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歯周病の手術ってどんなことをする?

 更新日:2023/03/27

こんにちは。埼玉県草加市谷塚にあります“谷塚藤波歯科医院”院長で,日本歯周病学会専門医の藤波弘州と申します。
歯周病の治療を行う際には,まずお口の中の診査・診断をします。そしてその診断を踏まえて治療計画を立て,治療を行なっていきます。
歯周病の状態としては,歯茎の腫れ,歯を支える顎の骨が溶けるといったことが挙げられます。その原因は多岐に渡りますが,その中でも特に多く見られるのは,プラーク(細菌)による炎症です。治療内容としてはプラークの除去,そしてプラークが石灰化して出来る歯石の除去になりますが,歯茎の中に存在する歯石除去を行っても歯茎の腫れが改善されない場合の治療法として,歯茎の手術を行います。また,歯茎の形によってプラークが溜まりやすい場合には,歯茎の形を変えていく,という手術を行います
では,歯茎の腫れを引かせる手術とはどのようなものがあるのでしょうか?また歯茎の形を変える手術等はどのようなものでしょうか?
今回は歯周病の手術法に関してご説明したいと思います。

 歯周病の手術はどのような時に行うのか?

・ブラッシングなどのプラークコントロールや,歯茎の中の歯石除去といった歯周基本治療を行なっても,深い歯周ポケットが残存している場合
・軟組織,硬組織の形態異常によりプラークコントロールの不良や歯周炎の再発が起こりやすい場合
審美障害や適切な修復・補綴物の装着を妨げるような解剖学的形態異常の際に外科手術を行うかどうかを考えていきます。
また,歯周外科治療を行う際には,

  • 患者さんへ説明を行い,同意が得られていること
  • 患者さんの全身状態が良いこと
  • 患者さんの口腔衛生状態が良いこと
  • 喫煙していないこと

が,手術を行う際に必要な条件となってきます。

 どのような手術法があるの?

歯周外科手術は,
①組織付着療法,
②切除療法,
③歯周組織再生療法,
④歯周形成手術
の4種類に分類されます。
どの歯周外科を行うのかは,なくなってしまった骨の形,患者さんの口腔衛生状態,歯周ポケット深さ,プロービング時の出血,エックス線所見などから総合的に判断します。一般的に再評価検査の歯周ポケット深さがおおむね4mm以上,プロービング時の出血が認められ場合に適応となります。ただし歯周ポケット深さがこれより浅い,またはプロービング時の出血がなくとも,歯肉の形態不良改善のために手術が行われることもあります。

 1.組織付着療法

組織付着療法は,歯根面および歯周ポケットの内側に蓄積した細菌や細菌由来の汚染物質を取り除き,歯肉が根面に付着するのを促すことを目的にした手術法です。組織付着療法では,骨の形態を変えたり,削ったりすることは行わず,歯肉弁の根尖側移動も行いません。

歯周ポケット掻爬術

キュレット型スケーラーを用いて細菌,歯石,病的セメント質の除去などの歯根表面をきれいにする処置と,歯周ポケット内壁の炎症病巣の除去を同時に行います。歯根面と歯肉の付着を促し,歯周ポケットを減少させる方法です。
この手術法は,後述するフラップ手術に比べて手術時間が短く外科的侵襲が少ないのが特徴です。しかし,直接目で見ながら歯根表面に対する器具操作が行えないため,炎症病巣の除去も不十分になりやすいことが挙げられます。

新付着術(ENAP)

ENAPは,メスを用いた歯周ポケット掻爬術の一種。歯肉辺縁から歯周ポケット底に切開を加えて歯周ポケット内側の炎症病巣を除去し,歯根表面をスケーリング・ルートプレーニングした後,歯根面に歯肉を押し当てて縫合します。

フラップキュレッタージ(アクセスフラップ手術)

フラップキュレッタージは,ウィドマン改良フラップ手術とほぼ同じ目的と手技により行われる。歯根表面を直接処置することが出来るように切開を加えて歯肉をめくり,骨の一番高い部分がわずかに露出する程度に歯肉を開きます。この方法では,歯根表面を直接目で見ながら清掃することができ,手術侵襲が少なく,手術後に起こる歯肉退縮も最小限で済みます。

ウィドマン改良フラップ手術

直接目で見ながらの歯根表面の汚染物質の除去を目的としています。歯肉辺縁から1~2mm外側から切開,歯肉を開く場所は骨頂より2~3mm剥離するが,骨切除や骨整形は行いません。
治療期間中に,歯肉の付着と歯肉退縮により歯周ポケット深さが減少しますが,歯肉と歯根面の付着様式は長い上皮性付着によることが多い。

 2.切除療法

切除療法を行うと,手術後に歯肉退縮が生じます。そのため口腔清掃や知覚過敏に対する対応が治療後に重要となります。

1)歯肉切除術

歯肉(仮性)ポケット,もしくは浅い骨縁上の歯周(真性)ポケットの減少や除去を目的として,歯肉切除を行う方法です。治療後の予測が立てやすく,手術が簡単で,しかも歯肉ポケット,歯周ポケットの除去が確実に行えます。

