「急性大動脈解離」の前兆を医師が解説 初期症状なしで突然発症することも? 原因と治療法も紹介
突然死のリスクが高く、危険な疾患として知られている「急性大動脈解離」。何の前触れもなく、突然発症するという特徴があり、特に高齢者に多くみられるとされています。急性大動脈剥離から命を守るためにはどうすべきか、原因や治療法などについて、「のがたクリニック」の和久井先生に詳しく解説していただきました。
監修医師:
和久井 真司(のがたクリニック)
目次 -INDEX-
急性大動脈解離の前兆を医師が解説 吐き気や胸・背中に痛みがあれば初期症状・発症のサインかも?
編集部
急性大動脈解離について教えてください。
和久井先生
まず、大動脈は心臓から全身へ血液を送り出す、人体の中で最も太い血管です。急性大動脈解離とは、この大動脈が何らかの原因により、裂けてしまった状態のことを言います。
編集部
「血管が裂ける」とはどういうことですか?
和久井先生
大動脈は外側から外膜、中膜、内膜の3層構造になっています。簡単に言うと、壁の中にもう1本、血液の通り道ができてしまった状態です。大動脈は通常、非常に弾力に富み、しなやかです。しかし、何らかの理由でこの内膜に裂け目ができて、その外側を走っている中膜の中に血液が入り込み、大動脈の中に血液の通り道が2つできてしまうことがあります。この状態を大動脈解離と言います。
編集部
急性大動脈解離が起きると、どのような症状がみられるのですか?
和久井先生
- 胸あるいは背中に激痛が走る
- 病状の進展につれて痛みが胸から腹、さらに脚へと下向きに移っていく
- いきなり意識を消失したり、ショック状態になったりする
上記のうち、典型的な症状は突然の背部痛です。尋常ではないくらいの痛みが急に生じます。また、吐き気や嘔吐が起きる場合もあります。
編集部
突然死することもあると聞きました。
和久井先生
主要な臓器に続く血管まで裂け目が伸びると、血流が阻害され、臓器が虚血状態となって死亡することもあります。また、心臓から出て上に向かう上行大動脈に解離が起きると、1時間に1%ずつ死亡率が上昇すると言われています。
編集部
突然死のリスクも高いのですね。
和久井先生
大動脈のどこで解離が起きるかによって異なります。上行大動脈に解離が起きるものをスタンフォードA型、背中側を胸から横隔膜に向かって走行する下行大動脈に乖離が起きるものをスタンフォードB型と言います。A型の方が危険度は高く、一般にB型はA型より予後が良いとされています。
高血圧や糖尿病の人は前兆・自覚症状がなくても注意! 急性大動脈解離になりやすい人の特徴と原因
編集部
急性大動脈解離を引き起こす原因はどのようなことが多いのですか?
和久井先生
- 動脈硬化
- 高血圧
- 喫煙
- ストレス
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 睡眠時無呼吸症候群
- 遺伝
編集部
さまざまな原因があるのですね。
和久井先生
そうですね。特に、高血圧は大動脈解離と関係性が深いとされています。血圧が高いと血管への負担も大きくなり、内膜に亀裂が生じやすくなるからです。そのため、ストレス、喫煙、飲酒、肥満、塩分の摂り過ぎ、運動不足など、高血圧のリスク要因となることには注意が必要です。
編集部
ほかには、どんな人が気をつける必要がありますか?
和久井先生
加齢とともに大動脈解離の発症も増えており、大動脈解離の発症が多い年齢は男女とも70代とされています。ただし、40~50代で発症することも多く、ストレスを抱えていて慢性的に睡眠が不足している、働き盛りの中年男性にも多くみられる印象があります。若いからといって油断することはできません。
編集部
ほかにも注意点はありますか?
和久井先生
一般に、夏より冬に発症しやすいとされています。また、寒暖差が激しい時期にも多く発症すると言われています。
血管が裂けてしまう原因は食生活やストレスも関係する?急性大動脈解離の治療法や予防法
編集部
急性大動脈解離を予防するためには、どのようなことに気をつければいいでしょうか?
