「加齢黄斑変性」だと白内障手術ができない? 眼科医が併発時の対処法を解説
目の老化現象とも言われる「白内障」と「加齢黄斑変性」。どちらも加齢に伴い発症率が高くなる疾患ですが、近年は治療技術も進化しており、治すことが可能になりました。しかし、その一方で「加齢黄斑変性の人は白内障手術ができない」という話を聞くこともあります。はたして、この説は本当なのでしょうか。今回は、2つの疾患を併発した場合はどうしたらいいのかについて、「豊明ぜんご眼科」の伊藤先生に解説していただきました。
監修医師:
伊藤 孝紀(豊明ぜんご眼科)
視力が低下する目の病気、加齢黄斑変性とは?
編集部
まず、加齢黄斑変性について教えてください。
伊藤先生
加齢黄斑変性は、AMDまたはARMDとも言われており、加齢に伴って起こる疾患です。黄斑という組織が加齢によってダメージを受けて、視力の低下を引き起こします。年齢が上がれば上がるほど発症率が高くなるのが特徴です。
編集部
黄斑とはなんですか?
伊藤先生
網膜の中心部のことを黄斑と言います。目はよくカメラに例えられますが、網膜はカメラでいうフィルムにあたり、目の中に入ってきた光を受け取る役割があります。網膜の中心部である黄斑は形や色を見分ける視細胞が密集していて、網膜の中では非常に重要な役割を果たす部位です。
編集部
加齢黄斑変性になると、どのような症状がみられるのですか? また、初期症状はあるのでしょうか?
伊藤先生
加齢黄斑変性は初期のうちから症状が起こりやすく、発見しやすい疾患です。初期症状としては、「ものが歪んで見える」「視界の中心が霞んだり暗くなったりする」「視界が欠ける」などが挙げられます。
編集部
放置すると、どのようなリスクがあるのですか?
伊藤先生
加齢黄斑変性は、進行すると視界の中心が真っ暗になって見えなくなり、視力も低下していきます。そして、やがて失明に至るリスクもあります。
加齢黄斑変性で白内障手術はできる? 加齢黄斑変性の治療法
編集部
加齢黄斑変性は、どのようにして発症するのですか?
伊藤先生
加齢黄斑変性には「萎縮型」と「滲出型」という2タイプがあります。萎縮型は加齢に伴い、黄斑の組織が萎縮してしまうのが原因です。一方、滲出型は網膜のすぐ下に「脈絡膜新生血管」という新しい血管が作られるのが原因です。この脈絡膜新生血管は、血管内皮増殖因子(VEGF)というタンパク質によって成長が活性化されます。
編集部
どのように治療するのでしょうか?
伊藤先生
萎縮型の場合、とくに治療の必要はありません。ただし、定期的に検診を受けて、滲出型に移行していないかを確認しましょう。一方の滲出型は、ほとんどの場合、新生血管を鎮静するために「抗VEGF抗体薬」を硝子体に注射して治療します。ほかにも適応は限られますが光に反応する薬剤を注射して、それが新生血管に達したタイミングで弱いレーザーを当てて新生血管を焼く方法もあります。
編集部
治療において気をつけるべきことはありますか?
伊藤先生
加齢黄斑変性はその名の通り、加齢に伴って増える疾患です。加齢とともに多くなる疾患には白内障もあり、加齢黄斑変性を同時に発症している人も少なくありません。その場合、治療に注意しなければならないこともあります。
編集部
白内障とは、どのような疾患ですか?
伊藤先生
白内障は、カメラでいうレンズの役割を担っている水晶体が加齢に伴い、濁ってくる疾患です。白内障手術ではこの濁りを除去して、目の中に取り込む光の量を改善します。
加齢黄斑変性と白内障が併発しているときの対処法・治療法
編集部
加齢黄斑変性と白内障が併発しているときは、どのように治療したらいいのでしょうか?
伊藤先生
まず前提として、医師と相談して綿密に治療計画を立てる必要があります。通常、加齢黄斑変性と白内障を同時に発症している場合は、2つの疾患に対して並行して治療を進めていくケースが多いですね。
編集部
具体的に、どのような治療がおこなわれるのですか?
伊藤先生
まず加齢黄斑変性の場合は、抗VEGF抗体治療(硝子体注射)が中心となります。一方の白内障は、主に手術治療をおこないます。
編集部
白内障の手術では、眼内レンズを入れると聞きました。
伊藤先生
そうですね。最近では、「多焦点眼内レンズ」という遠方と近方の両方にピントが合うレンズを入れる人も多くなっています。ただし、滲出型加齢黄斑変性のある人は、「単焦点眼内レンズ」を入れるのが一般的です。
編集部
なぜでしょうか?
伊藤先生
多焦点眼内レンズを入れても、黄斑に変性があると十分なメリットを享受できないからです。滲出型加齢黄斑変性は一度治しても再発しやすく、完治させることが困難な疾患です。そのため、せっかく多焦点眼内レンズを入れてもその機能をフルに活用することができないのです。したがって、単焦点眼内レンズを入れた方が、光がにじむこともなく、クリアな視界を確保できると考えるのが一般的です。
編集部
加齢黄斑変性も白内障も、同時に治療を進めることができるのですね。
伊藤先生
はい。それぞれ治療法が異なるため、基本的には、同時に治療を進めることが可能です。白内障手術と同時に抗VEGF抗体注射をおこなうことも多いですね。ただし、症状などによって治療の進め方は異なるので、詳しくはかかりつけ医にご相談ください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
伊藤先生
加齢黄斑変性は完治させることが難しく、寛解(落ち着いた状態)を目指すのが一般的です。そのため一度、滲出型の加齢黄斑変性と診断されたら、治療を終えても定期的に検診を受けて、悪化していないか確認しましょう。白内障・加齢黄斑変性ともに、60歳を境に患者数が増える傾向にあります。60代になったら目の健康を考えて、定期的に検診を受けることをおすすめします。
編集部まとめ
加齢に伴い、増えてくる目の疾患。その中でも、加齢黄斑変性や白内障は非常にメジャーな疾患です。信頼できる医師のもとで正しい治療をおこない、目の健康を長く保つようにしたいですね。そのためにも、目の異常があれば早めに眼科を受診するようにしましょう。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |