「更年期の関節痛」が疑われる人必見 病院受診の目安や治療の流れとは?
更年期障害のひとつに関節痛があることはあまり認知されておらず、「整形外科に行ったけれど関節痛が治らない」と困っている女性も多いと思います。そんな場合は、どのような治療を検討したら良いのでしょうか? 光中央診療所の上原真琴先生に話を聞きました。
監修医師:
上原 真琴(光中央診療所)
更年期の関節痛とは? 一体なぜ起きる?
編集部
更年期に関節痛が起きることがあると聞きました。一体なぜですか?
上原先生
女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの受容体は、筋肉や腱などの関節支持組織にも分布しており、エストロゲンはそれらを柔軟に保つ働きをしています。更年期になるとエストロゲンの分泌が不安定になってしまい、関節支持組織の柔軟性が失われることで痛みやこわばりなどの関節痛が起きやすいのです。
編集部
ほかに症状はありますか?
上原先生
そのほか、エストロゲンは炎症を抑える働きもあるため、その分泌が不安定になることで腱鞘炎を起こしやすくなります。ばね指(弾発指)やドケルバン病などはその例です。また、痛みに対して過敏になる痛覚過敏の状態を招くこともあります。
編集部
具体的に、どの部位が痛むことが多いのですか?
上原先生
手指、肘、膝、腰など、様々な関節に痛みを生じることがありますが、手指のこわばり、痛みという症状が最も多いです。そのほか、全身の筋肉や関節が硬くなり、こわばりを感じることもあります。
編集部
どんなときに症状がみられるのですか?
上原先生
・朝は手指がこわばるものの、動いていると楽になる
・ずっと立っていると腰が痛い
・寝ている姿勢から立ち上がるとき全身が痛い
・動き始めるときに足をつくと、足裏が痛い
・階段を上り下りするのが辛い
・肘が痛くて荷物を持てない
編集部
症状が進行したらどうなるのですか?
上原先生
エストロゲンが減少すると軟骨の変性が進み、関節の変形が生じることもあります。その状態を変形性関節症といいます。たとえば、手指の関節の腫れや痛み、変形が第一関節に起こるものを「ヘバーデン結節」、第二関節に起こるものを「ブシャール結節」といい、これらは更年期以降の女性によくみられる症状です。
編集部
関節が変形してしまうこともあるのですね。
上原先生
特に女性はエストロゲン減少の影響で変形性関節症になりやすいのですが、親が変形性関節症だと子もその体質を受け継ぎやすいと言われています。
編集部
体質を受け継いでいる場合には、発症を予防することができるのですか?
上原先生
その場合、エクオールというサプリメントが効果的かもしれません。まだ更年期の年齢にならなくても、プレ更年期といって40代前半くらいから更年期のような症状が出てくる人もいます。その頃からエクオールを服用することで、本格的に更年期障害の症状が出ることを予防できるかもしれません。
更年期に関節痛が起きたらどうすればいい?
編集部
更年期に関節痛がみられる場合は、どうしたら良いのでしょうか?
上原先生
更年期に起きる関節痛は、いわゆる更年期障害の症状として起きるだけでなく、関節リウマチを主とした膠原病でもみられることがありますので、まずはほかの疾患の可能性を排除するためにリウマチ・膠原病を専門とするリウマチ内科を受診すると良いと思います。
編集部
その年代の関節痛には、間違われやすい疾患があるのですね。
上原先生
特に、関節リウマチと更年期の関節痛は混同されやすいですね。どちらも同じような部位が同じように痛む上に、好発年齢も似ているので非常に間違われやすいのです。しかし関節リウマチは自己免疫疾患で、関節に炎症を起こすことで関節が腫れますし、血液検査でも多くは炎症反応が上がります。関節リウマチと更年期の関節痛の大きな違いは、慢性炎症による痛みか、そうでないかです。この鑑別が非常に重要ですので、まずはリウマチ内科を受診することをおすすめします。関節リウマチと更年期に由来する関節痛とは経過も治療法も異なります。
編集部
ほかの疾患の可能性が排除され、更年期障害のひとつとして関節痛が起きていることがわかった場合には、どうしたら良いのでしょうか?
上原先生
更年期障害を扱う婦人科を受診することが基本だと思います。痛みについての相談が難しい場合は、更年期関節痛をきちんと診てくれる医療機関を探すことをおすすめします。
編集部
整形外科などで痛みを診てもらうことはできないのですか?
上原先生
局所的な痛みの場合は整形外科で診てもらうと良いでしょう。あちこちが痛むという場合は根本的にホルモンバランスを整える必要がありますので、婦人科でホルモン補充療法(HRT)を含めて相談してみてください。これは、加齢によって減少したエストロゲン(卵胞ホルモン)を補充する治療法のことです。
編集部
もし受診した婦人科が、更年期関節痛に対する治療を行っていない場合はどうしたら良いのでしょうか?
上原先生
自分から積極的に「ホルモン補充療法をお願いします」とお願いしてみましょう。ホルモン補充療法に対する考え方は医師によって異なりますが、ホルモン補充療法を積極的に行っている医療機関であれば、リウマチの可能性が排除されていることを前提に、おそらく治療をしてくれると思います。
更年期関節痛に対する治療法
編集部
更年期障害のひとつとして関節痛が生じている場合には、どのような治療が行われるのですか?
上原先生
最も有効なのはホルモン補充療法です。これにより関節痛だけでなく、ホットフラッシュや自律神経の失調症状など、更年期障害によるさまざまな症状の改善が期待できます。
編集部
ホルモンはどのようにして補充するのですか?
上原先生
製剤は貼り薬、塗り薬、飲み薬があり、その人に合わせて選択します。子宮のある人はエストロゲンだけを投与すると子宮体がんのリスクを高めるため、エストロゲンと黄体ホルモン製剤を併用します。
編集部
子宮を摘出した人の場合は?
上原先生
その場合には子宮がんの心配がないので、エストロゲン製剤だけで治療を行います。
編集部
飲み薬や貼り薬などの種類がありますが、効果は違うのですか?
上原先生
いいえ、効果は同じです。ただ、貼り薬や塗り薬など経皮的に投与する方が、副作用が少なく、また、血中濃度が安定するということがわかっています。そのため、当院では貼り薬や塗り薬を積極的に使用しています。
編集部
でも、黄体ホルモン製剤と合わせて服用しなければならない場合もあるのですよね。
上原先生
はい、子宮がある人は併用します。便利な製剤としてエストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤が一体となった貼り薬があるので、まずはそれを使うことが多いです。貼り薬ではかぶれてしまうなど不具合がある場合は、エストロゲン製剤は塗り薬、黄体ホルモン製剤は飲み薬、などその方に合った製剤を選択することになります。
編集部
ほかにはどのような治療法があるのですか?
上原先生
更年期の関節痛に対する治療法はほかにも、漢方やプラセンタ、エクオールというサプリメントも効果的です。精神的なストレスが痛みと関連していると考えられる場合にはカウンセリングを活用することもあります。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
上原先生
更年期に関節痛やこわばりが生じたら、早めに一度、医療機関を受診してほしいと思います。なぜならもしリウマチだった場合、放置することで関節の変形が進んでしまう場合があるからです。そのため、まずはリウマチを専門に診察する医療機関を受診し、更年期関節痛なのか、あるいはリウマチなのか、鑑別をしてもらってください。もしリウマチの可能性が排除されたら、更年期関節痛の治療を行いましょう。更年期関節痛はエストロゲンの分泌が揺らぐ時期が一番辛く、揺らぎがおさまって安定してくればそのうち痛みが取れるとされていますが、なかには変形性関節症に進んでしまう人もいます。またホルモン補充療法には脂質異常症や骨粗しょう症を予防する効果も期待できますから、アンチエイジングの意味合いも兼ねて治療を検討してみてください。
編集部まとめ
更年期とは閉経前後の約10年間をいいますが、その10年間、痛みを我慢し続けるのは辛いものです。人生100年時代。生き生きといつまでも元気に暮らすため、もし更年期になって関節痛や関節のこわばりが出てきたという場合には、早めに専門医の診察を受けましょう。
医院情報
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診療科目 | リハビリテーション科、内科、小児科 |