「子どもがインフルエンザにかかって通園・通学を控えることに!」親が仕事を休めない場合、どこかに預けられないの?
もし、子どもがインフルエンザなどの感染症にかかったとき、欠かせない仕事や予定があるとしたら。病院へ連れて行くにしてもその後のことが心配ですし、感染症の子どもを他人に預けるわけにもいかないでしょう。「つむぎこどもクリニック」の吉岡先生によると、そんなときに利用してほしい「病児保育」という制度があるそうです。今回は、いまだ認知度の低い病児保育について、詳しく解説していただきました。
監修医師:
吉岡 淑隆(つむぎこどもクリニック 院長)
杏林大学医学部卒業。後期研修医後から地域の病児保育に関わる。各医療機関で小児科医勤務を経た2021年、埼玉県越谷市に「つむぎこどもクリニック」を開院。「子育て支援が大好きな小児科医」として地域診療に努めている。日本小児科学会専門医、日本小児科医会認定地域総合小児医療認定医・「子どもの心」相談医、臨床研修指導医。「みんなでつくる病児保育室 つむぎのおうち」施設長。子育て支援チーム「つむぎて」代表、「ホームスタート・こしがや」運営委員、社会福祉法人日本フレンズ奉仕団評議員。
病児保育は病気で通園・通学できない子どもを預ける制度
編集部
子どもがインフルエンザなどで保育園に預けられないとなると、親も一緒にお休みになってしまいますよね。何か解決法はないのでしょうか?
吉岡先生
そのような場合は、「病児保育」という国の制度を利用してみてはいかがでしょうか。事前に医師の診察が必要ですが、認められれば保育と看護のスペシャリストを有した施設に預けることができます。
編集部
病児保育では、どのような感染症対策をしているのでしょうか?
吉岡先生
新型コロナウイルス登場前の施設要件になりますが、「保育士1名に対して子ども3人までの保育を原則とする」などの決まりがあります。ただし、実際の現場では保育と看護の両方を対応しなければいけないので、「保育士1名に対して子ども2人、感染症の中身によっては1対1」と、余力を残して対応しています。加えて、昨今の事情に合わせた感染症対策もおこなっているはずです。近場の医療機関と連携したり、医療機関の一部に併設されていたりする場合がほとんどですので、安心してご利用ください。
編集部
保育だけでなく、治療や看護もしてくれるのですよね?
吉岡先生
施設のタイプにもよります。医療機関を併設したタイプの場合は、医師が常駐しているので治療も可能です。一方、目の離せない急性期を越えたら、保育園に併設した病児保育で看護するという進め方もできます。保育園に併設された施設のほとんどは「病後児保育」という、予後の管理を主な目的とした施設です。
編集部
国の制度ということは、公費補助が入っているのでしょうか?
吉岡先生
はい。各自治体によって違いはあるものの、1日の自己負担額として2~3000円前後が相場のようです。なお、病児保育制度の利用には事前登録が必要です。また、利用には冒頭にご説明した「医師の判断」が欠かせません。具体的には、「情報提供書」という書類を医師に記載してもらうことで、利用することができるようになります。
病児保育の目的とは?
編集部
保育面が気になります。ただ病棟を隔離して経過観察しているだけではないのですよね?
吉岡先生
保育士が在籍していますので、その点は心配無用です。逆に、お子さんが病気のときでも保育を欠かさず、成長を妨げないのが「病児保育」の主な目的となります。外遊びはできませんが、保育士の担当する子ども達の人数は少ないので、質の高い保育の提供が可能です。
編集部
病児保育は、子どもをもつ「親のサポート」という位置づけではないのですか?
