放置していると危険!? 胸が痛いときに考えられる病気について教えて!
痛みの度合いや頻度は違っても、多くの人が日常の中で「胸が痛い」と感じたことがあると思います。ひどい痛みだと、”心臓や肺が悪いのでは”と不安に思う人も多いはず。しかし、田無循環器クリニックの末定先生によると、原因は心臓や肺だけではなくさまざまとのこと。考えられる病気や対処法について、聞いてみました。
監修医師:
末定 弘行(田無循環器クリニック 院長)
東京医科大学医学科卒業後、同大学の外科学第二講座(心臓血管外科)に入局。その後、田無第一病院(現・西東京中央総合病院)循環器科部長、副院長を経て、2016年に田無循環器クリニックを開院。長年、外科だけでなく循環器内科診療に携わってきた経験を活かし、地域のかかりつけ医として尽力している。日本循環器学会専門医、日本外科学会専門医、日本胸部外科学会認定医などの資格を持つ。病院勤務中は東京都CCUネットワークの加盟施設の責任者として循環器救急医療に従事。2006年から14年に亘り西東京市医師会が主催するAEDとBLS講習会のディレクターを務めている。
胸の痛みは命に関わることもあるので注意
編集部
胸が痛いときに考えられる病気を教えてください。
末定先生
一口に胸の痛みと言っても、肺の病気であったり心臓の病気であったり、様々な原因が考えられます。また、痛み方によっても病気は変わってきます。もちろん神経痛や筋肉痛もありますが、胸の痛みにはすぐ命に関わるものがありますから注意しましょう。最も怖いものが、急性心筋梗塞や大動脈解離で、胸の痛みから突然命を落とす可能性があります。
編集部
どのような病気なのか教えてください。まずは急性心筋梗塞から。
末定先生
心臓は心筋という筋肉でできており、急性心筋梗塞は心筋を養う冠動脈という血管の中に血栓ができて詰まってしまい、心筋の一部が壊死に陥ってしまう病気です。壊死に陥る範囲が広いと心不全をきたし、範囲が狭くても心室細動という不整脈が発生すれば死に至ります。
編集部
痛みはどのようなものですか?
末定先生
胸の真ん中や胃のあたり、背中など痛む場所はさまざまですが、冷汗を伴うような強く苦しい痛みがあります。発症した方の30%は病院に着く前の短時間で亡くなります。男性は50代、女性は60代から発症が多くなる傾向にありますね。
編集部
大動脈解離についても教えてください。
末定先生
大動脈という心臓から血液を送り出す血管に動脈硬化が起こり、内膜が破れることで血流が血管の壁に入り込み、壁を剥がしながら進んでいく病気です。そのまま外膜という大動脈が破れないように包んでいる外側の膜が破られると大出血を起こします。
編集部
大動脈解離が起きるとどうなるのでしょう?
末定先生
内臓を養っている血管が圧迫されることで腎臓や腸の壊死、下肢の動脈が圧迫されることで下肢全体の壊死が起こります。また、心臓にまで解離が進むと心不全になったり、出血が心臓を包んでいる膜の中に貯まって心臓を圧迫する心タンポナーデになったりします。大動脈解離は50%以上の人が死に至ると言われている恐ろしい病気です。
編集部
痛みはどうでしょう?
末定先生
痛みは激烈で、胸の真ん中から始まり、喉・背中と大動脈に沿って広がります。意識消失をしばしば伴い、痛みがおさまった後、腹痛や下肢痛、息苦しさなど様々な症状がみられます。こちらも男性は50代、女性は60代の発症が多いですね。
編集部
これらの病気を予防することはできないのですか?
末定先生
大動脈解離は前触れなく、突然発症することがほとんどですが、急性心筋梗塞の約半数は発症する前に、狭心症の症状が繰り返しみられます。急ぎ足で歩く、階段を昇るなど体を動かした際に喉へ上がるような胸の痛みが数分~10分ほど続きますが、安静にすると治まります。狭心症の段階で専門病院に受診すれば、カテーテル治療により狭窄部を広げることで、心筋梗塞の発生を抑えることができます。狭心症が進むと、急性心筋梗塞を引き起こすので、この時点で治療することが大切です。
編集部
どのように予防するのですか?