和久井先生
高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などが発症と深い関わりを持っているため、これらの危険因子を避けることが重要です。特に高血圧は重大なリスクとなるので、普段から血圧のコントロールを心がけましょう。
編集部
ほかに気をつけることはありますか?
和久井先生
特に気をつけてほしいのは「睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)」との関係です。睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中、頻繁に呼吸が止まったり、浅くなったりして体が低酸素状態になる疾患です。睡眠時無呼吸症候群を発症している人は普段から高血圧になりやすいため、急性大動脈解離の発症リスクが高まることがわかっています。
編集部
なぜ、睡眠時無呼吸症候群になると急性大動脈解離を発症することが多いのですか?
和久井先生
「睡眠中、無呼吸になる」のは、いわば寝ているときにずっと首が絞められているような状態です。本来、寝ているときは副交感神経が優位になって心臓や血管はリラックスしていないといけないのに、睡眠時無呼吸症候群の場合は交感神経が過剰になるため心臓や血管に大きな負担がかかり、血圧も上昇します。それが毎晩繰り返されて、ストレスが蓄積されているのです。また、睡眠が浅いことで日中のストレスも大きくなり、その結果、急性大動脈解離を発症しやすくなります。
編集部
ストレスが大敵なのですね。
和久井先生
そのとおりです。ストレスの多い生活は血圧の変動を招きやすく、急性大動脈解離のリスクとなります。適度にストレス発散を心がけるとともに、十分な休養、適度な運動習慣、良質な睡眠を取るようにしてほしいですね。
編集部
急性大動脈解離と診断された場合にはどのような治療をおこなうのですか?
和久井先生
解離している部位や病状によって大きく変わります。裂け目が心臓に近い上行大動脈に及んでいる場合(スタンフォードA型)には、ただちに緊急手術をしないと24時間以内に93%の人が亡くなります。裂け始めがある部分の血管を人工血管に置換するなどの手術が適応になります。A型以外では緊急入院とはなりますが、手術をしないで血圧コントロールやリハビリが中心の治療となることが多い傾向にあります。
編集部
前兆がないと、予防するのも困難ですね。
和久井先生
大動脈解離に似た疾患として、「大動脈瘤」があります。大動脈の血管壁の一部がコブ状に膨れ上がった状態のことで、大動脈瘤があるということは血管の壁が薄くなっているということです。大動脈が破けてしまえば大動脈破裂、裂けた場合は、急性大動脈解離を発症します。大動脈瘤の中には、破裂や解離となる前に、症状が出る場合もあります。
編集部
大動脈瘤の症状はどんなものがあるのですか?
和久井先生
一般的に大動脈瘤の症状はないと言っていいですが、例外として、頭や上肢に向かう血管が分岐する大動脈弓部から下行大動脈に移行する遠位弓部大動脈付近で大動脈瘤が生じた場合には、嗄声(させい:声がしわがれる)、嚥下しづらくなるなど反回神経麻痺の症状がみられる場合があります。このような症状がみられたら、大動脈瘤があるかもしれません。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
和久井先生
レントゲン検査、CT検査、超音波検査などでたまたま発見するケースを除いて、大動脈瘤を早期に発見することは非常に困難です。大動脈解離は、「ストレスが強い」「血圧が高い」「運動不足」「睡眠不足」などの要因で発症するリスクが高いため、定期的に血管の状態をチェックする必要があります。また、一部には遺伝的に急性大動脈瘤を起こしやすい体質もあります。親が急性大動脈解離を起こしたことがあるという人は、若いうちから定期的に専門医を受診し、超音波やCT検査などを受けましょう。
編集部まとめ
非常に激しい痛みに突然襲われる急性大動脈解離。ストレスや高血圧、運動不足などが原因で発症するということは、裏返せば誰でも発症する可能性があるということです。早期に発見することは困難な疾患ですが、「普段からストレス解消に努める」「血圧をこまめに測定する」などによって予防することは可能です。ぜひ、これを機に生活習慣を見直してみましょう。
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診療科目 | 循環器内科 |