2)歯肉弁根尖側移動術

歯肉を歯肉と歯槽粘膜の境を超えてめくり,めくった歯茎を根尖側に移動して縫合します。歯周ポケットの除去と同時に,付着歯肉幅の増加が出来ます。歯肉弁根尖側移動術では歯周ポケットは減少しますが,歯根露出面積が増えてしまうため,より丁寧な口腔衛生管理が必要となります。
 

 3.歯周組織再生療法

様々な理由で失ってしまった歯周組織に対して,その部位に再生材料を用いることにより歯周組織を再生させることが目的の外科処置です。再生材料を応用する前に,必ず歯根表面の汚れや炎症病巣の除去を行うことが肝心です。
 

1)骨移植術

骨移植術は,歯周病によりなくなってしまった骨が再生することによる歯周組織の安定,歯の支持増強による機能性,審美性の確保を目的として行います。同種他家骨移植(ヒトの骨)や異種骨移植(動物の骨)もあります。安全性の点では自家骨移植と人工骨移植(ハイドロキシアパタイト,リン酸三カルシウムなど)が用いられます。
適応症は,あらゆる形態の骨欠損や,根分岐部の骨欠損に応用されるが,骨移植材を保持する骨壁数が多いほど良好な骨再生が期待できます。

2)歯周組織再生誘導法(GTR法)

吸収性あるいは非吸収性の遮蔽膜を用いて,歯周組織の治癒過程における歯肉上皮や歯肉結合組織の歯根表面への伸展,接触を防ぎ,歯根表面に結合組織性新付着による歯周組織の再生を図る手術法です。

3)エナメルマトリックスタンパク質(EMD)を応用した手術法

歯根表面の歯周組織が減ってしまった部位に対し,幼若ブタの歯胚より抽出・精製したEMDを応用することで,歯周組織の再生をはかる手術法です。

4)その他の生物学的生理活性物質を応用した手術法

血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor : PDGF)に骨移植材であるリン酸三カルシウムを併用した再生材料は,米国では商品化され,歯周組織再生療法として利用されています。塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor)を応用した手術法がリグロス®という商品名で2017年から日本でも使用できるようになりました。また,自己の血液から血小板に富む成分を分離し,PDGFをはじめとした生理活性物質を作用させることで歯周組織再生を担う多血小板血漿療法(platelet rich plasma therapy : PRP療法)も臨床応用されています。
 

 4.歯周形成手術

歯周形成手術は付着歯肉の不足や喪失,浅い口腔前庭,辺縁歯肉への障害となる小帯や筋の付着などの解剖学的問題を改善することによって,歯周病の治療と再発防止,プラークコントロールの行いやすい口腔内環境の確保,および審美性の改善を行うための手術の総称です。

1)小帯切除術

小帯に異常が認められる場合には,歯肉が引っ張られるために歯周ポケットの形成や深化を起こしやすくなります。また,歯の正中離開や歯間離開の原因となるため,ブラッシング時の障害となります。この異常に発達した頬や舌を繋いでいる小帯を切除するとともに付着歯肉の幅を増加させ,周囲歯周組織の安定を図ることが目的です。小帯歯肉の移行部に切開を加え,小帯付着部を骨から剥離し,剥離した小帯を切除します。

2)遊離歯肉移植術

遊離歯肉移植術は,供給側(主に口蓋部)から採取した上皮と結合組織を含んだ移植片を,受容側へ移植するものです。露出してしまった歯根表面の被覆,付着歯肉の獲得,口腔前庭の拡張や付着歯肉の増大を目的として行います。付着歯肉幅が狭く口腔前庭が浅く,かつ歯磨き等の清掃が困難な部位に行います。
 

3)結合組織移植術

結合組織移植術は,口蓋部上皮下から採取した結合組織を移植するものです。露出した歯根表面の被覆,審美性が求められる部位での口腔前庭を大きくすること,顎堤増大やGTR膜やGBR膜除去時の新生組織保護を目的として行われます。広い範囲の歯肉退縮や多数歯にわたる歯根露出部位へ行うことも可能です。
 

4)その他の歯周形成手術

上記した歯周形成手術の他にも,歯肉弁側方移動術,歯肉弁歯冠側移動術,歯肉弁根尖側移動術,両側乳頭弁移植術,口腔前庭拡張術などの歯周形成手術があり,適応によって用いられます。
 

 まとめ

 
歯周外科治療は歯周基本治療を行なっても状態の改善が認めらなかった中等度・重度歯周炎の部位に対して,状態の改善及び症状の悪化を防ぐ目的で行われます。また歯肉の形態改善を目的として行われる治療法にもなりますが,対象となる歯周組織の状態を正確に把握することが重要なポイントとなります。再生療法においても,必ずしも成功する保証がある治療法ではないため,術前の診査が非常に重要となります。
歯周病と疑われる場合,または歯周病が悪化してしまい治療が必要となった際には,日本歯周病学会認定医・専門医が在籍する医療機関を受診し,検査,治療を受けられることをお勧め致します。

この記事の監修歯科医師