吉岡先生
そう捉えることができるかもしれませんが、もっと広く受けとっていただきたいのが本音です。たしかに、子どもが病気のときって、親は不安や心配を抱えながら過ごすことになりますよね。ですから、「国が親のサポートをしましょう」という側面はあります。しかし、それと同時に「子どもは病気であるときに一層、身体的にも精神的にも支えを必要とする」という観点もあるのです。つまり、本来の趣旨としては子どものための制度ということになるのではないでしょうか。
編集部
社会全体で子どもを支えていくようなイメージだということでしょうか?
吉岡先生
そうあるべきだと思っています。地域が1つになれば、いずれは子どもたちによって地域の高齢者を支えるという理想的な社会に近づくことができますよね。もちろん、それが少子化の予防にもつながるでしょう。国が公費を充てているのも、こうした背景があるからです。ぜひ、「国民の権利」くらいの意識で、病児保育制度を活用してみてください。
編集部
一方で、仕事人間や子育て放棄のような見方をされないか心配です。
吉岡先生
本来は逆で、子育てを欠かさないための仕組みととらえていただきたいと思います。病児保育制度の背景が広く知れ渡れば、偏見や誤解も少なくなると信じています。なお、内閣府の調査によると、病児保育の利用率は約30%程度とされています。まだまだ、知られていなかったり誤解をしていたりする点もあるのだと思います。小児科医として、こうした現状を変えていく必要があると痛感しています。
「病後児保育」という、もう1つの制度について
編集部
感染症がせっかく治りかけても、病児保育に預けられているほかの子どもから再びうつされるリスクもありますよね?
吉岡先生
そうならないように、お部屋を疾患別にわけるといった感染対策もおこないながらお預かりをしています。また、感染症罹患(りかん)中は、ほかの感染症にかかりにくい特性があるため、非常にリスクは低いと考えていいでしょう。さらに、「病児保育」とは別に「病後児保育」という制度も用意されています。病後児保育は、主に病気からの回復期にいるお子さんを預かるサービスです。例えば、熱が下がったけれどまだ元気がなかったり、インフルエンザは治ったものの通園・通学条件を満たしていなかったりする場合などに利用されます。なお、病後児保育の利用にも、医師の判断が必ず必要となります。
編集部
「病後児保育」も「病児保育」と同じ国の制度なのですか?
吉岡先生
はい。国の制度で、自己負担額もあまり変わりません。また、なかには当施設のような公費負担によらない寄付やスポンサードによって運営している民間施設もあります。ただ、いずれにしても「そういう施設の存在を知らない」人が圧倒的に多いのが現状です。
編集部
知られていないということは、利用枠に余裕があるということですか?
吉岡先生
たしかに、知られていないことで全体の稼働率は約3割と低調です。しかし、それとは別に「利用までの手続きの煩雑さ」も関係しているのだと感じています。その一方で手続きのハードルを下げるために、専用の「予約アプリ」を開発している企業・団体なども登場してきました。詳しくは「病児保育 アプリ」、「病後児保育 アプリ」などで検索してみてください。なお、民間サービスの場合、別途の利用料金がかかることもありますので、その点はご留意ください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
吉岡先生
以前、私が関わっていた自治体では、「情報提供書」を書いていただいた医師にフィードバックともいえる「返書」をお渡ししていました。「こういう処置が有効だった」、「予後経過はこうでした」といった内容を知らせていたのです。こういう仕組みも、医師のさらなる制度理解に必要だと感じています。各方面への周知が進めば、病児保育は「もっと使いやすい」制度に成熟していくはずです。そして、まずはこの記事を通じて、病児保育という制度の存在だけでも知ってもらえれば幸いです。
編集部まとめ
子どもが熱やインフルエンザなどでいつもの保育園に通えない場合でも、「病児保育」という別枠の制度は利用可能ということでした。ただし、飛び込みで利用することはできず、あらかじめ手続きをする必要があります。ぜひ、余裕があるうちに事前登録だけでも済ませておいてはいかがでしょうか。どうしても外せない仕事や予定があったとき、病児保育という制度が助けになるはずです。
医院情報
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診療科目 | 小児科 |