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大腸がんの発症リスクを歯周病が引き上げる? 消化器内科専門医が解説

 公開日:2023/06/02
大腸がんの発症リスクを歯周病が引き上げる? 消化器内科専門医が解説

大腸がんの原因は遺伝的要因から生活習慣に及ぶまで多岐にわたりますが、近年、「歯周病によっても大腸がんのリスクが上がる」という報告がありました。歯周病がなぜ大腸がんのリスクになるのか、また、歯周病を予防するために行うべきケアについて、消化器内科専門医の石岡先生に解説してもらいました。

石岡 充彬

監修医師
石岡 充彬(日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック)

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2011年 国立秋田大学医学部医学科卒業。卒業後は秋田大学医学部附属病院の消化器神経内科学講座医員として研鑽を積む。2018年 がん研有明病院消化管内科。2021年 同病院 健診センター・下部消化器内科兼任副医長に就任。2022年より品川胃腸肛門内視鏡クリニックの院長を務める。2024年「日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック」を開設。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。

歯周病と大腸がんの関係性について

歯周病と大腸がんの関係性について

編集部編集部

まずは歯周病について教えてください。

石岡 充彬先生石岡先生

歯周病は、歯周病菌の感染によって起こる慢性炎症疾患の総称です。歯ぐきの炎症(歯肉炎)と、歯を支える組織の炎症(歯周炎)の2つに大きく分けられます。軽症の段階では自覚症状がない場合もありますが、進行すると歯ぐきからの出血や、歯のぐらつきなどが見られるようになり、最終的には歯を失う原因にもなります(※1)。厚生労働省では自分の歯を生涯にわたってできるだけ多く残すことを目標に「8020(ハチマル・ニイマル)運動」を提唱しています。

※1:日本歯科医学会「歯周病の診断と治療に関する基本的な考え方」
https://www.jads.jp/basic/pdf/document_01.pdf

編集部編集部

歯周病を発症する頻度はどれくらいでしょうか?

石岡 充彬先生石岡先生

年齢とともに歯周病にかかる割合は高くなるとされていて、45歳以上で4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は二人に一人以上とされています(※2)。また、歯周病にかかると、口の中のトラブルにとどまらず、全身の病気につながることが分かっていて、その一つとして大腸がんとの関連が報告されています。

※2.厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周疾患の有病状況」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-03-004.html

編集部編集部

「歯周病が大腸がんに関係する」というのは、どういうことですか?

石岡 充彬先生石岡先生

歯周病菌の一種である「Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)」が大腸がんと関連していることが報告されています(※3)。胃がんとピロリ菌の関連性についてはよく知られるようになりましたが、大腸がんと腸内細菌の関連についてはまだまだ研究の歴史が浅く、未解明の部分も多いのです。

※3. Komiya Y, et al. Patients with colorectal cancer have identical strains of Fusobacterium nucleatum in their colorectal cancer and oral cavity. Gut. 2019;68:1335-1337.

編集部編集部

具体的な原因は分かっているのでしょうか?

石岡 充彬先生石岡先生

仮説になりますが、口腔内常在菌が唾液と共に腸管内に流れ込んだり、体内の免疫系に関与したり、歯周病菌によって誘導された炎症物質が発がんを引き起こしたりするなど様々な説が挙げられています。昨年、カナダから歯周病と大腸がんの関連について調べた「COLDENT study」という症例対象研究結果に関する論文が発表されました。これによると、歯周病のある人ではない人と比較して約1.5倍も大腸がんになりやすい、とされています(※4)。

※4. Idrissi Janati A, et al. Periodontal disease as a risk factor for sporadic colorectal cancer: results from COLDENT study. Cancer Causes Control. 2022;33:463-472.

歯周病とほかの全身疾患について

歯周病とほかの全身疾患について

編集部編集部

歯周病は大腸がん以外の病気との関連もありますか?

石岡 充彬先生石岡先生

特に歯周病と関連の深い疾患としては糖尿病が知られています。糖尿病の人は免疫機能の障害や細かい血管の血流障害が起こりやすく、歯周病が悪化しやすいと言われていますが、反対に歯周病になることで糖尿病自体も悪化しやすくなると言われています(※5)。

※5. 厚生労働省 「歯周病検診マニュアル 2015」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/manual2015.pdf

編集部編集部

歯周病になると糖尿病が悪化するのはなぜですか?

石岡 充彬先生石岡先生

「歯周病によって誘導された炎症物質がインスリン抵抗性を増加させるため」と言われています。インスリンというのは血糖値を下げるホルモンのことですが、分泌されたインスリンに対する身体の反応が悪くなる、ということですね。歯周病と糖尿病は相互に悪影響を及ぼす、負のループを形成していると言えます。

編集部編集部

糖尿病のほかにも、関連のある疾患はありますか?

石岡 充彬先生石岡先生

糖尿病のほかには、動脈硬化心筋梗塞脳梗塞などの心血管系トラブルや、誤嚥性肺炎関節リウマチ認知症などの疾患リスクも増加させると言われていますので、早期から歯周病ケアが重要であると言えます。

歯周病の予防に必要なこと

歯周病の予防に必要なこと

編集部編集部

歯周病を予防するにはどうしたらいいですか?

石岡 充彬先生石岡先生

基本となるのは、日々の口腔内ケアです。食事毎に雑な歯磨きを3回するよりも、1日に1回だけでも徹底的なブラッシングをする方が、より効果が高いと言われています。また、プラーク(歯石)の除去にはブラッシングだけでは不十分で、歯間ブラシやデンタルフロスの使用も推奨されています。また、セルフケアだけでは十分に除去できない汚れに関しては、歯科での定期的な処置をすることで、将来的により多くの歯を残すことができると分かっています(※5)。

※5. 厚生労働省 「歯周病検診マニュアル 2015」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/manual2015.pdf

編集部編集部

歯科クリーニングを行う適切な間隔について教えてください。

石岡 充彬先生石岡先生

1〜3ヶ月毎のケアが一般的ですが、むし歯や歯周病の有無など各々の口腔内環境によって適切なケアのタイミングは異なりますから、かかりつけの歯科医とよく相談することをお勧めします。

編集部編集部

その他、生活習慣で気をつけるべきことはありますか?

石岡 充彬先生石岡先生

喫煙習慣がある場合には禁煙が勧められます。口腔内環境の悪化に繋がります。また、喫煙それ自体も大腸がんのリスク因子と考えられていて、タバコを吸う本数が増えるほどに大腸がんの発生率は上昇するという報告もあります(※6)。喫煙によるダメージは蓄積し、禁煙しても生涯に吸った総量に応じて様々な疾患リスクを増加させますので、可能な限り早期の禁煙をお勧めします。

※6. Akter S, et al. Smoking and colorectal cancer: A pooled analysis of 10 population-based cohort studies in Japan. Int J Cancer. 2021;148:654-664.

編集部まとめ

歯周病は大腸がんをはじめ、糖尿病や心筋梗塞・脳梗塞、認知症まで幅広い疾患に関与していることが分かりました。1日最低1回の丁寧なセルフケアと、3ヶ月毎のプロによる定期的なクリーニングを受けることが重要です。

この記事の監修医師