1歳を過ぎてもなかなか歩かない赤ちゃん、これって病気? 受診したほうがいい?
赤ちゃんの成長は見ていてとても楽しみなもの。ですが、なかなかその成長が目で見てわからない場合は、つい心配してしまいます。特に、周りの子と比べて歩き出しが遅い場合、気になってしまう方も多いと思います。「もしかして病気なのか」と不安に思うこともあるでしょう。そこで今回は、どこまで様子をみていても良いものなのか、病院を受診したほうが良いかなどの疑問を、小児整形外科医の中川先生に解説していただきました。
監修医師:
中川 将吾(つくば公園前ファミリークリニック)
赤ちゃんはいつ歩くのが正常?
編集部
赤ちゃんはだいたい、いつごろ歩き出すものですか?
中川先生
赤ちゃんの歩行開始(始歩)はだいたい1歳前後と考えられています。発達を評価する指標として幅広く使用されているデンバー式発達スクリーニング検査の中では、11ヵ月から15ヵ月の間が標準とされており、1歳3ヵ月までにおよそ90%の赤ちゃんが歩き始めるとされています。ですが、中には8〜9ヵ月ころから歩き始める子もいれば、1歳半を過ぎてからやっと歩き始める子もいます。それらの赤ちゃんに何か異常があるわけではないことも多く、赤ちゃんによって半年以上も歩行開始の時期にズレがでてしまうということは忘れてはいけません。
編集部
歩くのが早い子は運動が得意になるのですか?
中川先生
運動発達のスピードと、最終的な運動機能との間には相関関係はないと考えられています。乳児期の運動発達は、育児環境や養育者の関わり方などの環境要因による影響を受けやすいとされています。しかし、その後は本人の生まれ持った気質や体格などの遺伝的影響により、興味を持ったり、得意になる活動はバラバラになったりしてしまうと考えられています。一時的な運動の得意不得意は影響があるかもしれませんが、長期的には関係ないと考えられます。
編集部
運動発達が遅い気がするのですが、何かしてあげられることはありますか?
中川先生
乳幼児期に獲得する運動は、様々な身体活動や感覚入力の結果として備わった自分の身体のイメージを必要とします。つまり、自分の体がどんな形をしていて、どの様に動いているのか、どれくらい力を入れれば思った通りに動けるのかがわかっていなければ正しい運動ができないのです。ずっと寝かされたままで体が動かせない状況が続いていたり、ある一定の姿勢のままの抱っこを続けていたりすると、その身体活動や感覚入力が少なくなってしまう可能性があります。まずはよく触って、たくさん抱っこしてあげたり、外に散歩に出たり、高い高いをしたり、たくさん遊ぶ機会を増やしてあげると良いでしょう。
赤ちゃんが歩くための条件
編集部
早く歩き始める子と遅くなってしまう子がいるのはなぜでしょうか?
中川先生
一言に歩くと言っても、それは脚の前後運動だけではなく、体幹と言われる体の中心部をしっかりと固めておく必要があったり、脚にも3つの大きな関節(股、膝、足)があるので、それを同時に動かす必要があったりと、様々な動作を同時におこなう必要があります。それらの能力が一つでも欠けてしまうと上手く歩くことが困難になります。また、歩き出すことも、自然とおこなっているわけではなく、目的を持って行動した結果と考えられます。あくまでも赤ちゃんの自発的な行動によるものなので、そこには月齢だけではない個人差が現れてきます。
編集部
歩く練習や親のサポートは必要なのでしょうか?
中川先生
歩き出す準備ができれば自然と歩き出すので練習は必要ありません。準備ができていない状態で歩かせてしまったり、転ばない様に常に支えて歩く練習をしたりした場合、力の使い方を間違って覚えてしまうリスクもあります。転んだり地面から立ち上がったりすることも、ちゃんとした練習です。繰り返しおこなうことで正しい力の入れ方や倒れない立ち方を学んでいることを考えると、立たせた状態から歩くことや、歩行器を使用した練習などは必要ないのではと考えています。
編集部
いつまでに歩けないと心配すれば良いですか?
中川先生
自治体によって違いがあるかもしれませんが、1歳半で乳幼児健診がおこなわれることが多いと思います。そこでの検査項目の一つに独歩可能かどうか見るというものがあります。自分の場合、ここで明らかに立てない状況であれば、一度医療機関の受診をすすめています。もう少しで歩けるけどいまはうまく立てない程度であれば、しばらく様子を見てもらいます。おおよそ1歳半〜2歳の間に医療機関を受診して、歩けない原因について調べてもらうのが良いのではないでしょうか。
歩くのが遅い場合に考えられる疾患
編集部
何かの病気で歩けないこともあるのですか?
中川先生
歩けない原因がどこにあるのかで変わってきます。大きく分けて3つの原因があり、それぞれについて調べていくことになります。まずは骨格や筋など、身体の作りによるものです。骨や関節に異常があったり、筋の作りに異常があったりした場合、身体を支えることが上手くできないため歩行ができません。脚の向きや、股関節の開きに異常を認める場合は小児整形外科で歩けない原因を調べることもあります。
編集部
身体のつくりに異常がなければ、ほかにどこを調べるのですか?
中川先生
もともとの発達がゆっくりであり、離乳食の進みが遅いなど、運動発達以外の問題も抱えている場合、脳の検査をおこなうことがあります。これが2つ目の原因です。産まれた時は異常のない様に見えたとしても、その後の成長する過程の中で明らかになってくる疾患もあります。小児科、特に小児神経内科などを受診して相談すると良いでしょう。
編集部
検査を受けても異常が見つかりませんでした。発達障害なのでしょうか?
中川先生
この時点で発達障害と診断するのは時期尚早です。3つ目の原因は環境要因です。検査で異常が見られないときは、多くの場合で歩く環境が整っていないだけのこともあります。それは筋力の問題であったり、身体を動かす経験であったりと様々です。いずれにしても、時期が来れば自然と歩き始めることも多いのです。焦らず一つひとつできることを続け、心配なときはお近くの医療機関や健診で相談しましょう。
編集部まとめ
歩けない原因がわからないままだと不安になってしまい、どうにかして歩かそうと無理をしてしまうこともあります。特に初めての子育ては不安だらけで、どうして良いかわかりません。歩ける様になる時期は個人差も大きく、何かやらなければと思っていると逆に赤ちゃんの活動を制限してしまっているかもしれません。お出かけして環境を変えてみたり、新しい刺激を受けてみたりすると良いですね。
医院情報
所在地 | 〒300-2654 茨城県つくば市水堀485-1 |
アクセス | つくばエクスプレス 「万博記念公園駅」下車 車5分 |
診療科目 | 小児整形外科、リハビリテーション科 |