「隠れ糖尿病」って何? 健康診断の血糖値が正常でも危険!?
昨今、健康診断前日の食事制限を設けないクリニックが散見されてきました。これは、空腹時に限らず「普段の血糖値はどうなのか」という視点が必要かもしれないからです。はたして、血糖測定のタイミングをずらすことで拾える糖尿病はあるのでしょうか。「五十子クリニック」の五十子先生を取材しました。
監修医師:
五十子 大雅(五十子クリニック 院長)
東京慈恵会医科大学卒業。京都大学医学部附属病院医員を経た2004年、東京都世田谷区に位置する「五十子クリニック」を父親より継承。循環器や内分泌疾患を中心に診療を続けている。日本医師会認定産業医、日本甲状腺学会専門医、日本糖尿病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。
検査時以外に高血糖が起きている可能性
編集部
ときどき耳にするようになった隠れ糖尿病って、何が「隠れ」なのでしょうか?
五十子先生
一般的な健康診断の血糖検査では、前年度の結果と比較できるよう、空腹時に採血しておこないます。ところが、空腹時以外に検査を受けてしまうと、正確な検査結果の把握が難しくなってしまうのです。実際に、空腹時はなんともなくても、食後に血糖が上がるタイプの人もいらっしゃいます。こうした、実際の健康状態の把握が漏れてしまうことを「隠れ」と呼んでいます。
編集部
隠れ糖尿病は、正式な糖尿病なのですか?
五十子先生
「正式な病名」というより「一般的な俗称」です。通常、食後約2時間で血糖値が正常になるのですが、高血糖のまま戻らないケースを隠れ糖尿病と診断することがあります。また、動脈硬化は食後の高血糖でも起こり得るので、合併症である「心筋梗塞」や「脳梗塞」などのリスクを知らずに抱えているということになります。
編集部
一般的な健診を前提とすると、隠れ糖尿病って見つけられないですよね?
五十子先生
そうかもしれませんが、血糖値を同じ条件下で定期的に図ることも重要なので、「血糖測定を空腹時に限定する」ことが間違いではありません。その一方で、あえて食事後の血糖値で評価する「随時血糖」を導入している医院が増えてきました。その人自身の状態を診るとなると、食後に観察する意義もあるのです。
編集部
我々は高血糖のリスクに、どう立ち向かえばいいでしょうか?
五十子先生
食後の自分の状態を意識してみてください。具体的には、眠気やだるさ、顕著な喉の渇きなどです。なお、家庭でできる「糖尿チェックキット」は、糖尿病じゃないのに糖が尿に出るケースも拾ってしまいます。その結果を機に受診していただいても構わないのですが、自覚の方がわかりやすいと思います。まずは、食後の状態を観察するクセをつけてみてはいかがでしょうか。
自分の体調と向き合う心構えをもつ
編集部
ちなみに、ほかにも糖尿病に近い状態があるのでしょうか?
五十子先生
糖尿病には「境界型」というカテゴリーがあります。血糖値は食事の内容で変動するため、きっぱりとした線引きが難しく「おおむね、この辺で推移している」というグレーゾーンを設けています。この境界型糖尿病が、「隠れ糖尿病」というわけです。なお、一般的な空腹時血糖値が「100以上」だったら境界型、「126」を越すと正式な糖尿病と診断されます。
編集部
あと、「痩せていても糖尿病になる」という話も耳にします。
五十子先生
順天堂大学の研究によると、痩せている人は「低代謝体質」により、糖尿病と同じようなことが起きているそうです。エネルギー不足で、膵臓が十分に機能していないと考えられています。したがって、血糖値の異常は「メタボな人に限らない」ということになります。また、血糖値を抑えるために食事を控えて痩せようとすることも、間違った認識です。
編集部
なんだか健康診断では、糖尿病のスクリーニングが十分にできていない印象です。
五十子先生
健康診断などの数値で「わかった気になる」のではなく、やはり、ご自身の体調と向き合いましょう。「昼食後の眠気が尋常じゃない」、「水分をガブガブと飲みたくなってしまう」などの異常がみられたら、その時点で糖尿病外来へご相談ください。その際、「食後の様子がおかしい」ことを申告していただけると我々医師としても助かります。
編集部
でも、「間違っていたら迷惑かも」と考えてしまいます……。
五十子先生
その点は、ご安心ください。「糖尿病ではなかった」ことを診断するのも、立派な受診動機です。むしろ、ちょっとした悩みでも気軽に相談できる「かかりつけ医」をもっていただきたいですね。そして、病気に対するアンテナを常に張っておきましょう。くれぐれも、身体の違和感を自らの意識で封じ込めることはしないようにお願いします。
糖尿病を例えるなら、水道管の全面的な劣化
編集部
ところで、糖尿病って腎臓の病気でしたっけ?
五十子先生
身体のどこに影響がでるかというと、ズバリ「血管」です。全身の動脈硬化が同時に起きていきます。動脈はしなやかでないと、心臓から力強く押し出される血液を受け止めきれません。また、血管が詰まった状態だと、腎臓で老廃物をこしきれなくなります。加えて、血管の壁に付着したコレステロールが塊となり、血管をふさぐこともあります。これが先述した心筋梗塞や脳梗塞の原因です。
編集部
つまり、血管を老化させる病気だと?
五十子先生
そのような理解で構いません。膵臓の機能低下が原因で、糖尿病の結果にフォーカスするなら、「血管の病気」といえるのではないでしょうか。糖尿病は、全身の血管に不具合が起きる病気で、重篤化すると「足の壊死(えし)」を起こすこともあります。最悪の場合、足を切断しなければならなくなることも考えられます。
編集部
ほかの合併症についても教えてください。
五十子先生
全身の血管が範囲ですから、頭の先からつま先まで、どこにでも不具合を生じさせかねません。脳梗塞や目の網膜症、歯周病、心筋梗塞、腎疾患、手足の冷えやしびれ、足の壊死、加えて免疫力の低下による感染症の罹患などです。新型コロナウイルス感染症でも、糖尿病などの「基礎疾患」が問われていますよね。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
五十子先生
食後の眠気や喉の渇きなどの自覚に加えて、一般的な空腹時血糖値が「100以上」だったら、糖尿病を疑ってみてください。その際、糖尿病の専門外来を受診していただければ、食後の血糖値もふまえた総合的な判断をいたします。血管がボロボロになる前に、全身の健康を守りましょう。
編集部まとめ
今まで健康診断でおこなってきた血糖値測定では、「隠れ糖尿病」を見つけるのは困難とのことでした。それでも、同じ条件で定期的に検査することに意義のあるため、今日まで続けられているようです。最も肝心なのは、普段の身体の状態であり、食後の不調が高血糖のサインです。もし、食後の自覚に心当たりがあるようなら、糖尿病の専門外来で相談してみてはいかがでしょうか。
医院情報
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アクセス | 小田急線「経堂駅」 徒歩7分 世田谷線「宮坂駅」 徒歩13分 |
診療科目 | 内科、漢方内科、糖尿病内科、甲状腺内科、循環器科 |