の場合は1週間ほどで完治しますが、重症の場合は1か月以上の入院が必要になります。そのほか低血糖は軽度であれば、すぐにブドウ糖やブドウ糖を含む清涼飲料水をとり、安静にするとすぐにおさまります。重度の場合は自分で対処するのは困難ですので、できるだけ軽度の状態で対処することが大切です。
編集部まとめ
今回は、GLP-1受容体作動薬について詳しく教えていただきました。従来のインスリンによる治療に比べて、副作用である低血糖の症状が出にくく、一部の薬は肥満症にも使用できることが大きな特徴であるとのことでした。しかし、副作用に全く注意がいらないわけではなく、副作用が疑われた場合の適切な対処方法を教えていただきました。本稿が読者の皆様にとって、GLP-1について理解を深めるきっかけとなりましたら幸いです。