子どもの低身長にどう向き合うべきなのか、「必ずしも低身長の治療がゴールではなく、成長全体に目を向けるのが大事」
子どもにとって背の低さはコンプレックスを生み、運動機能の点でもハンデとなりかねません。しかし、低身長には直ちに治療が必要な病気によるものから経過観察のみで改善するものまで、幅があるとのことです。そこで、後者の場合の注意点を含めた「低身長との向き合い方」を「オハナこどもクリニック赤羽」の宮川先生に伺いました。
監修医師:
宮川 雄一(オハナこどもクリニック赤羽 院長)
日本医科大学医学部卒業。東京医科歯科大学小児科入局。総合病院や大学病院勤務後、川口市立医療センター小児科の医長を務める。2021年、東京都北区に「オハナこどもクリニック赤羽」を開院。子どもたちの「良きかかりつけ医」を目指している。日本小児科学会専門医、日本内分泌学会専門医。日本小児内分泌学会、日本糖尿病学会、日本小児アレルギー学会、日本小児救急医学会の各会員。
子どもの低成長にどうすれば気づける?
編集部
子どもの背の伸び方って、かなり個人差がある印象です。
宮川先生
そうですね。そのなかに、治療を必要とする病気が隠れていないのかを見極める必要があります。「低身長」の程度は、お子さんと同じ性別・年齢の標準身長との乖離(かいり)の度合いによって判断できますが、身長の推移を「成長曲線」という表につけると、治療を必要とする病気が隠れている可能性を判断する、より有力な手がかりになります。例えば、「脳腫瘍」は急に伸びなくなることがきっかけで見つかることがありますし、「成長ホルモンの分泌不全」では徐々に伸びなくなることが多いですね。なお、成長曲線はインターネットから入手可能で、母子手帳にも「身体発育曲線」として載っています。
編集部
「低身長」の原因を診断する検査などはあるのでしょうか?
宮川先生
いくつかありますが、代表的なものは「成長ホルモン分泌刺激試験」です。低身長の程度が強いお子さんに対して、成長にとって重要な成長ホルモンを出しやすくする薬を投与し、成長ホルモンがどの程度反応するのか、時間をあけて複数回の血液検査をおこなって確認します。その結果、「成長ホルモンの分泌不全」と診断されるお子さんは、約「5人に1人」です。ただし、比較的程度の強い低身長があり、この検査が必要と判断されるお子さんの中での割合であることに注意してください。「成長ホルモン分泌不全性低身長症」と診断されれば、保険診療として成長ホルモンの注射を受けられます。なお、このようなお子さんに対する成長ホルモン注射の安全性は確認されています。ほかには、血液検査や骨の成熟度を確認する手根骨レントゲン、必要に応じて低身長の原因を探るための頭部MRIや腹部超音波をおこないます。
編集部
なるほど。その一方、低身長で悩んでいるのに、「成長ホルモンが足りていたケース」はあるのでしょうか?
宮川先生
あります。その場合、成長ホルモンの注射に保険は適用されませんし、過剰投与による副作用が効果を上回る可能性を考え、治療をおこなわないことが多いと思います。ただし、低身長の原因によっては足りているお子さんに成長ホルモンを注射することもあります。その代表的なものは「SGA性低身長症」で、成長ホルモン注射の効果や安全性は確認されています。
編集部
SGA性低身長症の診断基準についても教えてください。
宮川先生
出生時に身長と体重がある基準を下回っていたお子さんが、2歳でもほかのお子さんに追いつかず、身長がある基準を下回っていると、SGA性低身長症と診断されます。診断された全員が成長ホルモン注射の対象となるわけではないのですが、出生時と2歳時の記録で診断が可能という点は重要です。気づかれにくい、「少し小柄な満期産のお子さん」もいらっしゃいますので、気になる場合はご相談ください。
どの程度の低身長なら受診が必要?
編集部
受診の目安はありますか?
宮川先生
「うちの子の身長は周囲と比べて低いかな」と思ったら、いつでもご相談ください。成長曲線には「この範囲なら標準的」という区切りがありますが、その範囲から外れていなくても構いません。身長の伸び方によっては、その範囲内でも治療を必要とする病気が疑われることもあります。受診時に、母子手帳やお子さんが受けた計測の結果に加え、ご自宅で成長曲線に記録をつけていらっしゃれば、そちらもご持参ください。
編集部
自分で身長測定しなくても、幼稚園や学校で測ってくれますよね?
