【血液内科医に聞く】『鉄欠乏性貧血』原因は食事内容が関係! 治療方法や最新薬について
貧血に悩む方はとても多いようですが、貧血にも種類があることをご存知ですか? 種類を正しく理解することで、自分に合った治療方法や生活習慣改善に取り組むことができます。そこで今回は貧血の中でも特に多い「鉄欠乏性貧血」について、原因や治療法などを渡邉 健先生(ハレノテラスすこやか内科クリニック 院長)にMedical DOC編集部が伺いました。
監修医師:
渡邉 健(ハレノテラスすこやか内科クリニック)
目次 -INDEX-
血液中の鉄不足による鉄欠乏性貧血とはどんな状態? 原因について
編集部
「貧血」について教えてください。
渡邉先生
貧血とは「組織が必要とする酸素供給が満たされないレベルで赤血球が減少してしまう状態」のことを指します。体のすみずみまで酸素を運ぶヘモグロビンが減少することで「疲れやすい」「動いた時に息切れがする」などの症状が出ます。
編集部
どうして貧血になるのですか?
渡邉先生
貧血のメカニズムは大きく分けると4つあり、「鉄やビタミンB12、葉酸、銅などヘモグロビンの材料の不足」「炎症や腫瘍などでヘモグロビンの材料をうまく使えない」「骨髄に問題があり血液をうまく作れない」「肝硬変などで作った血液が壊されてしまう」が挙げられます。このうち最も多いのが、鉄分の不足によっておこる「鉄欠乏性貧血」です。
編集部
鉄欠乏性貧血の原因はなんですか?
渡邉先生
そもそも食事からの鉄の摂取量が足りていなかったり、摂取しても胃がうまく吸収できなかったりすると起こります。一般的な鉄の推奨量は成人男性で1日7.5mg、成人女性で6.0~6.5mg、月経のある女性は1日10.5~11mgです。一方で、国民健康栄養調査によると日本人の鉄摂取量は減少傾向で、年代によっては1日8mgを下回る傾向にあります。さらに月経過多や、妊娠、授乳、成長期などで鉄の需要が増大すると鉄欠乏性貧血になりやすくなります。
鉄欠乏性貧血の治療薬で用いられる内服薬と注射鉄剤について血液内科の専門医が比較解説
編集部
鉄欠乏性貧血の治療はどのように行うのですか?
渡邉先生
治療の前に原因の評価が必要です。例えば、月経過多が原因と思われる場合でも消化管や子宮などに重大な病気が隠れていないか評価したうえで鉄分の補充をしていきます。鉄分の補充方法としては、食べ物やサプリメントもありますが、貧血の回復のためには薬剤を用いるのが効果的です。
編集部
薬剤にはどんなものがあるのですか? 第一選択はなんでしょうか?
渡邉先生
鉄欠乏性貧血の治療薬には、内服薬と注射剤があります。内服薬が第一選択で、なんらかの理由で内服薬が利用できない場合や、鉄の喪失が激しい場合に注射剤が適用されます。
編集部
内服薬にはどんなものがありますか?
渡邉先生
内服薬では以前から用いられていたものとしてフェロミア®︎、フェロ・グラデュメット®︎、フェルム®︎などがあります。さらに最近、慢性腎臓病の高リン血症の治療薬である「リオナ®」が、血液中の鉄を上昇させる効果があると認められ、鉄欠乏性貧血にも適応が拡大されました。ほかには、小児に用いることが多い「インクレミンシロップ🄬」というシロップもあります。
編集部
では、注射剤についても教えてください。
渡邉先生
重症の貧血の場合や副作用が強く鉄剤を飲めない場合、胃や腸の病気のため吸収が悪いときなどに注射剤が選択されます。注射薬としてはこれまでは「フェジン®」が使われていましたが、1回の投与量が120mgまでのため通常10回以上通院する必要がありました。最近発売された「フェインジェクト®」や「モノヴァー®」は鉄分を大量に補うことができる製剤でそれぞれ500mg、1000mgの鉄を1回で補うことができ患者さんの通院の負担が減少しました。
血液中に不足した鉄を補う鉄欠乏性貧血の治療薬(内服薬と注射鉄剤)の注意点とは?
編集部
薬の副作用についても教えてください。
渡邉先生
内服薬の場合は、10~20%くらいの患者さんに吐き気や便秘、腹痛、下痢などの消化器症状が生じます。最大で70%に副作用が生じるという報告もあるほどです。一方、新薬の「リオナ®」は下痢の発現頻度は変わらないものの悪心、嘔吐が約3分の1に減少しており患者さんの負担が大幅に減っています。もし副作用がみられた場合は、内服時間や回数の変更(2日に1回の内服)、インクレミンシロップ🄬などで少量投与する、などの対応が考えられます。
編集部
注射剤はどうですか?
渡邉先生
静脈注射では内服薬では起きない「鉄過剰症」を起こし肝臓、腎臓、心臓、すい臓などの機能が落ちることがあるため注意が必要です。慢性腎臓病の患者さんでは「フェインジェクト®」といった大量鉄製剤は合併症や感染症のリスクを増加させる、という報告もあります。また、「フェジン®」「フェインジェクト®」には低リン血症、「モノヴァー®」には注射後反応(発熱やじんま疹)という独特な副作用もあるため患者さんにあった治療を選択することが重要です。
編集部
ほかに、治療の際、注意することなどはありますか?
渡邉先生
鉄分の補充は、貧血が回復した後も続ける必要があります。鉄欠乏性貧血の治療は、血液内の鉄を回復させるだけでは不十分で、血清鉄、さらに貯蔵鉄(フェリチン)が回復するまで行うのが大事です。鉄欠乏性貧血は鉄の借金をしている状態ですので、貧血から回復し、貯金ができるまで治療を続けないと簡単に借金生活に戻ってしまいます。体調が良くなっても粘り強く治療を続けましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
渡邉先生
鉄欠乏性貧血で一番大事なことは原因の評価です。何も原因のないところから鉄欠乏にはなりません。がんなど重大な疾患が隠れていないかしっかりと評価することが重要です。なお、何か月にもわたって鉄を処方されている貧血の患者さんについては本当にその診断が正しいのか、血液内科に相談することをおすすめします。
編集部まとめ
貧血、特に鉄欠乏性貧血の病態や治療について、解説していただきました。以前は吐き気や便秘などの副作用が非常に多かった鉄剤の内服薬ですが、最近は副作用の少ない新薬が保険適用となり、より多くの患者さんで内服治療が可能となったそうです。貧血症状が気になっている方や、過去に副作用で鉄剤の服用を諦めていた方などは、一度医療機関に相談してみてはいかがでしょうか?
医院情報
所在地 | 〒337-0006 埼玉県さいたま市見沼区島町393番地 ハレノテラスC棟2F |
アクセス | JR「東大宮駅」 徒歩15分 |
診療科目 | 内科、血液内科 |