「成長ホルモン治療」の効果や副作用を医師が解説 ホルモン注射で子どもの低身長は改善される?
「思春期に身長が伸びない」などの症状で気づくことが多い成長ホルモン分泌不全症や低身長症。治療として成長ホルモン注射などがおこなわれますが、一体、どれくらいの効果が期待できるのでしょうか。また、リスクや副作用も気になるところです。「東京神田整形外科クリニック」の田邊先生に解説していただきました。
監修医師:
田邊 雄(東京神田整形外科クリニック)
目次 -INDEX-
成長ホルモン分泌不全症・低身長症などに用いられる成長ホルモン治療・ホルモン注射の効果や適応対象を医師が解説
編集部
成長ホルモン治療について教えてください。
田邊先生
簡単に言えば、成長ホルモンが正常に分泌されておらず、成長ホルモン分泌不全症や低身長症などと診断された場合に用いられる治療です。注射によって不足している成長ホルモンを補います。
編集部
成長ホルモン分泌不全症や低身長症とは、どのような疾患なのですか?
田邊先生
脳下垂体の働きが落ちることで成長ホルモンの分泌量が低下し、身長が伸びなくなるのが成長ホルモン分泌不全症です。一方で、低身長症は成長期に身長が思うように伸びない疾患のことを指します。治療が必要な低身長症に、「成長ホルモン分泌不全性低身長症」「SGA性低身長症」「ターナー症候群」などがあります。
編集部
成長ホルモンを注射することで、どのような効果が期待できるのですか?
田邊先生
成長ホルモン治療をおこなうことで、子どもの場合は身長が伸びることが期待できます。治療を始めて1年目には効果がはっきりと表れます。その後は効き目が緩やかになりますが、適切な時期に治療を始めて長い期間継続することで、適正な身長へ近づくようになるでしょう。
編集部
成長ホルモンを経口で摂取することはできないのですか?
田邊先生
成長ホルモンはタンパク質の一種で、経口で摂取すると胃腸で分解され、吸収されてしまいます。そのため、注射で補充するのが適しています。
成長ホルモン分泌不全症で成長ホルモン治療は何歳まで受けられる? 注射をする頻度や治療期間は?
編集部
成長ホルモン分泌不全症の場合、成長ホルモン治療は何歳まで受けられるのですか?
田邊先生
成長ホルモン治療は確かに身長を伸ばす治療ですが、成長がストップしてしまった大人の骨に対しては効果が期待できません。通常、成長がストップしたかどうかは骨端線の様子をみて、骨端線が閉鎖すると「成熟した大人の骨になった」と判断します。そのため、成長ホルモン治療は骨端線が閉じ、成長率が低下して成人身長になったら終了します。
編集部
成長ホルモン治療は一生涯、続けなくてもいいのですね。
田邊先生
ただし、成長ホルモン分泌不全症は、成人後に「やる気が出ない」「気力が出ない」「スタミナが不足する」「集中力が低下する」「性欲が低下する」などの症状を引き起こすことがあります。そのため、こうした症状を予防・改善するために、成長ホルモン治療を継続する場合もあります。
編集部
注射をする頻度はどれくらいですか?
田邊先生
基本的には毎日です。寝る前などに、ペン型の注射器を使って皮下注射をします。
編集部
成長ホルモン治療は何歳からおこなえるのですか?
田邊先生
現在では3歳児健診の後から、治療を開始することが多いようです。一般に、成長期が終わるまでに正常な子どもと同じくらいの身長にするには、早めの治療開始が推奨されています。もし、「成長ホルモン分泌不全症かもしれない」と思ったら、早めに医師にご相談ください。
成長ホルモン分泌不全症改善の成長ホルモン治療で知っておきたいリスクや副作用、治療費など
編集部
成長ホルモン分泌不全症に対して成長ホルモン治療をおこなう際、何かリスクはありますか?
田邊先生
本来、体内にあるべき成長ホルモンを外部から補う治療法なので、基本的にそれほどリスクはありません。ただし、場合によっては頭痛や痙攣(けいれん)、血尿、肝機能異常、耐糖能異常などが起こることもあります。その場合は、かかりつけの医師に相談しましょう。
編集部
そのほか、成長ホルモン治療にあたって気をつけることはありますか? 禁忌はあるのでしょうか?
田邊先生
定期的に検査を受けて、成長ホルモンの代謝に伴って肝臓で分泌される「IGF-1」という数値を測定する必要があります。年齢や性別を考慮して、IGF-1の値が適正であるかどうかを確認することで、補充する成長ホルモンの分量が適切かを判断します。また、悪性腫瘍がある場合には成長ホルモン治療を受けることができません。
編集部
治療費が高額と聞いたことがあります。
田邊先生
たしかに、自費で成長ホルモン治療を受けようと思ったら高額になってしまうでしょう。しかし、例えば東京都の場合、所得制限を設けた上で、小学校に入学する前の子どもは無料に、小学生から高校生までは通院1回あたりの費用を200円と設定しています。そのため、この制度を利用すれば、基本的に無料あるいは安価に治療を受けることができます。東京都以外にお住まいの場合は各都道府県の負担率によって変わりますので、お住いの自治体にご確認ください。
編集部
助成を受けることができるのですか?
田邊先生
一定の基準を満たしていれば、小児慢性特定疾病の医療費助成制度による公費負担が適用されます。ただし、男子は156.4cm、女子は145.4cmに達すると適用が終了になりますので、その点はご注意ください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
田邊先生
成長ホルモン治療で大事なのは、「注射を打ち忘れない」ということです。実際、治療を始めたのはいいけれど、途中で注射を打つのが面倒になったなどの理由で、離脱してしまう患者さんも少なくありません。しかし、成長ホルモン治療は毎日きちんと治療を継続すれば、効果が期待できます。反対に、日が空いてしまうと効果が薄れてしまうので、毎日忘れずに注射をするようにしましょう。
編集部まとめ
成長ホルモン治療は高額というイメージがありますが、実際には各自治体の助成制度や小児慢性特定疾病の医療費助成制度を利用できることもあるとのことでした。とにかく大事なのは、早期に治療を開始することです。「同じ年齢の子と比べて、子どもの成長が遅い」など不安になることがあったら、早めに専門医に相談して、必要に応じて治療を開始するようにしましょう。
医院情報
所在地 | 〒101-0044 東京都千代田区鍛冶町2-8-6 メディカルプライム神田3階 |
アクセス | JR「神田駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 整形外科 |