【闘病】幼少期の治療が原因で発症した難病「成人成長ホルモン分泌不全症」(1/2ページ)

「成人成長ホルモン分泌不全症」という病名を聞いたことがあるでしょうか。国の指定難病にも分類されている、成長ホルモンの分泌により様々な体調不良を引き起こす疾患です。これまでにどのような不調があったのか、同病気と付き合いながら生活を送る多田詩織さんに話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年1月取材。

体験者プロフィール:
多田 詩織
1995年生まれ、大阪府出身。母と姉との3人暮らし。2歳半で小児がんの一種である網膜芽細胞腫と診断され、右眼球を摘出。抗がん剤と放射線による治療を受ける。その後、小学校3年生から6年生になるまで、成長ホルモン分泌不全症によりホルモン治療を受ける。2019年に再び体調不良となり、成人成長ホルモン分泌不全症で現在も自己注射によるホルモン治療を継続中。

記事監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
なんとも言えない違和感から病気が判明した

編集部
まず成人成長ホルモン分泌不全症について教えてもらえますか?
多田さん
成人成長ホルモン分泌不全症は、成人期の成長ホルモンの分泌不全により、色々な症状を引き起こす病です。症状としては、疲れやすさや集中力の低下、うつ状態、体脂肪の増加や皮膚の乾燥、骨量の低下などがあります。
編集部
原因などは何かあるのでしょうか?
多田さん
罹患することが多いとされているのは、小児期に成長障害と診断されて成長ホルモンの治療を受けていた方や、脳の下垂体腫瘍などで治療を受けた方、小児がんの経験者、頭部に放射線を当てた方です。私も小児がんと、その後に成長ホルモンの治療を受けた経験があります。
編集部
多田さんの病気が判明した経緯について教えてください。
多田さん
始まりは2歳半のときに、目の奥の網膜にがんができる「網膜芽細胞腫」という小児がんを発症しました。その治療の影響により下垂体機能が低下し、大人になって成人成長ホルモン分泌不全症と診断されました。いわゆる晩期合併症です。症状は先ほど話した通り、私にも当てはまるものがいくつもありました。
編集部
病気が判明したときはどのような心境だったのでしょうか。
多田さん
「体調不良」とまで言えないような説明しにくい不調が続いていたので、診断名が出た時は正直に言うと、ほっとした部分があります。最初は自分でなんとか改善できないかと色々試してみても、上手くいかないことばかりでもやもやしていましたから、むしろ原因がわかって開放された気持ちでした。ただ、過去にホルモン治療を受けていたので、また同じような治療が始まること、それだけでなく経済的な不安もありました。
編集部
治療中に辛かった出来事はありましたか?
多田さん
ホルモン治療は自己注射をしなければならなかったのですが、私は注射が大の苦手で、それが大きなストレスでした。今でこそ大分スムーズにできていますが、最初の頃は何時間も葛藤して、毎日が苦痛でした。また、注射に対して周囲からはなかなか理解を得られなかったことも辛かったですね。
治療中は自分の頑張りを褒めることを大事にしていた

編集部
あらためて成人成長ホルモン分泌不全症の症状を教えてください。
多田さん
私の場合、特に感じたのは疲れやすさでした。遠出をすると何日も疲れがとれず、常に「なんとなくだるい感じ」がつきまとっていました。症状自体は急に現れたものではないので、私だけがそうなのではなく、きっとほかの人も感じているごく普通のものだと思っていました。
編集部
病気になって、生活で気を付けていることはなんでしょうか?
多田さん
まずは運動不足にならない程度に運動をすることです。そして睡眠はしっかりとるようにしています。成長ホルモンは睡眠時に多く分泌され、骨や筋肉の成長を促してくれます。日頃から運動と睡眠で体調を維持しなければ、生活の質(QOL)の低下や生活習慣病の原因となってしまうからです。
編集部
治療を続ける上で心の支えになったものはありますか?
多田さん
心の支えというと少し違うかもしれませんが、ホルモン治療で使用した注射針をペットボトルに入れていました。後で病院に持って行って回収してもらうのですが、それが一杯になるのは嬉しかったですね。達成感というか、「私はこんなに頑張ったんだ」と自分を褒めてあげられる瞬間です。