目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 歯科TOP
  3. 日本歯周病学会専門医・認定医のブログ(歯科)
  4. 歯周病治療「エムドゲイン療法」ってなに?

歯周病治療「エムドゲイン療法」ってなに?

 更新日:2023/03/27

こんにちは。埼玉県草加市谷塚にある,日本歯周病学会専門医が在籍する歯科医院“谷塚藤波歯科医院”院長の藤波 弘州と申します。
歯周病治療を調べてみると,「再生療法」「エムドゲイン療法」という単語が出てくることがあると思います。歯周病治療は腫れてしまった歯肉に対して,歯石除去,プラーク除去を中心とした炎症の除去を行い,歯肉の腫れや歯を支える顎の骨が溶けていくことを防ぐ治療になります。その中で「再生療法」とはどういう内容になるのでしょうか?
今回は再生療法,そしてエムドゲイン療法と呼ばれる治療法について説明していきたいと思います。

 歯周病とは?

お口の中にはおよそ300〜500種類の細菌が存在しています。歯ブラシを含めた口腔清掃をしっかり行わないと,細菌が歯の表面に付着してきます。歯の表面に付着した細菌の塊はプラークと呼ばれるものになります。歯の表面に粘着性が強く付着してしまうことにより,うがい等では全く落ちなくなってしまいます。プラークは虫歯や歯周病を引き起こす原因となり,1mgの中に10億個の細菌が住み着いていると言われています。
口の中の歯ブラシを含めた掃除が不十分ですと, この歯の表面に付着している細菌が増殖をしてしまい,細菌が産生する酵素や代謝産物の影響で,歯肉に炎症が起きてしまいます。この炎症が長く続いていくと,歯と歯肉の間の溝(歯肉溝)が深くなっていきます。この深くなってしまった溝は歯周ポケットと呼ばれます。歯茎の検査を行った際に4mm以上のものがそれにあたります。この歯周ポケットが形成されてしまうと,歯周ポケットの中に細菌がより増殖してしまい,歯肉縁下プラークを形成していきます。その結果,歯を支えてくれている顎の骨が溶けていってしまいます。

 歯周外科治療とは?

今回のテーマであるエムドゲイン療法は歯茎に対する外科治療(歯周外科治療)の一つの方法になります。歯周外科手術は一般的に,通常の歯周病治療を行った後の再評価の際に歯周ポケットの深さが4mm以上であり,歯周検査を一つであるプロービング(歯周ポケットの深さを測る方法)後に出血が見られる部位に対して適応となります。そしてその目的により,組織付着療法,切除療法,歯周組織再生療法,歯周形成手術の4種類から術式を選択していきます。

 歯周組織再生療法,エムドゲイン療法とは?

日本で現在行われている歯周組織再生療法には,①骨移植術 ②GTR法 ③エムドゲイン療法(エナメルマトリックスデリバティブ;EMD)④リグロスを用いた再生療法になります。その他海外では様々の材料が用いられていますが,日本国内で使用が認められているものは上記のものに限られてしまいます。
歯周組織再生療法とは,歯周炎が進行してしまった歯周組織の欠損に対して,この失われた歯周組織を以前と同様の組織を再構成し機能させることが目的です。歯を支える顎の骨(歯槽骨),歯の根(歯根)表面に存在しているセメント質,骨と歯根を繋げる歯根膜といった失われた組織を再生させるために行われます。

エムドゲイン療法とは,エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)を使用する歯周組織再生療法の手術法になります。
エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)とは,歯が出来上がる際に非常に重要な役割を果たすタンパク質の中に,エナメルマトリックスタンパク質と呼ばれるタンパク質があります。このタンパク質は歯のエナメル質を形成する際に必要なだけでなく,歯根表面のセメント質が作られる際にも関わっています。このタンパク質を幼若ブタの歯胚から精製・抽出したものがEMDになります。

この材料は粘性があるゲル状になります。手術中にしっかりと歯石や汚染したセメント質を除去した歯根表面に塗布をすることによりセメント質を誘導し,歯周組織の再生をはかります。
特徴として,このEMDを用いた歯周組織再生療法で効果が得られるとされている適応症は,2壁や3壁の垂直性骨欠損とされています。EMDは,術後1年間の歯周ポケットの深さやアタッチメントゲイン(歯に付着する上皮や結合組織の獲得)において,GTR法(組織再生誘導法)の非吸収性膜を使用した際と同等の結果が得られると考えられています。
またこの再生治療が有効な場合として
1 炎症が完全に治まった後の歯周ポケットに対して使用する場合
2 手術中ですが,歯根表面に血液が付着していない乾燥した歯根面に塗布をする
3 できるだけ侵襲を抑えた手術の手技で行う場合
4 患者さんの口腔内の清掃状態,タバコの制限や糖尿病を含めた全身疾患の管理が
良好な場合とされています。

EMDは歯周形成手術の中の根面被覆と呼ばれる,歯茎が下がってしまって歯の根が口の中に出てきてしまった部位に対して行う手術の際にも使用されることがあります。

 まとめ

エムドゲイン療法とは歯周組織再生療法の一つであり,その目的は失われた歯周組織を再獲得することになります。しかしながら歯周病によって失われた骨や歯周組織は100%回復できる訳ではありません。そしてエムドゲインを使用する前に歯茎の炎症の除去をしっかりと行うこと,口腔衛生状態を良好にしなければいけないこと,患者さん自身の全身疾患の状態を良好に管理しておくこと,など手術を成功させるために患者さんご自身が手術前に行っておかなければいけないことも多くあります。また歯科医師にもしっかりとした診査・診断,手術を行う部位が再生療法に適した部位かどうかを判断できる知識,そして丁寧かつ歯周組織の侵襲が最低限で行えるような高い技術が要求される術式となります。
歯周病は著しい自覚症状があまり無くゆっくりと進行していく疾患です。今回説明させて頂いた歯周組織再生療法にご興味を持たれる方,歯周病が気になる方は,まず歯周病専門医・認定医が在籍する歯科医院を受診され,お口の中の管理法や歯周病に関する相談をされることをお勧め致します。

この記事の監修歯科医師