宮川先生
そうですね。ただし、どこで計測をしたとしても、多少の誤差は出てしまうと思います。計測の結果を評価する際には、短期間での「伸び具合の増減」よりも、全体的な傾向を大切にしています。とはいえ、可能な限り同じ条件で計測をすることと、成長曲線に記録をつける際は横軸の計測年齢は「日単位」、縦軸の身長は「ミリ単位」でつけることに注意をしてください。そして、記録した身長の変化を追うことも重要です。
編集部
あるときから「伸びが鈍る」、あるいは「急に伸びだす」こともあるので、時系列のウォッチが重要だということですか?
宮川先生
そういうことですね。仮に「標準的な身長の範囲」から外れていても、その差が縮まっていくような伸び方をしていれば、経過観察を続けられるかもしれません。逆に、一定期間ほとんど伸びていない場合は注意が必要です。ご自宅で成長曲線に記録をつけていらっしゃれば、ご持参していただけると、重要な判断材料になります。
編集部
グラフをつけていない場合、どのくらいの期間プロットしてから受診すればいいでしょうか?
宮川先生
必ずしもご自宅で成長曲線に記録をつけていただく必要はありません。母子手帳と、過去の身体測定などの記録がありましたらご持参ください。万が一保管をしていなくても、遠慮せず受診していただいて構いません。とにかく、「心配だったら受診する」の一言に尽きます。低身長の中に、早期の治療を必要とする病気が隠れていることも考えられますからね。
低身長への受け止め
編集部
「成長ホルモンの分泌不全」でも「SGA性低身長症」でもない場合はいかがでしょうか?
宮川先生
「思春期が始まった時の身長」が、最終的な身長に関係します。そして、思春期が遅めに始まる「おくて」のお子さんは、思春期前の早い段階から同年齢のお子さんよりも小柄な傾向があります。このようなお子さんは、思春期が終わる頃には周りに追いつくことがしばしばあり、ご両親やご兄弟に同じような伸び方をした人がいらっしゃることが多いですね。「成長ホルモンの分泌不全」でも「SGA性低身長症」でもない低身長のお子さんの全てが「おくて」というわけではありませんが、「治療をしないと低身長の程度が最後まで変わらない」とは言い切れない点は重要です。一方、お子さんの身長がご両親の身長の影響を受けることもたしかです。逆に、ご両親の身長の程度から大きく離れた低身長を認めるお子さんでは、その原因は何かをとくに注意をして診ています。
編集部
治療で解決するのではなく、時間で解決する症例もあるということですか?
宮川先生
はい。低身長で受診されたお子さんのなかで、成長ホルモン注射などの治療の対象となる人は少ないですね。経過観察と判断したお子さんに対しては、判断の根拠、経過観察の間隔と期間、検査や治療を検討する目安、予想される身長の伸び方をお話しします。現時点で分かることをお伝えして、少しでもお子さんやご家族の不安を解消していただけるように心がけています。
編集部
その一方、身長には後天的な生活要因も関係してきますよね?
宮川先生
そうですね。食事や排泄、運動や睡眠など多岐にわたる生活要因の中でも、とくに「充分な睡眠がとれているか」という点は重要だと思います。気管支喘息の発作やアトピー性皮膚炎によるかゆみ、アレルギー性鼻炎などで良質な睡眠が妨げられたり、病気で身体に大きな負担がかかったりすることが成長に影響する可能性は否定できません。そのため、これらに対する治療をしっかりと受けていただくことが大切です。一方で、成長を促すことができるような、特別な食事、運動、睡眠のとり方があるわけではありません。規則正しい生活を送っていただければ充分だと思います。
編集部
生活要因も含めて、身長の相談は「小児科」でいいのでしょうか?
宮川先生
はい。身長の伸びが止まるまでの期間ですから、小児科で構いません。お話ししたように、成長ホルモン注射の対象となるお子さんは限られていますが、稀に脳腫瘍などの重大な病気が見つかることもあります。また、「健やかな成長」に影響し得る生活上の問題点を改善することも大切ですので、お子さんの身体全体を診ることができる小児科にご相談いただければと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
宮川先生
お子さんの低身長がご心配でしたら、いつでも小児科にご相談ください。検査・治療に限らず、子育て全般の相談窓口として、まずは最寄りの小児科の“開業医”が適していると考えています。必要に応じて総合病院に紹介するとしても、その判断を迅速、かつ適切におこなうことができると思います。
編集部まとめ
低身長の原因を判断するためには、あるタイミングだけでなく、長期にわたった「伸び方」も見る必要があるということでした。また、身長という切り口にとらわれず、「子どもの成長全般」を考えるべきです。そのうえで、小児科の医師と一緒に、どういった問題が隠れているのか一つひとつ洗いだしながら対処していきましょう。
医院情報
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アクセス | JR「赤羽駅」 徒歩3分 |
診療科目 | 小児科、新生児内科、アレルギー科 |