末定先生
狭心症も心筋梗塞も大動脈解離も動脈硬化が主な原因です。動脈硬化は血管の老化であり誰にでも起こりますが、程度が軽ければ生涯無事に過ごせます。動脈硬化は脂質異常症の予防や治療が重要ですが、内膜の働きを低下させる高血圧、糖尿病、内膜を傷つける喫煙や睡眠不足、内膜やプラークの状態を悪化させるメタボリック症候群に集約される食生活の乱れなど、様々な生活習慣病が絡み合って進行します。日頃から健康診断を受け、できるだけ早く生活習慣病の改善を行うことが、最大の予防です。
肺や胃が原因で起こる胸の痛みも
編集部
心臓以外が原因で起こる、胸の痛みについても教えてください。
末定先生
肺が原因で起こる肺塞栓(はいそくせん)という病気も、胸の痛みを生じます。いわゆるエコノミークラス症候群ですね。足の静脈にできた血栓が肺の動脈につまってしまい、程度がひどいと息ができなくなってしまいます。程度が軽いと胸が痛いだけですが、息苦しさを伴うことがあります。左右どちらかの胸にしか、痛みがないのが特徴です。
編集部
ほかにも肺の病気はありますか?
末定先生
気胸も肺が原因で胸に痛みを感じる病気です。肺は肺胞という目に見えない位小さな風船の集まりですが、成長の過程で肺の表面に大きな風船(肺のう胞)ができることがあります。肺のう胞は弱く、明らかなきっかけがなく破れ、吸った空気が胸の中に漏れます。この時胸の痛みを生じますが、その後息苦しさや胸の重苦しさを伴うことが多くみられます。これを自然気胸といいますが、外傷によって起こったり、月経の前後に発症する月経随伴性気胸(げっけいずいはんせいききょう)など、原因は様々です。
編集部
肺以外の場所はどうですか?
末定先生
逆流性食道炎も胸の痛みを感じます。胃から酸が上がってくるのを、痛みとして感じるのです。いわゆる胸焼けですね。その他食道が食事をしていない時に痙攣する食道痙攣という病気がありますが、胃カメラでも異常がみられず、診断は難しいです。これら食道からくる胸の痛みはいずれも胸の真ん中に起こり、年齢を問いません。
編集部
先ほど”神経痛”も胸の痛みを起こすと伺いました。
末定先生
そうですね。左右どちらかの肋骨に沿って痛みが生じる、肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)があります。一瞬チクッとする痛みから数時間から数日持続する痛み、体を動かした時の痛みなど様々で、椎間板ヘルニアや圧迫骨折などが原因のこともありますが、はっきりした原因がないこともしばしばみられます。原因のある肋間神経痛の一つが帯状疱疹で、まず持続性の痛みが数日から1週間みられ、引き続いてその部位に湿疹ができ、湿疹が治った後も長期間、長い場合は数年痛みが続きます。水疱瘡のウイルスが原因で、できるだけ早く抗ウイルス薬を使うことが重要です。
自己判断せず医師の診断をうけて
編集部
では胸が痛いときは検査をして、病名を絞っていくことが多いのですね。
末定先生
はい。ただ、胸が痛いのにいくら検査をしても、なにも出ない場合があります。実はこれが一番多いのです。
編集部
病気ではないということですか?
末定先生
神経が過敏になりすぎて痛みを感じているかのように錯覚する、神経症という病気です。不安やストレスなど心因的な原因から、痛みを感じてしまうのです。気にしないことが一番なのですが、それもなかなか難しいですよね。検査をして病気ではないと安心することが必要です。それでもすぐに症状をなくすのは難しく、少し時間はかかります。
編集部
胸の痛みには色々な原因が考えられるのですね。胸が痛いときはまず何科に行くのがよいのですか?
末定先生
循環器科がいいと思います。そこで心電図やレントゲンなどを撮り、心筋梗塞と大動脈解離、肺塞栓があれば一刻も早く病院に緊急入院して治療を開始する必要があるからです。3つの病気が否定されれば、どの病気かを絞っていきます。様子を見れるかを判断するのは、患者さんではなく医師の役目です。痛みがひどい、苦しいなど感じた場合は、すぐに救急車を呼んでください。緊急を要さないときでも、放置せずに医師に診断を仰いでくださいね。
編集部まとめ
胸の痛みはすぐに命に関わるものから、経過観察になるものまで、多くの原因があるとのことでした。しかしそれを判断するのは自分ではなく、医師の役目です。「胸の痛みは命を落とす危険があり、一刻を争うこともあります。迷ったらすぐに救急車を呼んでください。医師に診てもらった上で、痛みの原因をしっかりつきとめましょう。自己判断ですまさないようにしてください」と末定先生はおっしゃっていました。
医院情報
所在地 | 〒188-0012 東京都西東京市南町5-1-8 田無クリニックモール1F |
アクセス | 西武新宿線「田無駅」より徒歩3分 |
診療科目 | 循環器内科、循環器外科、内科 |